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ソクプラ

荒れ果てた荒野に、のし歩く巨影があった。


船と同等のサイズ、しかしその表面は岩のような外殻で包まれている。

重厚感あるその体を支えるのは…緑色の細長い蔦だ。どう見ても体を支えられるようなものではなく、それ以前に物体を支えるような質量自体が備わっていない。にも関わらず、その立ち姿はあまりに安定しており、乱れ一つない動きでその歪かつ巨大な体を動かしている。


この世界の各地で度々目撃されるこのモンスターは、地球の生命体ではない。

地球ではソクプラと呼ばれている、地球外生命体、宇宙からの来訪者だ。

時折、大気圏内に侵入してきた高度な宇宙人が惑星に落としてくる存在。

特徴的な蔦の足には地表の成分を採集する性質があり、惑星の成分を纏わせたこの足が、宇宙人達の惑星調査のサンプルになるという。

送り込んだ宇宙人の目的が単なる調査止まりか、それとも侵略か…それは謎だが、勝手に惑星にこんなものを落とす辺り、ロクな相手ではないはず。


彼らを怪しみ、不安を抱える者達は多い。


現在、崖の上から彼らを見守る三人…葵、ドクロ、ラオン、粉砕男の三人もそうだった。


「あいつ、一体何なのかしらね」

念には念をと、葵がライフルのセーフティを解除しつつも、まだソクプラへの敵意はなかった。ただ、僅かな警戒心だけはある。

一触即発の戦場の匂いが、場を支配していた。

いくら怪しくても、相手はまだ何も行動に出ていない。かといって相手が何かをしてからでは遅い。

「皆、気をつけて。相手は宇宙生物よ。地球の生き物以上に底が見えないわ…」

「分かってるっつーの」

ラオンはナイフを縦に構え、遠方のソクプラと重ね合わせて舌を出してみせる。

狙いは間違いなく、あの蔦の足だろう。あくまで戦闘が始まったらの話だと理解はしているようだが、それでも彼女には、あの切り甲斐がありそうな足は魅力的に見えているらしい。


ソクプラは依然としてゆったりとした歩みを見せている。目的があるのかないのか、そもそも生物にすら見えないその異形。戦闘経験のない一般人にはより歪な姿に見える事だろう。


…その時。ソクプラが動きを見せた。

「あっ…動き出したわよ」

今の今まで粉砕男ばかり見ていたドクロが、ふと人差し指を向ける。


動いたのはソクプラの蔦の足だ。

ひたすら前進を続けていたその足が、急に立ち止まる。

そして…乾燥しきった岩石の地面を、蔦の腕で啜り始めたのだ。

その動きは、何かを調べているようにも見える…。

「…どうやらこのあたりの情報を回収してるらしいな」

粉砕男は背中を丸め、ソクプラの動きから一瞬たりとも目を離すまいと観察する。


こちらへ意識を集中させているワンダーズには最早見向きもせず、ソクプラはひたすら地面を擦り…風にさらわれてきた土砂で緑の蔦を汚していく。


そして…地面の僅かな隙間を発見すると、そこへ蔦を突き刺した!

データ回収の動作だ。地球の成分をその足に取り込み、生体サンプルとして仕上げようとしているのだ。

だが、まだ敵と決まった訳では無い。もっと明確な動作を目に収める必要があった…。



…と、全員の脳が集中に集中を重ねていたタイミングだった。


急速な熱源が、全員がいる崖へと直進してきたのだ。

「…伏せて!」

葵がその方向へライフルを撃ち放つ。集中していたおかげで、未知の攻撃の方向や速度すらも容易に察知できたのだ。

頑強な弾丸が、天を突く。

弾に押しのけられた敵の攻撃が空中に分散され、赤い閃光となって散らばる。


上空に現れたのは…鋼鉄の戦艦だった。

戦艦と言っても、地球の戦艦と比べるとかなり小型だ。惑星侵略の為の尖兵、あるいはソクプラを護衛する部隊か…。

それが、赤い魔力光線をこちらに撃ってきたのだ。


「思いっっっきり敵だな、あれ」

「そうね」

粉砕男と葵のため息混じりの声は、遮られることも無く荒野の大気へと溶け込んでいく。


戦艦は容赦なく、無数の赤い光線を撒き散らしてくる。凸凹した岩石の上でも、華麗に回避していく四人。攻撃の速度はそこまで速くもないが、遅くもない。時折葵がライフルで撃ち抜き、ラオンがナイフで切り払い、防いでいく。

攻撃のチャンスを見定めるべく、四人はひとまず隠れる事にした。

「…あそこに行くぞ!」

手頃な大きさの岩石を発見した粉砕男。無意識に近くにいたドクロの手を取り、彼女を赤面させ、体温を上げさせ…。

「ぎゃああっ!」

汚い悲鳴と同時に顔面が炎上。白い髪が逆立ち、彼女の並々ならぬ興奮を物語る。

照れすぎたドクロが燃える事はよくある事だった。三人は特に気にせず彼女の頭を払って火を消すと、岩陰の暗がりへと素早く身を投じる。



戦艦は相変わらず光線を撃ち続けているものの、どうやらこちらを見失ってるようだ。荒野は更に荒れていく。

問題はソクプラだ。やつはまだ地表から情報を収集しているだろう。もしも土壌から読み取った成分から地球の弱点でも見抜かれれば…。

「隠れるのは性に合わねーよ。さっさとあいつの足を切り落としてやろうぜ」

待ち切れないと言った様子のラオンは岩に刃を掻き立てながら視線だけを外に向けている。

だがこれだけの攻撃量。ソクプラの足に集中してる間に撃たれる危険性も視野に入れなくてはならない。葵はライフルをラオンの顔の前に突き出し、下手に動くなと彼女を制する。

何とかここからソクプラを妨害できないものだろうか…?


「…!そうだ。良い事を考えたぜ!」

粉砕男の大きな声が、狭い空間に反響する。気を失いかけてるドクロ以外が、思わずビクリと肩をあげる。


彼は、すまん、とばかりに片手を上げながらも、もう片方の手は地面に添えている。

「粉砕男?一体何をする気なの?」

「少しばかり原始的だが、効果はあるはずだ!」


粉砕男は両手を高速で動かし、硬い岩盤を抉り、地面を掘り始めた!

土と硬い岩の破片が視界の隅に流れ飛ぶ中、ラオンと葵は顔を見合わせる。彼が何をしようとしているのか、一瞬分からなかったのだが…それも一瞬の事だった。


彼の意図を理解できた頃には、あの大きな体は地面の中へと消えていた。



戦艦が、所構わず光線を撃ち、地上を無差別的に荒らし続ける中、地表に幾つもの亀裂が生じ始める。戦艦の宇宙人達は、自分たちの破壊行為によってできた亀裂だろうと、気にかけていないようだ。

次々形成される新しい亀裂。それは、ソクプラの足元で止まり…。


地中で、彼は作戦に出ていた。


地上から差し込まれている緑の蔦。それを、彼…粉砕男が引っ張り上げ、自身の体に当てていた。

(さあどうだ…!)

あくまで地中の一部と思わせるべく、彼は息を潜め、絶妙な力加減でそれを握り続ける。真面目なソクプラは、特に変わらず調査を継続し続けている。



そして…恐らく十五分後。



ソクプラの足が地面から引き抜かれ、土ぼこりを軽く払う。地中の成分を取り込み、纏わせた蔦だが、差し込む前と何ら変わらないように見える。

その時、あれほど暴れていた戦艦がピタリと砲撃を停止し、装甲の一部が展開、中から何かが飛び出してくる。

丸い形状に大きな窓。全体的に簡素な形状をしている。白銀の装甲に覆われていた戦艦とは打って代わり、どこかポップなカラーリングだった。

ガラス窓の向こうには…灰色の肌の宇宙人二人が搭乗している。窪んだ目に長い後頭部、異様に細長い体型…まさに典型的な宇宙人と言った風貌だ。

タクシー程の大きさであろうその宇宙船はソクプラの足の前に降りてくる。

ガラス窓が開き、彼らは片手で持てるくらいの小型の機械を蔦の足に当て、調査を開始する。

てっきり母星に帰ってからこういった作業をするものだと思われていたが、どうやら現地調査らしい。

敵がすぐそこにいるというのに、呑気なものだった。力付くでの犯行も多い辺り、侵略に慣れていないのだろうか。

「よーし。採集は成功したようだな。では、早速…」

何故か地球語で話し始める宇宙人。

恐らく手元の機械でソクプラが集めてきた地球成分を解析しているのだろう。


「…ぐえ!?何だこれ!?」



どうやら粉砕男の作戦は成功したようだ。

宇宙人の一人が機械を投げ出さんばかりに振り上げ、そこに表示されたデータに目を丸め、青い血管が瞳に走る。

「マッチョの血と汗の結晶ばかり入ってるじゃねえか!!なんで!?なんで地中から採取したのにこんなのが採れるんだ!?まさか地球はマッチョの星…」


「その通りだ!!地球を舐めるなよ!」

地面が砕け、その下から現れる大男!


作戦を成功させ、戦艦の動きを止めた粉砕男は、空中で一回転。より勢いをつけて宇宙船へと蹴りを仕掛けた!

グシャリ、と嫌な音をたてて、宇宙船は瞬時にスクラップへと変わる。

宇宙人達は一気に狭くなった操縦席で、最早驚きの声すら上げられないようだ。

「今よ、ラオン!」

「待ってました!」

隠れていた岩に紫の光が走り、砕け散る。そこから飛び出したラオンはナイフを手に、ターゲットへと距離を詰めていく。

彼女の狙いは、あのソクプラの足…。



…ではなく、空中の戦艦だった。

本来、素材の硬度で勝ち目がないはずの戦艦に、銀の刃が容易に突き立てられる。深く食い込んだ刃は装甲を抉り、破片と火花を散らしながら、走るように亀裂を描いていく。ラオンのエネルギーが、ナイフをより強靭なものへと変質させていた。

戦艦は一気に切り裂かれ、一際大きなショート音を鳴らしながら落下していく。

空中に飛散する火花を目で追いながら、葵はライフルを下げる。

「さすがラオン。ちゃんとソクプラに考慮したのね…」

何だかんだで、ラオンも情があるのだ。

表向きでこそソクプラの足を切ろうなどとは言っていたが、内心では他の物で代用しようと考えていたのかもしれない。そんな時に丁度いい巨大な的…戦艦が現れたのだ。



宇宙人達は炎上する戦艦を前に、潰れた宇宙船に乗ったまま慌てて逃げていく。戦艦本体からも、脱出ポットが上昇していくのが見えた。

宇宙人は一応全員無事。地球は想像以上に危険で、手を出せない星だと思い込ませられればそれで良い。


しかし、ソクプラだけは取り残されてしまった。目の前で主達の戦艦が墜落しても、無機物のように棒立ちしている。


四人(ドクロは失神しているので粉砕男に抱えられてる)は、ソクプラの前に集まり、この謎の生物をどうするかを考え込む。

テクニカルシティへ誘導し、研究所にでも貢献してもらうか、それとも自然の生物として解き放つか…。

だが宇宙生物を人間に任せるのは少々危うい。自然に放てば、生態系に何を及ぼすかも分からない。どちらもリスクつきだ。

そこで…ラオンが第三のアイデアを出す。

「…そうだ。闇姫のもとなら良いんじゃね?」

粉砕男と葵の表情が一瞬強張ったように見えたが、ラオンは気にせず続ける。

「悔しいけど、闇姫軍ってめちゃくちゃ多種多様な人材が揃ってるだろ。高度な知的生命から、ドラゴンまで飼ってるんだぜ。あそこならソクプラも不自由を感じる事なく暮らしていけるんじゃねえか?」

敵に戦力を売るようなものであるが、ソクプラはこれと言って戦闘能力もなく、そこまで危険なモンスターではない。

ソクプラを一つの生命として見るならば、皮肉にも敵のもとへ送るのが一番最良であった。

「よし…そうと決まれば」

粉砕男が飛行し、ソクプラの体に両手を当て、丸ごと持ち上げ始めた。


闇の国は、ここから北側。

粉砕男は北方向へと身体を向け、腕を振りかぶる。


「よーし!投げろ!」

ラオンの身振りと同時に、投げ飛ばされる!

巨大な体は蔦の足を振るいながら何回転も宙を舞い、空を突き進むようにして飛び続け…。




それからはずっと、そのままの調子で飛び続けた。

飛んで飛んで…やがて、辿り着いたのは。








「闇姫様ー!!なんか、なんかこっちに飛んできますー!!」

赤黒い空が広がる、闇の国。

闇姫が支配する闇の城に、今まさにその異形が突撃しているところだった。


「退避ー!!!」

普段は厳格であろう男の声が、情けなく、淀んだ空に響き渡る。兵士達が慌てて逃げ惑う中、その得体の知れない宇宙生物…ソクプラは黒い城壁に突撃、壁はバラバラになり、白煙が沸き立つ。



「…」

穴を空けられた先…闇姫が、ドーナツを頬張りながら、自身の城の惨状を薄目で見つめていた。



「私の城に突っ込んでくるとは。気に入った。採用だ」

突き出されたソクプラの体に、闇姫は入軍許可の判子を押すのだった。


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