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茸番人

木漏れ日が舞い散る森にて。



四葉は、その日も花の水やりに勤しんでた。

近くには森の主。腕を組み、森に設置されたベンチに腰掛けている。(体重で破壊しているが)


色とりどりの花びらが潤い、日光を受けて鏡のように光り出す。それらを支える土もまた、水の恩恵を受けて土の色を変える。

何もかもが平和な森。今頃街ではワンダーズが誰かと戦っているかもしれないが、少なくともここではほとんど別の世界の話だ。

四葉は、辺りを囲う森の仲間たちに挨拶を交わしていく。

「あ、蝶さんお元気ですか?蜂さんもいつもお疲れ様です!リスさん、さっきお住まいの木を磨いておいたのでご安心ください!佐藤さん、今日は…」

(本当に礼儀正しい子だな)

森の主は、頭から生えた木を片手で弄りながらそれを見守っていた。

本日の森の仕事も、ほとんど四葉が済ませてしまった。幼い子供とは思えぬ完璧な仕事ぶり…最早、森の主など不要であるかのように感じられ、時折寂しい思いをする事もある。

「森の主さん!このあたりのお花は大丈夫です!今度はあちらの方へ失礼します!」

「ああ。時々休憩するんだぞ」

四葉は元気に手を振りながら、次の花場へと向かっていく。大人顔負けの体力だった。

(もう、四葉一人でもこの森を任せられそうにも見えるな…)

とは言え、四葉はまだまだ幼い。そんな子供に森を託すなど…。





「森の主さぁーん!!助けてくださぁーーい!!!」

…まだ早い。


森の主は既にスクラップのベンチにさらなる追い打ちをかけ、四葉のもとへと駆け込んでいく。



四葉は、多くの木々が密集した広場で何かに怯えていた。綺麗な着物を土に擦り付け、尻もちをついたまま後ずさってる。

背中が森の主に当たるなり、彼の肩へと飛びついた。四葉の頭を撫でながら、森の主は、彼女を泣かせた[その相手]を睨みつける。

娘同然の彼女を泣かせ、そして愛する木々の間に、無理やりその図体を埋めていたのは…。


カラフルな笠を持つ、茸のモンスターだった。その大きさは森の主とほぼ同等。小さい四葉からしてみれば、その姿は相当な圧力を放っていただろう。

森の主は茸モンスターと目を合わせ、重圧感に満ちた声で問う。

「お前、何者だ。この森の住人ではないようだが?」

それまで沈黙していた茸モンスターが、口を開く。

「俺は茸番人…。正義の為に、これからこの森を出入りしようとする者達を検査させてもらう」

茸番人は、森の主の肩に乗って怯えきる四葉を睨み続けている。悪党でも前にしたかのような視線だ。

「そこのガキも、この森から出ようとした。だから、危険物を持ってないか検査しようとしただけだ」

「いや、この区域は森の出口でも何でもないぞ」

そう、四葉が今通ろうとしたのは何の変哲もない森の通路の一つ。森の出口からはそこそこ離れているし、ましてや危険物の一つもない。

いや、というかそもそも森の主の許可も受けずにこんな行為は許されない。

茸番人は苛ついたような口調でこう返した。

「俺が出口と思ったらそこは出口なんだ!!」

これはまた大迷惑なやつが現れたものだ。

どこから流れ着いたかは分からないが、放っておけない。

「お前は正義感のままに動いてるのかもしれないが、ここは自由の森だ。お引き取り願おうか」

「うるせえ!」

茸番人は容赦なしだった。

笠から胞子を放ち、森の主へと発射してくる。黄色い粒子が森の主の巨体を瞬時に包みこんだ。

「くっ…四葉、離れてろ!」

未知の攻撃から四葉を守る為、彼女を投げ飛ばす。四葉は柔らかい草の上に落ち、森の主を見上げる。

「森の主さんっ!!」

彼女は茸番人に立ち向かおうと勇敢に駆け出そうとする。森の主はしばらくの間、胞子の中で震えながら、胞子の効果に備えていた。


…そして、効果は現れた。


森の主が、突然叫びだした。



「…俺は、俺は…昨晩、木の枝を拾ったんだ!!」






唐突かつ、謎すぎる報告。




森の主を囲う胞子が消え去り、彼は気をつけに近い姿勢で、聞かれてもない事を語りだした。

「で、その後に寝て、起きた!以上!」

訳が分からず、呆然と固まる四葉の前で、茸番人は感心したように頷いている。


この胞子…これは、相手がこれまでどんな事をしたのかを強制的に吐かせる一種の催眠効果があるようだった。

この能力で、相手を見定めるのだろう。

「よーし。森の主。テメーは外に出てよし。帰ってきたらもう一度検査を受けるように」

胸(どこかは分からないが)を張って野太い声を発する茸番人を前に、森の主の催眠が解ける。

糸で引っ張られていた人形が、拘束を解かれるように、前のめりに倒れそうになった。

「…貴様!!こんな能力を持っていたのか!!秘密をバラしてしまうではないか!!」

森の主の怒号にも動じず、今度は四葉に笠が向けられる。

四葉は逃げようとしたが、走り出す直前に意味もなく飛び跳ねてしまったせいで、無駄な隙を晒してしまう。

視界に叩きつけられる、黄色い胞子達!


打ち付けるように、胞子が四葉を包み込む。四葉もまた気をつけの姿勢となり、胞子の力に心をほじくられる。


「…私は昨日、今日用のオヤツを先に食べちゃいました、ごめんなさい」

秘密の暴露だった。

今日食べる予定のオヤツを先に食べてしまった四葉は、申し訳なさそうに、かつ恥ずかしそうに俯く。

「おぉ…四葉にもそんな一面があるんだな」

四葉の意外な部分を見つける事ができた森の主。今日の森日記には、間違いなく四葉の絵が描かれる事だろう。

悔しいが、新発見に少し得をした気分の森の主。確かにこの胞子だけならば、隠し事をしている悪党を見定める事ができるだろう。


が、使う本人が大問題だ。

「へへへへ!貴様、罪を犯していたのか!!悪いやつだな!!お前を森の外に出したら何か大変な事をしでかすに違いない!よって、外の世界に出る事を、未来永劫禁じる!」

「そ、そんな〜〜、ショウさん達に会えなくなっちゃいます!!」

涙を流して茸番人に寄り付き、許しを求めて両手を合わせる四葉。

「うるせえ!永遠にこの地に縛り付けられてな!!」

ついに茸番人は体を振るい、四葉に叩きつける!

吹き飛ばされる四葉を受け止める森の主の顔は…怒りに満ちていた。

子供相手に何て大人げない真似をする茸だろうか。こんなやつは、森の住人として断じて認められない…。


「おい…四葉をいじめるな。それ以上酷い真似をしたら、これだぞ」

爪を突き出す森の主。茸番人は尚も余裕の様子で、白い牙を見せて憎たらしく笑ってみせた。

森の主にとって四葉は娘同然。そんな彼女を、たかがこの程度の事で虐げるような真似は、断固として許さない。

森の害悪を追い出すべく、森の主は戦う決意を固める。口で言っても分からぬ相手には、制裁を下すまでだ。

茸番人は見たところ、何も武器は持ち合わせていないようだが、どこまでも余裕の様子だった。

「へっへっへ。俺にはこの胞子があるん…だぜ!!」

言い終わるやいなや、彼は頭を振り下ろし、例の胞子を発射する!

森の主は再び被弾。全身が硬直し、意思に反して、意思が動く、という矛盾を極めた感覚が彼を無理やり突き動かす。


口が開き…彼は、隠していた事を語る。



「お、お、俺は…!昨日、箒で掃除してたんだ!!」


あまりのどうでもよさに、茸番人は目を細めた。もう少し面白い情報はないのかと、更にもう一発胞子を放つ。

森の主はまた口を割られていく。

「俺は…!四葉を撫でる時は斜め58度から手を伸ばすんだ!!」

更にもう一発。

「俺は漢字が得意!」

次こそ良い情報が、と一発。

「俺は数学が得意!」


「おいごらぁ!!!」

ついに茸番人は怒号をあげた。

相手の面白い情報を探ろうとしている時点で、もうその姿は番人のそれではない。

「テメー、何の秘密もねえのかよ!!クソつまんねー人生だな!!バカ正直に生きてちゃ、何もかも損するに決まってるだろ!」

「オメーに人生を指摘される筋合いはないんじゃボケえええ!!!」

胞子の拘束が解けた一瞬の隙に、森の主は駆け出し、茸番人へ蹴りを仕掛けた!

茸番人はその場から動けないようで、その攻撃を正直に受け止めるしかない。手がないので、防御もできなかった。

ただ、重い打撃に呻くのみ。番人なのに、戦闘は専門外の様子だ。

「うおおお!な、なぜ…それほどの強さでありながら、大した秘密を一つも持ってないんだ…」

「…今吐かされたのが、俺の秘密だよ畜生!!」

真横から殴り飛ばすように、爪を叩きつける。茸番人はサンドバッグのように左右に揺らめき…白目をむいて気絶してしまった。


「…やっつけましたね」

四葉は息を吐く。

森の主は彼女を撫でながら、しばらくの間番人を見つめていた。

「とんでもない野郎だったな。人の秘密をバラすなんて…」

茸番人の笠を鷲掴みにし、地面から引っこ抜く。

「お前は、森の番人失格だ!!」

体を傾け…持ち前の馬鹿力で、茸番人を投げ飛ばす!

茸型の異形が、森の木々から突き抜け、遥か遠くへと吹き飛んでいった。

人の秘密というのは、尊重し、守ってあげるべきだ。

森の主の秘密を知った四葉にとって、今回の事件は良い経験になった。




(まさか森の主さんが…私を撫でる時に斜め58度から来ていたなんて…!!!)


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