とんでもストーカー野郎 ヤロマン
その日も、ドクロは敵を倒した。
山奥で盗みを繰り返していた盗賊を軽くひねってやったのだ。
既に戦いが終わったところから今回の話は始まる。
「はー、もう、村を襲撃する体力あるなら真面目に働きなさいよ…」
面倒そうに両手を叩き合わせるドクロ。
名も無い小さな村の、小さな広場。
ドクロに殴り倒された盗賊達は、井戸にもたれていたり、屋根に飛ばされていたり、地面に頭からめり込んでいたり…どいつもこいつも情けない姿を晒してしまっていた。
ましてや相手が若い娘となると、彼らのプライドがどれだけ傷ついたかは想像に難くない。
背を向けて去っていくドクロ。坂道を下っていく彼女の後ろ姿を、一人だけ異様な目つきで睨む盗賊がいた。
「…許さねえぞ…ガキが…」
ドクロの下山の足取りは軽やかだった。
何故なら、今日は新作スイーツの発売日なのだ。午前十時に開店するその店…客が殺到する事だろう。
現在時刻は午前八時…早起きして、討伐依頼が来ていた盗賊を適当さばき、目当てであるスイーツにありつける…それが本日の彼女の目的。
だが彼女は気づいてない…相当面倒な相手をしばいてしまった事に。
「おいガキァ!!」
細い山道。左右の茂みが大きく揺れ動き、怒号が叩き込まれた。
流石に驚いて足を止める。
現れたのは…黒いヘルメットを被った一人の男。先程鎮圧した盗賊の一人だ。
「ボコボコにしやがって…。俺を伝説のストーカー野郎、ヤロマンと知っての行いだろうな…」
「は?」
面倒臭そうに返事し、再び足を動かし始めるドクロ。そんな彼女に、ヤロマンと名乗る盗賊は剣を取り出し…。
「俺は、俺を負かした獲物は逃さないと決めてるんだ。テメェも今、俺の獲物になったんだぜ」
「…そこは狙った獲物は逃さない、じゃないの?」
ドクロのツッコミにも応じず、ヤロマンは飛び上がる。剣を振りかざし、木々の隙間から差し込めた陽光が、レーザーのように細く刃へ照射される。
剣は振り下ろされ、ドクロの額を狙うが…。
「うざいっ!!」
ドクロは即座に足を振り上げ、剣の僅かな死角へ打ち込んだ。瞬時にひび割れ、バラバラに砕ける剣。驚いた顔のヤロマンの顔目掛けて、ドクロは拳を打ち込んだ!
ヤロマンは吹き飛ばされ、背中から地面に落ちる。
葉が散る。そして衝撃音。今度は確実に気絶させた。
「はあ、やれやれ」
両手を叩き合わせると、ドクロは下山に戻る。
…が。
「逃さねえ…ぞお…」
悪寒が滑り込み、背筋を伸ばす。
…ヤロマンは、一瞬で立ち上がっていた。
気絶させたはずだった。まるで気を失っている時間をすっ飛ばしたように、本当に一瞬で起き上がってのだ。
「げひ、へひひひ…おまえを…おまえを…倒す…」
「きゃーーっ!!」
もはや言葉にならぬ悲鳴。ドクロはヤロマンに自ら接近し、再び拳を叩き込む!
近くの木目掛けて吹き飛ばされ、叩きつけられる彼を見るなり、背を向けて走り出した。
石や、泥濘む泥の上でも止まらず、ひたすら距離を離していく…。
随分長い時間が経ったような気がした…。
ドクロの足の速さであれば、下山には五分とかからなかった。それでもあのストーカー野郎に目をつけられた今、恐怖心が時間の感覚を狂わせている。何十分も走ったようで、膝に手をやり息を切らしていた。
「はあはあ…あ、あいつ、·流石に追ってこない…わよね?」
「甘いな…」
…そう、甘かった。
呼吸を整えようとする彼女に容赦なく声をかけたのは…今まさに通ってきた山道を、草や泥にまみれた顔で進む…ヤロマンだった!
「げひ…へひ…おまえを…たおす…」
「ぎゃああああ!!!」
またもや足に負荷をかける羽目となる。ドクロは駆け出した。
テクニカルシティへ…スイーツ店目指して。恐怖の中でも、本来の目的は見失わない。
ヤロマンどころか、山そのものから離れるような勢いで、彼女は逃げた。
逃げて逃げて…やがて、見慣れた白い建物群が現れ始める。
「て、テクニカルシティ…!」
涙するような感情が、胸を満たす。
…テクニカルシティの噴水広場。
そこは多くの人々で賑わっていた。
理由はもはや言うまでもない。例の新作スイーツが、日々の告知もあってここまでの人だかりを集めていたのだった。
店の前に並ぶ行列が見える。
どう見ても二十人以上は並んでいる。
「ああー、盗賊なんかの相手してたらもうこんなに並んじゃってる!」
頭を抱えつつもしっかり最後尾に並ぶドクロ。ここまでの人数が待ち構えられてる店側も中々のプレッシャーだろう。
待ってこそ、スイーツの味は極上となる。
ドクロは待つ。ひたすらに。
それから…。
「ようやく進んできた…」
ほっ、と肩の力を抜き始めるドクロ。行列はようやく縮まり、ドクロの横にショーウインドウが並ぶくらいに進んできた。
そこから覗き込む、堂々と宣伝された、チョコレートの上に苺を乗せた孤高のスイーツ。見れば見るほど食欲を抑えられなくなる。
笑みを堪えつつ、ドクロは目をそらし、ふと体を傾けて行列の前方に目を通す。
「え」
ヒヤリとした。
前方の方から…何かが迫ってくる。
明らかにこの行列目掛けて突っ込んでくる大柄な人影。それには、あまりにも見覚えがありすぎた。
いや、もはや見覚えなどというレベルではない。
「や、ヤロマンっ…」
両の拳を胸の前で握りしめ、ドクロは目をつり上げる。戦闘態勢そのものだが、今この場で戦う訳にはいかない。
折角マナーを守って並んでいる皆を蹴散らしかねないからだ。こんなイカれたストーカー野郎の為に、スイーツを無駄にできない。
「追い詰めたぞお、ガキいいいい!!!このヤロマン…貴様をどこまでも追い詰めて…」
彼が喋っているまさにその時だった…。
「ぐおっ!!!」
ヤロマンの頭部に痛みが走り、そのまま倒れてしまう。
「…な、なんだ、この痛みは!!ぐおおおおおおおいてええええ!!」
悶絶するヤロマン。
彼に歩み寄るのは、特徴的な緑のサイドテールヘアーの女性…葵だった!
彼女の片手にはサイレンサー付きハンドガン…これでヤロマンを撃ったのだ。
彼女は膝をつき、暴れるヤロマンの顔に銃口を突きつける。
「うるさいわよ。次、またドクロちゃんにストーカーしたら…顔面をぶち抜く」
「ぎゃへえええええ!!!」
彼は奇声をあげながら立ち上がり、立った勢いで今度はうつ伏せに倒れ、慌てて起き上がって走り出すという、何とも忙しい動きで逃げていった。
一部始終を見ていた人々はポカンとしていたが…日々モンスターやら闇姫やらでトラブルには慣れている者ばかり。この時も大して言及せず、行列を保っていた。
「…良かった、葵が来てくれて…」
胸を撫でおろすとは、まさにこの事。
その後、ドクロは無事にスイーツにありつける事ができた。
…その夜。
「お兄ちゃん、風呂入るねー」
「おう」
視線を合わす事もなく、ドクロは兄に適当に声をかけ、風呂場へ向かっていた。
山登りに、行列。何よりストーカー。
なんと混沌とした一日だったろうか。
披露に満ちた体を湯に投じ、体の髄まで温める必要がありそうだ。
「正義の味方も大変だわ…」
タオル片手に浴槽の扉を開けると…。
「待っていたぞ……」
…湯船に浸かるヤロマンの姿があった。
「きゃあああああああ!!!!!!」
その日、テクニカルシティには地上から天へ向かって飛んでいく謎の流星が確認されたという…。




