骨魔砦攻略
ワンダーズに届いた、とある挑戦状。
「我らボーン軍団が、お前達をやっつける。北の骨魔砦にて待つ…と書いてあるわ」
事務所の、弾力あるソファーに腰掛けながら手紙を読み上げる。
ボーン…モンスターの名前だ。
体が硬く、骨のようなシルエットのモンスター。
完全無害ではないものの、基本的に人を襲う事も少ない無口なモンスター達。
そんな彼らが挑戦状を送りつけるなど、少なくとも長い戦士としての活動の中では一度もなかった。
葵の左右から覗き込むのはれなとテリー。
れなはハマっていたゲームをクリアし、テリーは妹観察日記三十四巻を完成させた事で丁度暇を持て余していたところだ。
れなは顎に手をやり、既に楽しげ。
「ボーンかぁ。あいつら、物理攻撃が効きにくいから…戦ってて楽しいんだよね!」
それに続き、テリーも骨の拳を握る。
「同じ骨として、負けてられないぜ。この戦い、ぜひ俺を連れて行ってほしいところだな」
ワンダーズはやっていて楽しい。
適当に過ごしてるだけでも、こうして戦いの種が舞い込んでくるのだから。
「…二人とも、ついてくる?」
『勿論!』
声を揃える二人。
今回の戦場は…骨モンスターのアジト、北の高原にあるとされる骨魔砦だ。
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「ここかー」
骨魔砦は、暗い空の下に聳える不気味な建物。
一本の骨を模したような白い建物で、古来より骨型モンスターの溜まり場として、危険区域の一つに数えられてきた場所。
現代もその不穏な空気は薄れる事を知らず、今回のボーン達のように、ここを拠点として使っている輩も度々現れる。
門は…開いている。正々堂々、正面から迎え撃つ気なのだ。
「よーしっ!骨野郎どもをぶっ飛ばす!へし折ったる!!」
気合満々に、れなは先導、門を通り抜けてしまう。
「ちょっ!れな!いくらなんでも急ぎすぎよ!何か急ぎの用事でもあるの!?」
手を伸ばす葵だが、れなは止まらない。どんな時も馬鹿正直に正面突破が彼女のスタイルだ。
そして…。早くも砦内に突入した。
冷たい地面に、靴が置かれるや否や…。
「わっ」
突然、正面から鉄球が飛んできた!
侵入者を迎撃する罠だろう。
だがれなは怯まない。拳を突き出し、やはり真正面から迎え打った!
瞬時にバラバラになる鉄球。勢いよく飛んでいく破片は、壁や天井に突き刺さる。
そして、本命達が現れる。
「…侵入者、来た」
「やっつける」
まるでロボットのような、無感情極まりない声。
無数の武具や大砲が並べられた広間の奥からゾロゾロと現れたのは、骨を模した白いモンスター達。彼らこそがボーンだ。
噂通りの無表情、無感情。硬そうな体。
れなは口角を上げ、早速拳を構えて戦闘態勢。
「あんたらが挑戦状を出してきたボーン達か。アタシらワンダーズに喧嘩を売った事を後悔させてやる!」
かかってこい、と手を振るうれなに、ボーンの一人が呟くように発した。
「…ぶっころす」
「いや、いきなり殺意高くね!?」
構わず、ボーンの一体がれなに向かってくる!単純な体当たり、攻撃自体は単純だが…。
れなのカウンターの蹴りがボーンを叩きつける。だが、効果は薄かった。
「やはり効かないか」
物理に強いボーン。動きこそ止まるが、それ以上のダメージは受けない。工夫して攻撃を仕掛けなければならない…。
と、そこへ追いついてきた葵とテリーが現れた。
「れな、早速やってるな!」
「テリー、こいつらやっぱ硬いよ。どうしよ?」
腰に手をやって考え込むれな。が、その頭の中ではほとんど工夫した考えなど浮かんでない。
どう殴るか、どう蹴るか、それだけ。
そこでテリーは、骨ならではの能力を見せてきた。
「安心しろ!単純に殴って無理なら…」
…彼もあまり考えてなかったのか、不自然な間が空いた。
「…焼けば良いのさ!」
同時にテリーの右手が変形、筒状の形状に変異すると…そこから魔力を放出、青い炎を吹き出した!
炎はボーン達を囲い、瞬時に呑み込む。魔力を帯びた炎による炎撃は、ボーン達の硬さを無効化してみせた。
「わあ」「ひい」等、熱さを感じ、苦しむ声すら無感情だった。ある程度焼いてみせると、テリーは筒の腕を引っ込め、元の手に戻すなり、手首を鳴らしてみせる。
ボーン達は一斉に土下座、降参の意を示す。
「お許しを」
「よし。許す」
まるで滑るような段取りの速さ。相手の口数が少ないと余計なお喋りも少なくて済む。
が、ここは砦。敵がこれだけしかいない訳が無い。
部屋の奥には上階へと続く白い階段が見える。ボーン達を降参させても、この砦を降参させた訳では無い。
「よーし、俺についてこい!」
敵を倒した事で調子づいたのか、テリーが二人の前に立ち、歩を進め始め、れなもそれに続いて楽しそうに階段を登り始める。
やれやれと呆れ気味に続くのは葵。次も上手くいくだろうか。
蝋燭達が出迎える階段を登って、二階へと到達する。ひんやりと冷え込んだこの砦の中で、僅かな火も癒しとなる。
しかし緊張は緩めない。
力を抜かず、二階へと足を踏み込んだ。
「…ここか」
そこは、一階よりも随分狭い部屋だった。
マンションで言えば六畳程。戦闘には向かなそうに見えるが、相手はモンスター。どんな戦法で来るか分からない。
「ん?何か置かれてるぞ」
テリーがそれを発見した。
床に倒れてる、モニター装置のようなものだ。パソコンほどのサイズで、何か文字が浮かび上がってる。
【問題。人間の骨の中で特に硬い骨は?】
問題だった。今度は知の勝負と来た。
テリーは首を傾げ、骨を鳴らす。脳が存在してるのかも分からない頭で深く考えるが…答えは浮かばない。
「さっっぱり分かんねえ」
「いや、テリー。あんた骨でしょ?こういうのは分かるようにしなさいよ」
葵は慎重に、モニターにハンドガンを向けつつ、答えを言おうとした。
「一番硬い骨。それは歯…」
「お尻っ!!!」
背後で、れなが突然叫ぶ。
モニターはその声を認識してしまったのか、赤く輝き、部屋中にサイレン音が響き渡る。
…天井から無数の影が降りてきた。先程と同じく、ボーン部隊だ!
不正解ではボーン達と戦う羽目になるらしい。
「わーー!!ごめん!!」
れなが白目を剥きながら叫び、ボーン達へと回し蹴りを仕掛ける!
先程の戦いで彼らの僅かに脆い部分を観察していたのか、今度は蹴りで有利なダメージを与える事ができた。
次々に倒れるボーン達…テリーの魔力に頼るまでもなさそうだった。
「…れな」
葵が、床に転がるボーン達を見下ろしながら苦笑。
「歯が一番硬いのよ。お尻って、尾骨の事かしら?」
「え、あ。何となくお尻って叫びたくなったから叫んだだけで…」
…先が思いやられる。
その後もしばらく同じ部屋が続いた。
硬いボーン達は、的確な攻撃を仕掛けなければ中々倒れない厄介な相手だ。しかし、顔や、手足の先端であれば比較的まともなダメージが通る。
「れな!お願い!私の後ろのボーンをやっつけて!」
「さっき迷惑かけた分、活躍してみせるぜえーっ!」
三人の戦闘技術を前に、ボーン達は次々に気絶し、砦の床に散らばっていく。まるで白骨が並んでいるかのような光景が少し不気味だ。
やがて、砦の最奥地にようやく辿り着く。
そこは…大きな赤い扉が鎮座していた。それまでの部屋以上の迫力に溢れており、いかにもこの先に何かが待ち構えている予感がする。
「やっとここまで来たわね…じゃあ早速入るわよ」
葵が扉に手をやる。
この先で待ち構えているのは十中八九、ボーンのボス。間違いなく、硬い。
重い音と共に扉が開かれる。
そこは、骨を模した柱が何本か佇んでいる、広い部屋。
部屋の奥には、人骨がでかでかと描かれた絵画が置かれている。
いや、あれは人体骨格図…あちこちに骨の名前が記されている、整形外科等で見られるアレだ。
その下に置かれた椅子に腰掛けていたのは…一体のボーン。
いや、通常のボーンとは明らかに異なる姿。
ちょび髭を備え、目つきが少し鋭い。頭には、黄金の塗装に白銀のライン模様を敷き詰めた派手な王冠が。
「ここまで来るとは。流石ワンダーズ、骨のあるやつらだぜ」
部下のボーンよりも、達者に喋る。
身構える三人…。
「…この俺、キングボーン!この砦を守る最後の砦となる!!」
彼は…突如、何か武器を取り出した。
それは…アサルトライフルだった。
「…!?!?」
葵が即座にハンドガンを構え、瞬時に撃つ。
アサルトライフルの銃口に弾丸がぶつかり、僅かに弾道をずらす。
「隠れて!」
葵はテリーとれなを突き飛ばし、骨の柱に隠れさせる。
アサルトライフルの激しい発砲音!
「オラオラ行くぞおおお!!」
キングボーンは柱へと集中砲火。
銃声の中、三人は互いの身を寄せ合って反撃の機会を伺う。
「…もう骨、関係ねーじゃんか」
テリーは手元に魔力を集中し、骨を一本形成、本格的な戦闘に備える。その隣で、葵が弾をハンドガンに装填、反撃のチャンスを伺う。
「キングボーン…あいつは確か百年以上生きたボーンが進化した姿と言われてるわ。長年生きた事で、威張りん坊の怒りん坊の欲張りのクズのカスのくそったれの人間の風上にも置けない、救いようのない性格になると聞いた事があるわよ…」
「つまり、腐れ骨ってやつか」
テリーは少し顔を出し、キングボーンが放つ弾丸の僅かな隙間へ狙いを定める。
今だ、と心の中で叫び、作ったばかりの骨を投げ込んだ!
キングボーンはその骨にいち早く反応し、銃撃を集中させた。
骨は粉々になり、骨片として地面に散らばる。
(この同胞殺しめ!)
テリーの歯が食いしばられる。
テリーの魔力骨を砕くあまり、かなり高級な弾を使っているようだ。当たった際のダメージは大きいだろう。
柱に隠れ続ける三人に、キングボーンは挑発しつつ、弾を装填する。
「おーら、どうした?チビッちまって動けねえか」
キングボーンが油断を見せた。
三人の怯えた声でも聞こうと思ったのだろうか、アサルトライフルを止めて耳を澄ましてくる。
百年以上生きてる割には不用心なやつだ。
当然、こんな相手に三人は屈しない。むしろ、今作戦を考えたところだ。
発案者は葵だ。
「…この作戦でいくわよ。二人とも、私があいつの前に出て[台詞]を言ったら、あいつに一発かまして」
れなとテリーは顔を寄せ合い、頷く。
この作戦なら絶対に負けない。そんな自信があった。
…葵が、柱から出てくる。
「おーや、ついに降参するか、緑髪」
キングボーンはアサルトライフルを向け、引き金に指を置く。
葵はその憎たらしい顔に向けて…こう言った。
「…この、鎖骨!!」
「鎖骨だとおおおお!?!?」
天井にアサルトライフルを連射するキングボーン。明確な怒りが見て取れる。
鎖骨は一番折れやすい骨と言われている。
それすなわち、キングボーンにとっては軟弱者と言われたのも同然だ。
彼はわなわなと震え、アサルトライフルを投げ捨てる。
骨の王として、自身の硬さで目の前の敵を片付けんと、突進を仕掛けてきた!
「このアマァー!!許さねえ!!」
葵は一歩も引かず…目だけで、相棒達に合図を送ってみせた。
「この野郎ー!!!」
別の柱から、れなとテリーが飛び出し、それぞれの足を突き出す!!
葵がキングボーンの気を引いている間に、別の柱へと移動していたのだ。
キングボーンはあっさりと不意打ちを許し、二人の蹴りをまともに食らってしまう。
吹き飛ばされ、壁に激突するキングボーン。
一応硬さはあったようで、頑丈な砦の壁に無数のヒビが入れられた。
作戦成功…。
鎖骨と呼び、彼のプライドを傷つける作戦…ではあったのだが。
葵はキングボーンのすぐ横の壁に、一発発砲した。
「…骨の王のくせに、骨を侮辱したような態度ね、あんた。鎖骨がないと、まともに腕も動かせなくなるのよ?腕が動かないと、食べることも持つ事もできなくなる。鎖骨だってめちゃくちゃ大切な骨なのよ?」
黙り込むキングボーン、眉を吊り上げる葵、心の中でこう突っ込むテリー。
(え、じゃあ何で鎖骨呼び作戦なんて考えたんだよ)
キングボーンは、その一言がとどめとなったのか…力なく、重力に引っ張られるまま、床に倒れ込んで気絶した。
骨魔砦は鎮圧され、ボーン達は警察に突き出された。
その帰り道。
まだ漂っている白い霧をうざったそうに払いながら、れなは語る。
「それにしても骨かー。生き物の体を内側から支えてくれる骨…ちゃんと考えたこともなかったよ。今回の戦いは、骨の大切さを教えてくれたんだろうね」
(いや、そんな内容だったか?)
本日二度目のテリーの突っ込み。
何かと興味を持ちやすいれな。
今回の戦いで深く感銘を受けたようであり、骨に対する興味が沸き立っている様子だった。
そして、横を歩くテリーに食い入るような視線を向けている。
「…な、何か嫌な予感がするぞ…」
さっさと帰ろうと、飛行しようとしたテリーだが…。
れなは、彼を逃さなかった。
テリーの足を掴み、彼を引きずり下ろしてくる。
「ちょ、やめろれな!!何する気だ!!」
「骨格標本が欲しいんだぁ。お前の骨で勉強させてくれだぁ」
れなはテリーの体の節々に指を引っ掛けると…。
…バラバラに解体してしまった。
「よーし葵!早く帰って骨の勉強するぞ!!」
テリーの頭蓋骨を両手に抱え、他の骨は頭の上に器用に乗せる。
学習意欲の為に仲間を解体する女。それがれなだ。
葵はしばらく、一部始終を見つめていたが…。
「…まあいっか」
「よくねーよ!!」
テリーは、口を震わせて叫ぶのだった…。




