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眼鏡ズレ武道家 その名もぉーーメガズレ

テクニカルシティの目立たない住宅地にひっそり佇む施設があった。


そこは…実に一般的な構造の建物。内装も外装も、一般家庭のそれに近い、ごく普通の施設に見える。


だが、ここに住むのは普通の存在ではない。

彼らは不思議な存在…ワンダーズ。


「皆お疲れ様」

ソファーに腰掛けた、緑の髪、緑のワンピースの女性が優しく声をかけた。その髪は左部分だけ長く、特徴的な見た目をしている。いわゆるサイドテールヘアーだ。


彼女の目の前には、多くの人物達が異なる姿勢でソファーに腰掛けていた。

黄色いツインテールの少女れなと、よく似てるが幼い印象を受けるれみ、白いバードテールに赤い瞳のドクロ、骸骨男のテリー。

紫の長髪の、不機嫌そうな表情の少女ラオンに、色黒の大男、粉砕男。


「お疲れのところ悪いけど、今日も依頼が来たわよ」

葵は片手で一枚の紙を見せた。


彼らワンダーズ、この事務所を拠点に、日々人々から寄せられる様々な依頼をこなして活動しているのだ。今回もまた、風変わりな依頼が来たらしい。


今回は…テクニカルシティの片隅、ある道場からの依頼だった。

と言っても門下生を集めてほしいとか、そういうありきたりなものではないらしい。

そこの武道家の一人、メガズレのある修行に付き合ってほしい…との事。






その道場は、ワンダーズの事務所にも負けず劣らず目立たぬ場所にポツンと聳えていた。人通りは少なく、電柱と街樹が少し立っているだけ、という殺風景な場所。あまりに人が少ないので、近づくのも思わず躊躇してしまう程だ。

今回やってきたのは、れなと粉砕男。彼らはワンダーズの中でも特に格闘が得意。武道家相手なら、この二人が一番だ。


道場横に備え付けられていたインターホンを鳴らす粉砕男。

寂しい風が、年季を帯びた建物を撫でて僅かな埃を纏い、二人の顔の前を通り過ぎていく。静かな時間が挟まれた。


「…ようこそいらっしゃいました!」


木製の扉が開き…一人の男が現れる。

気の良さそうな、眼鏡をかけた人物だった。

彼こそがメガズレ。今回の依頼人であり…プロの格闘家だという。


この道場は正直見た目もパッとしなければ、内装も特徴がない。どこにでもあるような道場といった所で、広々としたスペースがあるのみ。木目模様の床は毎日雑巾がけされてるのがよく分かるテカリ具合。掃除はきちんとされているが故に、何だか単純さが目立ってしまう。


それはそうと、メガズレは早速構えをとっていた。目の前には同じように構えるれな。

本日のメイン、修行…及び組手だ。

これよりも前、メガズレはれな達に茶を振る舞ってくれたが、それらを飲み干すより前に道場の闘技スペースへと案内した。どうやら余程修行をつけてほしかったらしい。


粉砕男は両者を見渡し、正座している。

れなの構えは見慣れている。

両手を胸の高さに添え、視線はまっすぐに合わせ、足を踏み込む。…単純ながらバランスの良い、れならしい構え。

メガズレの構えも似ているが、少し腰を落とし、下半身の筋肉をあえて圧迫してるように見える。細身な体格によらぬ力強さを感じさせる。


「…では、開始!」

粉砕男が右手を振り上げる、

れなとメガズレ、同時に戦闘開始。足が同時に離れるが、とっていた構えの僅かな違いではじめの一手も異なっていた。

れなはメガズレの胸元へ、素早く拳を突き出していく。速さに重視した一直線の一撃。

対してメガズレは足先に力を込めて床を蹴り、上半身を勢いよく突き出し、その勢いに拳も乗せる。力強い一撃だ。

初撃は…れなの拳が先だった。メガズレの胸元に当たり、じわりと痛みを味合わせる。

すかさずメガズレは彼女の手を払い、距離を離す。

そして…足の長さでは自身が有利と見たのだろう、今度は蹴りを仕掛け、れなの身体にぶつける。

(くっ…結構強い!)

れなはすぐに立て直す。黄色のツインテールをたなびかせ、次の攻撃に移ろうとした…。


その時。

突如メガズレの動きが止まる。




「ん?」

れなの動きも思わず止まる。粉砕男もまた、止まる。




「…これが俺の弱点なんだ」

聞かれるでもなく、メガズレは呟いた。



彼の眼鏡が、ずれていた。

そこまで劇的に位置が変わってる訳ではないが、中途半端な低さまで下がってる。その目は困り果て…いや、困りすら通り過ぎ、泣きそうな目をしていた。

この弱点に悩まされ続けている事があまりにも見て取れる目だった。



彼の弱点、眼鏡がずれる事。

強い相手と戦ってる時も眼鏡がずれ、視界がぼやけ、その隙に攻撃される…などという事故は数え切れない程に起きてきたという。

眼鏡のサイズを変えてみたり、耳にテープを貼って固定しようとしたり…色々試したが、呪いでも受けてるのかことごとく失敗。今ではこのズレを前提とした上で戦ってるらしい。

道場の隅にて、れなはあぐらをかいてメガズレの肩に手を乗せていた。

「そういう事だったのか。アタシ眼鏡かけてないから分からんけど、大変だったね…」

れななりの同情を見せる。メガズレは尚も床に視線を落としている。

本当に悩み続けてる様子だ…。

「この弱点さえなければ。何度もそう感じたよ…」

眼鏡をかけてるのは視力が低いから。

激しい動きをすれば眼鏡はずれてしまう。そして敵に隙を晒す。

隙を無くす為の眼鏡のせいで隙ができる。本末転倒とはこの事だ。

れなは顎に指を添え、うーんと考えむ。この気の毒な格闘家を救うには…?



「コンタクトにすれば良いんじゃないか…」

…解決に導いたのは、粉砕男の一言だった。



『それだ!!!!」』

れなとメガズレは、声を揃える。


それからメガズレは…コンタクトレンズを購入し、以来、これをつけて戦闘を続行した。

おかげで視界は安定。その格闘能力を惜しみなく使いこなせるようになったという。




「本当にありがとう…!君たちに依頼して本当に良かったよ!」

数日後、メガズレは事務所に直接足を運び、札束まで払いに来た。その札束を握る手にすら震えが交じり、彼がどれだけ長い間悩み続けてきたのかが鮮明に伝わる。


ただ一言提案しただけなのに、ここまで感謝されるとは…。


粉砕男も、正直複雑だった…。

ともあれ、やはり人助けは気持ちのいいものだった。











尚、その後。

メガズレはコンタクトレンズに変えた訳だが、眼鏡をかけてない姿に違和感しかないという事で、半ば強制的に眼鏡に戻されたのだという…。


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