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強いぞファウンド

狼戦士ファウンド。

日常の中を気ままに歩き、悪を見つけ次第排除する、

先程は骨に寄生した寄生虫モンスター、ボンセクトとそれを操るアゴグサンをまとめて退治した。

戦いで薄汚れた手足を、ポケットから取り出したハンカチで軽く拭う。

「…」

森を抜け、空気の匂いが変わる。

これは、都会の匂いだ。

目の前には、一際開けた(ひらけた)緑の平原が広がり、その向こうには白い建物が幾つも並ぶ近代都市…テクニカルシティが見える。

森の景色から一転、目から脳に伝わる情報が大波を形作る。それでもファウンドの頭は混乱せず、むしろ感覚を研ぎ澄まし、その嗅覚を発揮する。

「…厄介な匂いがするな。これは…魔女の死祭壇がいやがるな」

広大な土地を旅し、多くのモンスターを倒してきたファウンド。その分、モンスターに関する知識は多く、今届いたこの匂いの正体も知っていた。

魔女の死祭壇…。

本来儀式に使われる祭壇に、悪しき魔女の生首をのせ、邪悪な魔力を纏わせて動き出した危険なモンスター。その呪力は人を死に至らせる事もあると言われている。

「…急がないとな」

ファウンドは四足歩行になり、テクニカルシティに向かって高速移動していく。まだ見ぬ誰かを助ける為…。彼の善意は見てくれ以上だった。


草原を駆け抜け、あっという間にテクニカルシティに到着する。

主に自然内での戦闘を行なってきたファウンド。こういった都市での戦闘はあまり経験がないが、だからこそ腕が鳴るというものだった。

狼耳と尻尾が生えてる程度、この世界では何の違和感もない。人間達は誰一人としてファウンドを気に掛ける事はなく、思い思いに過ごしている。

せいぜい、途中の信号で子供に尻尾を引っ張られたくらいだ。

親は何かを言いながら子供を謝らせたが、あまり覚えてない。

(こいつらも守ってやらないとな)

ファウンドの冷たい瞳の奥底に、庇護欲に近い感情が満ちていた。



死祭壇の力を追って進んでいくと、途中、何か気になる影が出てきた。


随分小さな少年が、何かと格闘しているのだ。

(あれは…)

少年の身のこなしは、戦士のそれだった。

相手が相手しているのは、V字型の身体に、頭の上にゴミ袋をのせた奇妙な…へんてこりんなロボ。

ゴミ袋から大量のゴミを撒いて暴れているが、少年は周囲を飛行してそれをかわし、隙を見つける。

手刀を振り下ろし、ロボの身体にダメージを負わせ、その勢いで蹴り飛ばす!

ロボは近くのポストに叩きつけられ、ゴミ袋が開き、悪臭放つ生ゴミを撒き散らす。

嫌な置き土産こそされたが、少年はそのロボを難なく片付けてしまった。

ロボは慌てふためき、空っぽになったゴミ袋を落としながら街の外へと逃げていく…。

野次馬は鼻をつまみながらも、面白いものが見れたとばかりに去っていく。



一部始終を見守っていたファウンドは、少年の方へと駆け寄っていく。

その少年…金の髪から光を放つ彼は、箒片手に地面を掃いていた。後片付けも完璧だ。

「少年。見事な戦いだ」

「ありがとうございます!」

掃除の手を止め、直角を描くように頭を下ろす姿は年齢不相応なまでの礼儀正しさがある。

…この少年、戦士ならば、魔女の死祭壇の事を知っているかもしれない。ファウンドは膝をつき、目線を合わせながら問う。




…魔女の死祭壇の事を聞いた少年は、どこか心当たりがあるような表情を見せていた。

祭壇の上に生首がのっているという不吉極まりないモンスターだが、少年の脳裏に重なるものがあった。

「何だか、見た事があるような…」

「ほ、本当か」

まさかこんな子供から情報が出てくるとは…街というのも、探ってみるものだった。

彼はファウンドを手招きしながらどこかを目指していく。ついてきてください、のサインだ。

テクテク、というような擬音が似合う歩き方で前を歩いていく少年。

見かけによらぬ早歩きだった。





彼の案内に従い、歩き慣れないコンクリートを渡り、辿り着いたのは…無難な構造の建物だった。

2階建てであり、緑の庭に囲まれた生活感溢れる普通の建物。

一瞬、こんな所に何の用があるのかと思ってしまう。あまりにも平凡な民家の登場に、戦士として凝り固まっていた精神が無理やり解きほぐされたような気分だ。

(いやいや。ここに何かしらの手がかりがあるのだろう。それに…魔女の死祭壇の魔力も感じられる。やつの欠片が、ここにあるのかもしれん)

色々と考えているうちに、少年の手は扉にかけられていた。


扉が開き…その奥から、騒がしい声が漏れてくる。


「あっ!ショウ君おかえりーー」

真っ先に現れたのは、黄色いツインテールの少女と、その隣に立つ緑のサイドアップヘアーの女性。


ワンダーズが、お出迎えだ。

ワンダーズ二人は、ファウンドの姿を見るなり、目を輝かせた。

「わあお!!はじめましての人がいるやん!アタシ、れな!」

れなはファウンドの手を無理やりとり、握手を交わす。

予想以上に癖の強そうな人物の登場に、ファウンドはしばらくの間唖然としていたが、すぐに力強く、熱く手を握り返した。

「俺はファウンド。こう見えて、戦士をやっている」

「私は葵よ。よろしくね」

順々、と言ったテンポで自己紹介をしあう三人に、ショウが慌てて続く。

「も、申し遅れました!僕はショウと申します。よろしくお願いします!」

頭を下げるショウに、ファウンドは微笑みかけた。

「ご案内感謝する。…ここに魔女の死祭壇の情報があるのか?」

「はい!情報があるも何も」

ショウは部屋の隅を指さした。

「あれです」




部屋の隅にポツン、と置かれていたのは…。


不気味な祭壇の上に、黒ずんだ生首が置かれてあるという、不気味すぎるインテリアだった。


「!?!?!?!?!?!?!?」

予想外に予想外を上乗せされ、ファウンドの肩が跳ね上がる。

彼らの視線に、れながとろけるような気の抜けた笑顔で説明した。

「あー、これ?なんかその辺で拾ってきたんだよ」

何て事のないように語る彼女。

どうやら、想像以上の曲者達のもとに来てしまったようだ。



目の前にあるのは…魔女の死祭壇。

手がかりでも何でもない。

ご本人様。

拾ってくれていた、あるいは拾ってしまっていたのだ。

「れな、あんたの趣味悪過ぎよ」

「えー?でも何かかっこいいじゃん。この首、リアルだし…」



「離れろおおおお!!!」

ファウンドは、れな達を部屋の隅へ突き飛ばし、死祭壇へ飛びかかる。

死祭壇は、自身への敵意を持つ人物の登場で正体を現した。


祭壇の周りから、黒いオーラがユラリと現れる。それらは一つの生物のようにくねり、ファウンドに向かっていく。

ファウンドの中では特段危険なモンスターである死祭壇。事前にその能力は研究していた。

彼はポケットから青い魔石を取り出し、そのオーラに叩き込む。

異なる魔力同士が炸裂し、相殺される。

「くらえ!」

ファウンドは爪を立たせ、死祭壇に斬りかかり

、魔力加工素材に深い切り傷が刻みこむ!

痛覚があるのか、死祭壇の攻撃はより激しさを増していく。

召喚魔術が放たれ、祭壇の周囲に炎の玉が出現、ファウンドだけでなく、れな達にも熱の塊が押し寄せる。

「うわっ!人に炎を飛ばすなんて…!なんて野蛮な祭壇だ!」

れなは左手で顔を覆いつつも、右手の拳で炎を殴り、当たり前のように破壊していく。その隣では葵がハンドガンを構え、炎の塊を撃ち抜き、消滅させ、ついでとばかりに死祭壇の生首へと弾丸を数発炸裂させた。

「ただのインテリアじゃないと思ってたのよ…ねえ、ファウンドさん。こいつ、何なの?」

「何者かが、邪悪な魔女の首を祭壇にくくりつけて作り上げたモンスターだ。普段は魔力を消して物品に化けている。見た目が不気味すぎる故、近づく者などいないと思ってたが…。そこの黄色いやつ、お前、なんて物を拾ったんだ!」

ファウンドは壁を蹴り、その勢いにのって死祭壇を蹴り飛ばす。

頑丈な祭壇が部屋の壁を突き抜け、大穴を開けて外へと飛ば出す。冷たい外気が風となり、一同の髪を撫でる。

「あー…修理費は後で払う」

ファウンドは崩れた壁から飛び出し、死祭壇へ向かっていく。


緑の庭。

ワンダーズの手入れが行き届いた、陽の光で美しく輝く自然のカーペット。その上に、禍々しい祭壇と狼戦士が転げあう。

祭壇はついに自らの意思で動き出し、オーラの腕でファウンドの肩を掴む。

ファウンドは高く掲げられ、地面に叩き込まれるが、自然の中で鍛えてきた身体を、自然に叩きつけても、あまり効果はないようだ。

彼は表情一つ変えず、体を高速で震わせて泥を弾き飛ばす。死祭壇の生首へと爪を振り下ろし、頭へとめり込ませる。

死した身である故か血は出なかったが、かわりに魔力が乱れ、そして強まる。いよいよ本気を出してくる様子だった。

魔力が空中に発せられ…固められていく。

特定の物体を再現する、具現化魔力だ。


死祭壇が空中に生成したもの、それは…。



「…!ほ、ね…」

白く、艷やかな一本の骨。

テリーが生成するような物と同じく、魔力を纏った、凄まじい硬度を誇るであろう凶器だった。

その時、既に葵は、骨に銃口を向けていた。

「…見た目はただの骨だけど、強い力を感じるわ。あれをファウンドに撃たせる訳にはいかない!」

骨の中央部を狙い、引き金を引こうとしたのだが…。



ここでファウンドの難癖が発動してしまった。



「わおーん」

低い声のまま、間の抜けた声を発するファウンド。

骨を見るとつい本性が出てしまう…彼の[犬癖]だ。

あまりに唐突な奇声に、葵の指も止まってしまっていた。勿論、ショウも同じ反応だ。

だが、れなだけは違っていた。

(おお!!変な声を出したら、ファウンドの力が強くなった!?あれはもしかして、自分を強化する技なの!?)

片手に握り拳を添えつつ、興奮を抑えられないその様子は、まさしく[れな]といったものだった。


間抜けな声を合図とするように、ファウンドは四足歩行になり、目を赤く光らせる。骨を前に、秘めた本能が全身を巡り、獣を呼び覚ましたのだ。

端から見れば無謀とも呼べる勢いで、彼は飛び出した。死祭壇は魔力オーラを槍のように鋭く固め、ファウンドに突っ込ませる。

骨はまだ浮いている。恐らく魔力を集中させた切り札ゆえ、下手な判断で撃って無駄にしたくないのだろう。

ファウンドは事務所の壁に飛びつき、蹴り、槍オーラに真正面から向かっていく。

槍とすれ違い様に爪を叩き込み、切断。

切り飛ばされた槍は空中へと飛ばされ、陽光を受け流しながら回転する。

「っ!い、今ね!」

葵が空中の槍目掛けて発砲。弾の勢いで槍は更に回転し、別方向へ飛んでいく。

この回転も、葵の計算のうちだった。槍が落ちていった先は、死祭壇…ではなく、ファウンドがいた。

野生を呼び覚まされ、感覚が研ぎ澄まされていたファウンドは、落下してくる槍を簡単に察知する。彼は空中に飛び出し、落下途中の槍を蹴り飛ばす!

この間、発砲音、予想外の方向へ飛ぶ槍、味方であるファウンドに間接的に槍を放つ葵…と、死祭壇にとっては予想外の出来事が連発。死祭壇の判断を鈍らせるには十分すぎる情報量だった。

そして…ファウンドが蹴飛ばした槍は死祭壇の生首に突き刺さる。

声こそあげないが、邪悪な魔女の悲鳴が響いたような気がした。

そして…生成された骨は、維持性魔力から解放され、重力に引かれて地上へ落ちていく。

それを、ファウンドが見逃すはずもない。

「あおーん」

彼は骨を口で受け止め、助走をつけるように回転、砲丸のごとく、かつ顎の力一つで投げ飛ばす!

切り札だからといって勿体ぶらず、早く撃てば反撃される事もなかったであろうに、死祭壇自身が作った骨がトドメとなってしまった。

生首に衝突した骨は、内蔵していた魔力によって小爆発を起こし、死祭壇を吹き飛ばす。

塀を突き抜け、道路へと放り出された死祭壇。

あまりに不気味なインテリアの登場に、偶然その場を歩いていた通行人達はギョッ、と足を止めた。

人間は、本当に驚くと悲鳴があがらないらしい。


死祭壇の生首は目を回し…色が薄れ、やがて粒子と化して消えてしまった。

本来であれば死した存在。矛盾した存在性が解かれ、成仏したのだ。

れながうろ覚えの南無阿弥陀仏を唱えるなか、ファウンドは何事もなかったかのように肩の力を抜いていた。

「何とか倒せたな。協力、感謝する」

「ファウンドのおかげで助かった!もしあの祭壇をそのままにしていたら、アタシ達皆殺しにされてたに違いないよ!!」

物騒な物言いとは真逆の、他人事じみた明るいトーンのれなの声。ファウンドは軽く頷くと、背を向けた。

「どこかでまた会うかもしれんな」

あくまで自分は、ただの通りすがり。

報酬も賞賛もいらない。ただ悪を討ち、去っていく。それだけだ。


「本当にありがとうございました!もし良ければ、今度僕にあの四つん這いで這い回るやつ教えてください!」

「助かったわ。また来てね」

ショウと葵の見送りも受け、ファウンドは軽く手を振った。

次の戦いに向け、爪を研ぎ澄ます、備えの時がやってきた…。




「おーい!皆、今日は事務所で鍋パーティーでもやろうぜ!」

向こう側から、誰かが歩いてくる。


…テリーだった。

黒いローブを纏い、白い骨の手に袋を提げながら走ってくる。まさしく死神といった風体で、

日常感に満ちた様を日の下に晒している。

明るい日光に照らされ、白い体が輝く。


その姿は…ファウンドからして見れば、あまりにも[誘惑的]だった(変な意味じゃなく!)。



「わおーん」


「ぎゃああ!ちょ、何をする…んあっ、あんっ」


テクニカルシティに響く、間抜けな咆哮と、死神の色濃い叫びが交差した。


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