表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
防衛学園の相棒契約《エンゲージメント》  作者: 夢達磨
第1章 謎の転入生と白き戦乙姫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

第4話 レイラ・ラスターユ


「私と決闘しなさい! 透導歩夢!」


 その大声に、教室内は一瞬で静まり返った。


「結婚?」

「決闘よ! ケ・ッ・ト・ウ! なんであんたみたいな下品な男と、一国の姫である私が結婚しなきゃいけないのよ!」


「そうか、決闘か。で、決闘ってなんだ?」

「はぁぁっ!? あんた決闘も知らないわけ? 正々堂々と戦うことよ! 私はあんたに恥をかかされたんだから、今度はあんたを全校生徒の前で恥をかかせてあげるわ!」


「分かった」


「分かったって……あんた、自分の立場分かってんの?」

「お前と戦えばいいんだろ? 別に構わない」


「舐められたものね。戦闘ルールは学園ルールを適用させてもらうわ!」

「学園ルール? なんだそれは」


「そのくらいクラスメイトに教えてもらいなさい! 放課後、戦闘館でよ! いいわね!」

「分かった」


 彼女は満足げに頷くと、教室から出ていった。


「ふぇ〜、レイラさん怒ってたねー!」


 笑実が小声でつぶやく。


「あいつはなんなんだ?」


「あの方はレイラ・ラスターユさん。ラスターユ島のお姫様で、この学園の『バトルランク』の最上位、Sランクの一人なんだよ。それでね、『スターダストランサーズ』のリーダーなの! ほんと、かっこいいんだからぁ。まあ私は救済者セイヴィアだから、あんなふうにはなれないけど……」



 この学園には、『バトルランキング』 と呼ばれる制度がある。


 ランクは下から D・C・B・A・S の五段階。

 入学したばかりの生徒は全員Dランクから始まり、実戦形式のテストや決闘、任務への参加によってポイントを得て昇格していく。


 ただ強いだけではランクは上がらない。

 戦闘技術、連携力、判断力──それら総合的な能力が評価されるためだ。

 中には、単純な“強さ”だけではAランクに届かない者も多い。


 また、相棒ペアとなった二人は 同じランクとして扱われる。

 ランクの異なる者同士が組んだ場合は、低い方に統一されるのだ。


 そして頂点に立つのが Sランク。

 学園に八組しか存在しない、選ばれし実力者たちである。


 一人ひとりが国家レベルで名の知れた存在であり、重大事件の際には学園外から直々に協力要請が届くほどの影響力を持つ。


 Sランクに上がるためには、ただ強ければいいわけではない。


 仲間を導くカリスマ。

 相棒との揺るぎない信頼。

 そして、どれほどの危機に直面しても折れない精神力。


 これらすべてを備えた者のみが、

 “学園を守護する者”として Sランクの称号を得る。


 その代表格が──

 ラスターユ島の姫、レイラ・ラスターユ。


 常に三位以内を維持する常勝の戦士であり、

 生徒たちの憧れであり、同時に畏怖の対象でもあった。


 だからこそ。


 転入生が、彼女から決闘を申し込まれた と聞いた瞬間、教室は凍りついたのだ。


「レイラさんを相手にして、精神が崩れないまま帰れたら奇跡だよ……」


 ──そう囁かれるほどに、この学園でのランク差は、“絶望的な壁” として存在していた。



「そうか。なら、この学園の中でもかなりの実力者なのか。それは楽しみだ」


「いやいやいや! あの人の強さは次元が違うんだよ! 戦う前に萎えちゃって、攻撃者アセイラントから救済者セイヴィアに移る生徒がいるくらいだし!」


「へぇ、それは楽しめそうだな」


 ムヘッド先生が手を叩き、教室を静かにさせた。


「透導君、決闘は受けなくていいからね? 今日来たばかりで相棒もいないし、僕から彼女に伝えておくから」


「いえ、俺はこの勝負を受けます」


 教室中に「無茶だ」「終わった」「可哀想」などの声が漏れた。


「それで相棒って一体なんなんだ?」


 教室がざわつく。


 ムヘッド先生は驚いたように身を乗り出した。


「えっ、相棒が分からない? 中三の進路希望のときに習ったと思うんだけど……『相棒星繋式戦闘』って知ってるよね?」


「聞いたことはあるが、詳しくは知らない」


「名前は知ってるんだね。相棒星繋式戦闘は二人一組で戦う方式だよ。だから相棒が必要なんだ」


 二人一組で戦う? どんな戦闘方式なんだ。


「そもそもアセイラントとかセイヴィアってなんだ? 一人で戦うのはダメなのか?」


「ハハハーッ!」

 教室に笑い声が広がった。


「いやいや、一人で戦うなんて絵本の世界だけだよ?」


「そうそう、相棒星繋式戦闘は学園長が考えたんだよ? みんな知ってた?」


「知らなかったー!」

「学園長ってすごいんだ!」


 周囲の盛り上がりに、歩夢は眉をひそめた。


「まあ、レイラさんペアの戦闘は勉強になるからね。まず透導君はアセイラントで相棒を見つけないと。彼女と戦いたがる人はいないと思うけど……ダメ元で探してみようか」


「分かりました」


「みんなも手伝ってあげてね。それでも見つからなかったら……うん、その時は諦めよう」


「分かりました」


 放課後になり、歩夢は笑実に声をかけた。


「なぁ、片橋の相棒を借りることはできるか?」


 笑実は困ったように眉を寄せる。


「えー……どうだろ。切覇ちゃん、レイラさんに負けたばっかりだからなぁ」


「そうか。そいつは残念だったな」


「本気で探す気なら、一緒にアセイラントの教室に行ってみる?」


 歩夢は小さく頷いた。


「助かる。案内してくれ」


「任せてっ!」


笑実に案内され、歩夢はアセイラントの教室にやってきた。


「おーい! 切覇ちゃーん、ちょっといい?」


 呼びかけに応じて、紅葉色の髪を高い位置で結んだポニーテールの少女が歩み寄ってくる。


「笑実どうしたの? ……あっ! 話題の転入生じゃーん! どうしたの?」


「ども」


 歩夢は短く挨拶した。


 笑実が事情を説明する。


「さっきね、レイラさんが透導君に決闘を申し込んできたの」


「えぇ!? あの男嫌いで有名なレイラさんが!? よっぽど頭に来たんだろうね。それで、どうしたいの?」


「それで相棒を探しててね。切覇ちゃん、レイラさんにリベンジしたいと思わない?」


 切覇は露骨に首を横に振った。


「無理無理無理! 負けたばっかりなのに、またボコられるのは嫌や! 笑実の頼みでもこれは断る! ごめんな、転入生君」


「いや、大丈夫だ」


「でもさ、なんで全校集会であんなことしたの?」


「あんなことってなんだ?」


「え、あ、いや……その……下着を……」


 笑実が言い淀む横で、切覇がズバッと言う。


「笑実は、『なんでパンツをあんなところで見せたん?』って聞きたいんやろ?」


「き、切覇ちゃん! そんなストレートに言わないでよぉ!」


 笑実は顔を真っ赤にする。


「学園長にも怒られたが、みんなが集まるって言ってたから、持ち主がいると思った」


「あはは、面白い子だね転入生君。確かに手っ取り早いけど……普通は恥ずかしくて無理だよ」


「そうなのか?」

「そういうもんだよ、特に女の子はね」


 切覇は一つ息をつき、歩夢を見据える。


「まぁとにかく相棒探しやな。ウチも声かけて回るわ」


「ありがとう切覇ちゃん!」

「助かる」


 切覇は相棒のいない生徒たちに片っ端から声をかけて回った。


 結果――全員NO。


「ごめん、無理やった!」

「仕方ないよ、レイラさん相手じゃ……」


 歩夢は腕を組む。


「ずっと思ってたんだが、アセイラントとかセイヴィアってなんのことなんだ?」


「じょ、冗談よね?」

「いや、本気だと思うよ、多分……」


 笑実が説明を引き継ぐ。


「簡単に言うとね、攻撃者アセイラントは攻撃役で、救済者セイヴィアは支援役なの」


「なるほどな」


 歩夢は淡々と髪をかき上げた。


「ようは攻撃役と支援役がいればいいんだろ? なら最悪、俺がアセイラントに回ればいいだけだ」


「え? セイヴィアのクラスに来たんじゃないの?」

「知らん。学園長がセイヴィアを学べと言った」


「ということは……将来的にアセイラントになる可能性も?」

「それも知らん。俺は利用価値がある限り、学園長の指示に従うだけだ」


「そっか……。透導君が良かったらわた……いや、なんでもない」

「そうか」


 切覇はニヤニヤしながら笑実に耳打ちする。


「笑実〜? “わた……”って言いかけてたやん? ウチというものがありながら〜?」

「言ってないっ! 力になりたいだけだもん!」


「ふーん? 浮気やん?」

「浮気じゃないからっ!」


「どうした?」

「なんでもないよっ!」


 笑実は無理やり話を戻した。


「じゃあ、一度クラスに戻って他にも声かけてみよう!」


「あぁ。片斬、時間を取らせたな」

「いいよ〜! 笑実をよろしくね〜」

「だから違うってば!」


 教室へ向かう途中、一人の少女が歩いてくる。


「あっ、クリアちゃん! 学園長に呼ばれてたの?」


「はい。その帰りです」


 歩夢の隣の席の少女――クリアだが、歩夢は気づかない。


「クリアちゃん、相棒決まった?」

「いえ、まだです」


「だってさ」と笑実は歩夢を見る。


 歩夢が近づくと、クリアは笑実の後ろに隠れた。


「ごめんね、クリアちゃん人見知り激しいから……隣の席だから知ってるよね?」


「いや、知らん。覚えてない」


「えぇ……」


 笑実は苦笑いする。


「ねぇクリアちゃん、透導君と隣の席だし、セイヴィアとして力を貸してくれないかな?」


 クリアは小さく首を振った。


「む、無理ですよ……私。戦い方も覚えてませんし、迷惑になります」


「いや、何もしなくていい。俺はその、相棒なんとか戦闘とやらを知らん。あいつと戦えればそれでいい」


「で、でも、それだと不利です……」


「不利とか有利とか知らん。俺が負けたら、ここで学ぶ価値があるってことだ。だから、お前は何もしなくていい」


「ほ、本当に役に立ちませんよ?」

「構わん。元々一人で戦うつもりだ。よし、行くぞ」


「えっ!? ちょ、ちょっと!?」


 歩夢はクリアの手をつかみ、そのまま歩き出した。


「ちょっとー! 透導君! 女の子に乱暴しちゃダメだよーっ! あだっ」


 急に立ち止まった歩夢に、笑実がぶつかる。


「急にどうしたの?」

「片橋、戦闘館ってどこだ?」


「あはは……案内するね」


 三人は戦闘館へと向かった。



 その時、校内放送が響き渡った。


『放課後、戦闘館にて。Sランク・レイラ・ラスターユ様とCランク転入生・透導歩夢による特別エキシビションマッチを実施します』


 その瞬間、学園中がざわめきに包まれた。


 観戦を希望する生徒は、開始時刻までに戦闘館へ集合してください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ