メテクルドを倒せ 隕石群
テクニカルシティに落ち、多くの建物(と、冷凍マグロ)を破壊した隕石、もとい怪獣。
ワンダーズによって鎮められた後、他の研究所へと送り出され、無数の拘束具、バリア状の魔力抑制装置で動きを封じられ、気絶している。
目覚めても、この拘束からは抜け出せないだろう。テクニカルシティが開発した精神剤を投与すれば、あの凶暴性も落ち着いてくる。
眠るメテドンの前で、れな達は研究者達の話を聞いているところだった。
「本当にありがとうございます。あなたがたが来てくれなければ、誰もメテドンを止める事はできなかったでしょう。何かお礼をしなくては…」
「…冷凍マグロください」
今尚冷凍マグロを諦めきれないれなの顔は、最早虚無。
こんな大物怪獣を倒しても冷凍マグロが戻ってこないという事実に打ちのめされている。
そんな彼女の横から、葵が顔を出す。
「何か、メテドンについて分かった事はありますか?」
研究者は大きく頷くと…近くに置いてあったノートパソコンを片手で引き寄せ、画面を見せる。
そこには、青いメテドンのホログラフが映し出されている。色々な単語が周囲に記されているが、こんなもの見せられても何が何だか分からない。
「平たく説明致しますと…メテドンは、隕石内部に寄生していた細菌類が長い年月の果てに融合し、意思を持った怪獣です。この菌は明確な仲間意識があるようで、互いに協力しあってメテドンを操作しているようです」
分かりやすく例えるなら、メテドンは細菌類というパイロットに操作されている、戦闘ロボのような存在だということ。
「そしてここからが本題なのですが…隕石が地面に衝突した際、細菌類は地表を通じて地球内部に菌類が侵入した可能性があるのです」
「え、つまり…」
つまり、菌類はメテドンの体内以外の場所にも繁殖、メテドンのようなモンスターを新たに作り上げる可能性があるという事だ。
研究者は頷きながら続ける。
「私達は、菌類の行動パターンや物質への反応を既に把握済みです。菌類が地表に降り、地脈を通じてどこへ移動したのか、そしてどんな行動を引き起こしたのか…」
彼は、背後のメテドンに振り返る。その目は、未知への恐怖…そして、それ故抗う事を許されない呪われた興味に溢れてる。
「…菌は、地上に落ちると同時に、南方面へと移動したようです。テクニカルシティに位置する地脈の一つに、山脈へと通じるものがありました。彼らはそこを通り、山脈に移り、早ければ、既に何かしらの反応を起こしている筈です」
研究者はここで、頭を下げてきた。
「もし暇だったら、調べてきてくれませんか。で、何かゲットしたらぜひ我々のもとへ…」
(いきなりノリ軽いな)
れみは心の中で突っ込みつつも、研究者特有の未知への欲望に若干呆れた。
研究者が言っていた山脈は、タヒラ山脈と呼ばれる場所だった。
度重なる地殻変動により、奇跡的な程に平たい足場が密集した山脈。
彼の話によれば、ここに菌は移動したという。そして、既に何かに寄生している可能性が高い。
ワンダーズの飛行速度では、テクニカルシティからここまで二分かからなかった。
「よっと」
一番に、地面に足をついたのは、れなだった。
大地に足を起き、辺りを適当に見渡す四人。
時刻は、メテドンの騒動の直後。
まだ月が天高く昇り、光が岩の大地をうっすらと照らしている。
話通り、ここはとにかく平べったい。周りには数本の岩の柱が立っているだけで、障害物の一つもない。
まさに自然の奇跡。
れなとラオンだけは、[戦いやすそうな場所だ]と考えていそうだが、少なくともれみと葵は、この地に何か神の意図でも込められているのではないかと目を輝かせた。
研究者の言葉が正しければ、ここにあのメテドンを操っていた危険な菌類が潜んでる。
野放しにしておけば、このあたりは壊滅だ。
自然の神秘に感動してる暇はないようだった。
「さあ、どこにいやがる?」
段差から降りるラオンが、ナイフを構えながら辺りを見渡す。
相手は何に寄生したのか分からない。
岩かもしれないし、木かもしれない。はたまた、今彼女らが立っているこの地面かもしれない…。
月明かりで美しく照らされているはずの大地が、酷く不明瞭に見えた。
「ラオン。これが使えるかも」
葵がラオンの目線を誘導する。
彼女の指に、何かが摘まれている。
それは、緑色の弾だった。
「何だよそれ」
「モンスターをおびき寄せる成分を含む誘導弾よ。これを地面に撃ち込めば、おびき寄せられるかもしれないわ」
足早な説明の直後、彼女はハンドガンに弾を込め、ラオンの足元に銃口を向け…即座に発砲する!
ギョッ、とよろめくラオン。
「ちょ、なんでわざわざこんな所撃つんだよ!!」
借金を返さない彼女への当てつけだろうか。
ともかく、弾は放たれた。あとは、この大地に弾丸の成分が染み込み、この地に隠れた細菌…モンスターをおびき寄せるだろう。このまま何も現れなければ、そのまま研究者達に伝えるだけだ。
…一分が経過した。
待つと、長い。
「…何も起きねえな」
ラオンはポケットに手を突っ込み、片足で地面を軽く踏みつける。
れみが飛行して、周りを見渡すが…特に何かしらの影は見られない。
ならば、ここにメテドンのような危険生物はいないという事だ。
「…テクニカルシティに帰って研究員たちに知らせないといけないわね。細菌が何かをやらかす前に」
「えー、第2ラウンドはなしか…残念」
れながため息混じりで飛行耐性に移る。ラオンも、あからさまに不機嫌な顔つきで地から離れだした。
あとは科学の仕事。…そう思っていた矢先の事だった。
…乾いた地面が、突然割れる!!
ラオンが立っていた辺りから、巨大な何かが、吹き出すように現れる。
『えっ!?』
実は相手は、既に足元にいたのだ。
あの弾丸の成分にも騙されず、ワンダーズが油断する隙を狙って地中に潜み続けていた。それだけの知性を備えた存在が、目の前に現れる。
…土砂を夜空に巻き上げ、無数の触手を振り乱すそれは、メテドンと同等…いや、それ以上の高さだった。
山の崖の高さを僅かに超える巨躯、全身が植物のような触手に包まれ、そしてその蔦の下には、岩のような体が見える。
異形のその姿。明らかに、この地球のモンスターではない。
モンスターは出現するなり、ワンダーズに顔を近づける。その顔には魔法陣のようなものが刻まれていた。
魔法陣が青く発光する。何かしらの攻撃動作だ。
夜とは思えぬ、急激な気温上昇が、その攻撃の合図だった。
この感覚。れなはつい最近、感じた事がある。
「…あ。皆、頭上注意!!」
れなが指さしたのは、全員の頭上。
見上げると…。
暗黒の夜空に、無数の光源が輝いていた。
それらは、地上目掛けて落ちてくる!
その光源は…何であろう、隕石だった!
迫りくる地球への殺意。それらは炎を纏いながら猛スピードで落ちてくる。
隕石を呼び寄せる力を持つモンスターらしい。もしもあの隕石が地上に落ちれば、このあたり一帯が破壊されるだけではない。墜落した隕石が新たなメテドンとなり、メテドンの群れが現れる可能性すらある。
れみが咄嗟に飛び出す。
持ち前のスピードで天空の隕石に瞬時に距離を詰め、それぞれに拳を叩き込む!
炎を打ち払う程の速度の拳は、隕石の外殻を難なく破壊、無数の瓦礫へと変えていく。
かなりの量の隕石を呼んだようで、次々へと炎の塊が地上へ降り注ぐ。ここだけ、世界の終わりのような光景だ。
夜空も僅かにオレンジ色に照らされ、熱が渦を巻いている。
れなも妹の破壊劇に参戦し、隕石群を散らしていく。だが、モンスターの触手が動きを見せた。
「…!危ねえ!」
ラオンが飛び出し、モンスターの触手を切り落とす!空中に舞う触手は、青い液体をまき散らしながら地上へ落ちてくる。
葵はモンスターの顔面に、光の弾丸を発射していく。モンスターの無機質な視線が、地上の二人に降りかかる。
ターゲットを変更したようだ。
「そうだ!私らを狙え!!」
ラオンはナイフに紫電を纏わせ、熱を振り払うような闘気を見せる。彼女の必殺技、紫電斬りだ。
飛び出し、背後の地面を破壊、美しい程に平たい地面に、地割れが起きてしまう。自然の神秘は、尊い犠牲となった。
ラオンはナイフを振りかぶる。その瞬間に、彼女の瞳の奥のスコープが、刃の直撃地点を推測する。
より正確かつ強力な攻撃を仕掛ける準備が整った。そのまま、モンスターに斬りかかる!!
だが、モンスターは地面から無数の触手を生やし、束ね合う。魔力を浸透させているのか、その硬度は見た目以上だ。紫電斬りは通じず、ラオンは弾き飛ばされてしまう。
その隙を見たモンスターは、隕石を呼び寄せる能力を発動した。
戦闘を通じて、能力がより活性化したのだろうか。先程以上の速度で、巨大な隕石がラオンに向かってくる!
背中を直撃する、燃える隕石。ラオン一人を押しつぶすにはあまりにオーバーなサイズだ。
「あ゛ぢいいいい!!!」
火だるまになるラオンを、モンスターの触手が激しく打ち付ける。夜闇の冷気が嘘のように、熱に虐げられる。
「ラオン!!しっかりしろ!」
ラオンのもとへ、れなが降りてくる。彼女は大きく息を吸い込むと、暴風のような息を吹き出し、ラオンの火を打ち消してくれた。
「た、助かった…。だが、あいつの反射神経、えげつないぞ!」
話してる間にも、モンスターは次々に隕石を呼び寄せる。そしてそれらを、れな、れみ、ラオンが破壊していく。
このままでは体力ばかりが削れていく。かと言って下手に攻撃を仕掛ければ、あの触手に阻まれる。
隕石を切断しながら、ラオンがれなに叫びかける。
「おいれな!メテドンの時みたいに何か策はないのか!?」
「ないわ!いくらアタシが馬鹿でも、いつでもどこでもゴリ押しが通じる訳ないだろうが!!」
二人が破壊し損ねた隕石を、真下のれみが蹴り壊す。
「二人とも、とにかく隕石だけは落ちないようにして!隕石優先!!優先隕石!!」
…その言葉を聞いた葵が、何かを思いついたようだ。
(…やってみるか)
モンスターを狙っていた銃口が、別の方向へと向けられる。
狙う先は…隕石だ。
葵のハンドガンは、一般的なハンドガン以上の破壊力がある。一発放たれた弾丸が、隕石の中心を撃ち抜くと、隕石は瞬時に粉々になる。
今まさにその隕石を破壊しようとしていたれみが、葵に親指をたてた。
「ナイス葵!よし、ここからは葵が隕石を破壊してよ!」
「いや、モンスターも一緒に片付けてやるわ」
三人が目を丸める。
それぞれ異なる担当を組まなければ、このモンスターは倒せないと見ていたが、葵だけは違った。彼女もまた、時には無茶苦茶なゴリ押しで何とかしてしまうのだ。
「次はあそこね」
適当に撃ち壊してる訳ではないようだ。次はあの隕石、といった調子で順番に破壊している。
ある程度破壊し、無数の破片が空中に散らばりあう。破片同士が互いにぶつかり合うなか、葵は弾を変更した。
それは…あの誘導弾だ。
今度はあえて適当に、目についた破片へそれを撃ち込む。
ここで効果が発動した。
モンスターの意識が、誘導弾に引き寄せられている。先程は引き寄せられなかったが、乱戦となっている戦闘中だと話が別らしい。
無数の破片のうち、どれか一つにその弾が込められている。だが、この膨大な破片…どこに込められたのか、モンスターも分からない。
弾丸の成分に加え、視覚的妨害。これが葵の目的だったのだ。
彼女は、あちこちを見渡すモンスターの頭部に狙いを定める。
「まだまだみたいね」
弾丸が、放たれる。
葵の最大のエネルギーを込めた、緑の弾丸。それは、モンスターの額に直撃し…。
大爆発を起こした。
何が起きたのか分からなかったらしい。
煙の中から出てきたモンスターは、一瞬硬直した後…背中をそらし、そのまま正面に、ゆっくりと倒れ込む。
地面に叩きつけられるように、モンスターは顔面からうつぶせになる。
「…勝った…!!」
れみが呟く。
「いや、まだよ!」
そして葵が銃口を震わせる。
倒れたモンスターは、一瞬ピクリと震えたかと思うと…突如、体を起こす!
今までは知性に溢れる動きを見せていたモンスターだが、ダメージが蓄積した事でヤケになったらしい。顔の魔法陣を発光させ、魔力をヤケクソ気味に放ち始めた!
空が光り始める。そして…無数の炎が落ちてくる!
隕石群の最終攻撃だ。惜しみなく魔力を使ったその攻撃は、今までとは比較にならない激しさ。隕石の数は…百はある。
そんな数が、ここだけに集中して落ちてきている。タヒラ山脈も良い迷惑だ。
「皆、全部壊す…んじゃなくて、跳ね返すわよ!!」
葵はハンドガンを使わず、隕石へと自ら飛んでいく。他三人も、流されるままに直接隕石の方角へ。
跳ね返す…今までにない手段だった。
無我夢中なモンスターは、飛んでいく四人にも触手を伸ばし、攻撃を仕掛けようとする。だが、それよりも四人が隕石に到達する方が早かった。
葵は落ちていく隕石の横で止まり…燃え上がる隕石へ、躊躇なく蹴りを打ち込む!
すると…蹴られた隕石が、猛スピードでモンスター目掛けて飛んでいく!
隕石はモンスターにぶつかるなりバラバラになり、破片が地上へ振り落とされていく。
「なるほどな!壊すんじゃなくて蹴り返せば良いのか!葵、テメー頭いいな!!」
ラオンは調子が出てきたようで、台詞の合間に三つの隕石を打ち込んだ。それに呼応されるように、隣のれなは「よほほほほっほおおおおお」という奇声を発しながら、五個ぶつける。
モンスターは触手を構えて防御しようとするも、それも間に合わない。
「はじめからこうすれば良かったのにいい!!」
れみが泣き叫びながら、一際巨大な隕石を蹴飛ばした!
モンスターに直撃し、とうとうその意識を吹っ飛ばす。目を回しながら、仰向けに倒れ込む…。
先程とは違い、魔力も一時的に途切れてしまっている。今度こそ、完全に気絶させたようだ。
「…勝ったな」
ラオンがモンスターの顔を確認し、ようやく勝利を確信した。
しぶとい相手だったが、相手の攻撃を利用する形で勝利を収めた。
その後…そのモンスターも、メテドン共々ムショ送りならぬ研究所送りとなる事となった。
そのモンスターは、メテクルドと呼ばれる個体だった。他の惑星にも度々現れ、メテドンの群れを生成し、多くの星を滅ぼしてきたモンスターだという。もしあのまま放置すれば、地球は滅ぼされていたかもしれない。
メテクルドを倒したれな達には、多額の報酬金が送られる予定だという。
「何とか勝てたけど、何というか、宇宙の脅威、だったわね」
葵は戦慄していた。
あれだけの隕石群。確かにあれらが地上に直撃していれば、少なくとも自分達が今いるテクニカルシティの大地は存在しなかっただろう。
まだ見ぬ強敵…。
その言葉はワンダーズを、それぞれ違う意味で震え上がらせた。




