なんか隕石降ってきた ベニセキン
闇姫はその日、ある山奥へやってきた。
人間界のどこかにある名も無き山。彼女の横には、一体の従者がフワリと飛んでいた。
つり上がった黄色い目がついた球体から四本の腕が生えた球体型の黒い生物…。身体は小さく、お世辞にもあまり強そうには見えない。
彼の名はバッディー。
以前闇姫の隣に現れたあの紫の球体型の生物…デビルマルマンと同じく、闇姫軍トップの実力を持つ戦士の一人。
こう見えて…もはやどう見てもそうは見えないが…魔王だ。
魔王と言えば筋骨逞しい体格、黒いマント、鋭い爪や角。
そしてこの場にいるのは、四本の腕が生えたただのボール型の生命体。
世界とは不思議なものだった。
「闇姫様、こんな山奥にやつがいるんですか?」
「何回も言わせるな。そうだと言ってるだろ。ほら、あの野郎だ」
白い霧が立ち込める場所に辿り着き、指を差す闇姫。バッディーも釣られるように目を向ける。
深い霧の向こう側…そこに、僅かに赤い何が見える。岩のようにゴツゴツとした質感…。
頭部が、クレーターだらけの赤い岩石型になっており、胴体も岩のような物に覆われている。猫背で、どこか無気力な立ち振る舞い…。
「ベニセキン。テクニカルシティを破壊しろ」
「御意」
ベニセキンと呼ばれたモンスターは頷くように一礼。声も無機質で、何だか不気味な印象を受ける。こんな場所にいる時点で不気味だが。
ベニセキンは近くの適当な広場に移動し、何やらおかしな動きを始めた。頭部の岩石部分を震わせ、同時に全身を震わせ…。
地上を振動しているようだ。
バッディーは四本腕をそれぞれ組み、闇姫に聞く。
「あいつ何してるんです?」
闇姫は語る。
「ベニセキンは隕石と同じ物質で出来たモンスターだ。やつは宇宙へ脳波を送る事ができる…今まさに、やつはその脳波を送ってる最中だ」
空を見上げる闇姫。彼女の顔は無表情ながらも、何かを期待しているようだった。バッディーもそれに釣られ、霧の中から曇り空に視線をやる。
…白い雲の間に、何か妙な物が見え始めた。
「え」
空の果てで赤く発光し、大気圏内を無理やり突き進むようなその光…。
それは…炎に包まれた隕石だった。
「ええっ!」
バッディーは驚きの声をあげる。逆に言えば、あんな物が地球目指して進んでいる状況下で出るとは思えない程に落ち着いた声だった。やはり魔王、この程度で大きな反応は見せない。
先程からの闇姫の言葉から察するに…あの隕石はテクニカルシティ目掛けて落下しているのだろう。
「闇姫様、こんなん第六話で出して良いキャラじゃありませんよ?」
何だかよく分からない事を言いながら隕石を眺めるバッディーを横目に、闇姫はベニセキンを見つめた。ベニセキンの無機質な佇まいは、尚も変わらない。
そして、テクニカルシティでは…。
事務所にて、その隕石のニュースが早くも報道されていた。
「爆速ニュースの時間です!えー、数分前、大気圏外に謎の巨大隕石が確認された…との事です!軌道、速度、大きさから推定される着弾地点は…テクニカルシティです!」
一斉に立ち上がるワンダーズ。
白昼堂々、隕石騒動。つい先程まで皆で雑談を楽しみ、スゴロクでも始めようかと考えていたところでこれだった。
「やばい!このままじゃテクニカルシティが壊滅する!」
今まで戦い続けてきた分、こんな突然の出来事もすんなり受け入れ、全力で危機感を覚えるれな。何というか、流石だった。
葵が、壁に飾ってあったライフルを手に取る。彼女はワンダーズの中でも特段冷静…れなとは違う意味で飲み込みが早い。
「何でいきなり隕石が降ってきたのか分からないけど、まあ良いわ。とにかくテクニカルシティを守るわよ!」
リーダーシップ溢れるその様子。頼もしい事この上ない。
全員が一斉に全身を研ぎ澄まし、力を発揮する。玄関へと直行し、戦いの準備は万端だ。
木製の匂いが立ち込める見えない大気の壁を通り抜け、玄関を通り、外へと飛び出す。
空を見上げると…そこには既に、周囲の空間をも赤く染め上げる禍々しい隕石の姿が見えていた。
「くっ、近いな…」
粉砕男が腕で顔を覆いつつも、隕石をしっかりと睨んでいた。その言葉通り、既に隕石は大気圏から抜け出そうとしているようだ。これ以上の接近を許せば、着弾を免れたとしても地上に何かしらの被害が及ぶだろう。
街の人々はあちこちに走り出す。その様は…散らされていく蜘蛛の子。
無機物である隕石は知的生命の人間を蜘蛛の子に変える程の力を持っていた。
そんな脅威にたった今立ち向かおうとしているのが…ワンダーズだ。
葵は皆の前に出て、ライフル片手に指示を出していく。
「よし、まずはドクロちゃんとテリーが隕石を魔力で拘束して勢いを緩める。そしてその隙にラオンが」
「突撃いいいい!!!」
…指示の途中だというのに、いきなり飛び出した一人の人物…!
誰あろう、れなだった。
地上の草を散らしながら隕石へとまっすぐ、文字通り[突撃]していく彼女。ロケットの如く隕石へと突っ込んでいく。
葵は…額に手をやった。
れなのマイペースぶりにはつくづく苦労させられる…。
れなは風を裂き、まっすぐに隕石へと直進していく。膨大なエネルギーの塊に何一つ迷いなく接近し、拳を構える…。
「これが一番だ!ぶっ壊れろやぁ!!」
飛行速度と同等、あるいはそれ以上の速さで拳を振り上げる!その拳は隕石の炎を貫き、岩壁に深くめり込む。
…空に沈黙が走る。
亀裂が刻まれる音がした。
その音は少しずつ広がっていき…。
「あー、一人でやっちまった」
れみの一言を皮切りに、隕石がひび割れ…粉々になってしまった。
「やったどー!!」
無数に降り注ぐ隕石の欠片の中、れなは右腕を振り上げてポーズをとっていた。
全員で何とかする予定だったのに、結局れな一人で破壊できてしまった。
…が、全て完璧とは言えなかったようで。
「ぎゃあー!!破片が降り注ぐぞー!!」
人々が頭を抱えて悲鳴を上げていた。
…粉々になった隕石の断片が降り注ぎ、家々に直撃。これはこれで大惨事と化したのだった。
結局、闇姫の勝ちなのだろうか。




