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ドクロとテリー 暴れるワニサーカー

昼下がりのテクニカルシティ。



とある建物が賑わっていた。住宅街にひっそりと佇むその建造物。小さな二階建ての建物。

ここは…れなとその仲間達の戦いの拠点。

彼らはここを事務所と呼ぶ。


テクニカルシティを始めとした様々な場所から集まる依頼…それらを解決するのがれな達の生き甲斐であり、力ある自分達の使命と感じていた。彼らが毎日活躍してしまう程、悪事を働く者というのは溢れる程に存在する。



今日もまた、ここへ依頼が飛んできた。


その案件は…。




「逃げろー!!ワニサーカーが脱走したぞー!」

その日は、ビル街の中央に巨影が這いつくばっていた。

緑の鱗に覆われ、巨大な口を持つ鰐のような姿。だが首から下は人間の胴体に近い。鰐と人間を合わせたような巨大なモンスター。怪物、という言葉があまりに似合うその生物は、ビルに体を擦り付けながら前進していく。時々目の前を通る市民達を薙ぎ払い、荒く不気味な吐息を吹きかける。

そのモンスター、ワニサーカー。テクニカルシティの近くの動物園ならぬモンスター園から逃げ出した危険な個体だった。尚、脱走の原因は飼育員の不慮のミス。平日で暇をしていた飼育員が一人しりとりに没頭していた隙に、檻を破って外に出てきたという。むしろ今まで脱走しなかった事が不思議だ。

自然界でも非常に危険なモンスターである事で知られるワニサーカー。勿論進んで近づく者はほとんどいない。


…逆に言うと、ほんの一部だけは存在していた。


「うわあ、めちゃくちゃ暴れてる…死人が出るわよこれ」

ビルの屋上からワニサーカーを見下ろすのは、白いビッグテールヘアーに赤く釣り上がった目の少女と、その横に立つスーツを羽織った…骸骨。そう、文字通りの骸骨だった。

真っ暗な穴の目、鼻、口。なのにその顔にははっきりと感情が表れてる。それぞれの穴が歪んで表情を作っていた。

少女の名はドクロ。骸骨の名はテリー。どう見ても異なる風貌だが…こう見えて兄妹だ。

「早速止めるか。ドクロ、俺のそばを離れるなよ?」

台詞だけなら頼れる兄と言ったところだが、その声には何かに見惚れるような生暖かいトーンが混じっていた…。

ドクロは目を細めて片手で宙を仰ぐ。


テリーは妹のドクロをこれでもかと大切にしているのだが…あまりにも溺愛しすぎていた。

テリーはフェンスを乗り越え、ワニサーカー目掛けて飛び込んでいく!相手はまだ気づいていない。一見危険なモンスターに自ら飛び込む無謀者に見えなくもないが、この風体をご覧になると分かる通り、彼はそこらにいる存在とは訳が違う。そう、彼は。


「止まれ、ワニ野郎!」

テリーの手のひらが黒く光り、そこから黒い光弾が放たれる!ワニサーカーの頭部で爆発し、気を引く事に成功した。


彼は…死神なのだ。

死神と言っても世間で保たれるような恐ろしいイメージはほとんどない。むしろ彼は、こうして人助けをする事に生き甲斐(生きてるのかは謎だが)を感じるのだ。

そしてそれは彼だけに留まらない。妹のドクロもまた…。


「先走らないでお兄ちゃん!」

両手から電撃を放ちながら、彼女も飛び降りてワニサーカーを狙う。兄妹共に、魔力による攻撃を得意とするのだ。

この二人に阻まれれば、ワニサーカーも簡単には進めない。剛腕を振り回して反撃してくるが、それも容易く回避されていく。

隙を見て、テリーは硬い頭蓋骨を生かした頭突きを仕掛けてみせる。ワニサーカーは大きくバランスを崩し、近くのビルに倒れ込んだ。一気になだれこんできた質量に耐えきれず、ビルの壁には悲惨な大穴が。

「ああー、やべえ…修理代請求されるな…」

冷たい額を押さえつつも、テリーは右手を振り上げる。

すると…その手先の骨がみるみるうちに変形していく。指が互いに寄りあい、骨の手は硬度を上げていき…。


やがて、刃となった。

変形が終わるや否や、彼は勢いよく飛び出した!大気を蹴り、青いネクタイが鞭のごとくしなり狂う。ワニサーカーは立ち上がろうとしていたところだったが、テリーの刃は容赦なく振るわれる。

その硬度には、ワニサーカーの鱗も意味をなさなかった。

「おらぁ!!」

骨の喉から発せられるとは思えない程に気迫に溢れた声。その声と繋がれるように、斬撃音がこだました。

ワニサーカーは咆哮をあげて苦しみ、宙を舞う自身の鱗を見る。それでも痛みを堪えて大口を開き、噛みつこうと向かってくる。

テリーは…全く動じない。


「こらぁー!!お兄ちゃんに手を出すな!」

ワニサーカーの頭部に、ドクロの蹴りが炸裂した!体格差など全く意味をなさないその一撃。ワニサーカーは呻きながら横に倒れ、街を揺るがした。

攻撃音、モンスターの叫び。真昼間の街に響くはずのない音が何度も響いた。



「この度は本当にありがとうございます…!」

数分後。

気絶したワニサーカーを回収するべく、いち早く駆けつけたモンスター園のスタッフ達が頭を下げていた。

ワニサーカーを逃がした例の飼育員は、1週間、ファーストフード禁止の罰が与えられたという。


警備員や戦士達が取り囲む中、ワニサーカーは大型トラックで運ばれていく。街は傷つきつつも、この程度の損傷であればテクニカルシティの科学ですぐに元に戻るだろう。テリーの口座から引かれる修理費もそこまで致命的なものにはならない…はず。


ドクロとテリーは互いに並び、こちらに向けられる飼育員達の頭をただ見つめていた。街のために戦ったのはこれが初めてではない。これまでも何度も戦ってきた身だ。

何故ならば…。


「おーい!ドクロちゃん、テリー!今日も流石だねえー」

呑気な声と共に、やたら目立つ人影が、歩道を駆け抜けてくる。横を通る自動車の走行音にも負けないようなやたら大きい声の主…それは、れなだった。

ドクロも手を振り返す。


「アタシの出番かな~と思ったんだけどね、先を越されちまったかー」

ワニサーカー暴走の件で野次馬に向かうと思われる人々と反対方向を歩きながら、れなは兄妹と話していた。

街で事件が起きれば当然ニュースとなり、れな達が動き出す。街にとっては非公式の戦士だが、それ故自由が効きやすい。いち早く飛び出し、今回のように早期にモンスターを倒せる事もある。

戦後の談笑は続く。

「れなも見てたか?俺の妹の最高に美しい蹴り!俺もあの足に蹴られたいぜえ」

彼がドクロの事を語る時は大抵目に当たる穴が歪み、「ああ、ニヤついてるな」と一目で分かる顔になる。そしてその度に…。

「外でそんなん言うな!」

ドクロは彼を思い切り蹴飛ばした。幸せそうな叫びと共に、テリーは天高く吹き飛んでいった…。



ところで、あのワニサーカー。自然界でも凶暴なモンスターでこそあるものの、あそこまでの暴れぶりを見せる事は実のところあまり無いのだという。


帰路の途中、ベンチに腰掛けて休憩していたドクロは、スマートフォンで今回の事件の詳細を読みあさっていた。

モンスター園からの脱走、壊される街、それを止めた死神兄妹。多くは知っている情報ではあるものの、一つだけ知らない事項があった。

それは…。

〔モンスター園の管理に疑念の声?ワニサーカーの扱いが酷すぎると話題〕の項目。

ドクロの指が、それをタップする。


するとそこには…ある事実が表示された。



〔モンスター園でも大人気なアイドル、ワニサーカー。彼らに与えられていた餌が肉類ではなく、格安の金魚の餌である事が判明した〕



「…そりゃ暴れるわ」

むしろ、あの巨大な体を金魚の餌一つでどう維持していたのだろうか。



…壊れた街を映し出す、上空のドローン。テクニカルシティの情景を常に映し、共有するそれは、一般市民のスマートフォンでもその画面を見る事ができる。


一人、この情景を見つめる者がいた。


それは…この事件の黒幕の一人…。

「くくく…ワニサーカーは上手く暴れてくれたな。さて、次はあそこか…上手くやれよ…」

…ワニサーカーを逃がした飼育員だった。

モンスター園の事務所。古く、埃が舞う電灯に照らされながら、彼は不気味に微笑んでいた。

手元の反省文は、1行も書かれていない。





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