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欲張り悪魔とデサイア キュバス

今回はちょっと長めの茶番です。


テクニカルシティにある博物館は、科学の街に相応しいものだった。

街が誇る科学力により、人間が踏み込む事は不可能とされていた数々の遺跡から遺物が発掘され、厳重な管理の下で公開されている。

本来自然によって生じた土や岩に覆い隠され、人間どころか自然に暮らす獣の目にすらつかず、悠久の時を独占し続けてきた遺物達。それらが、身分も地位も関係なく、等しく全ての人々の目にその姿を見せる。

良い時代だった。


そんな、神聖な場とも言えるこの場所で、れなは警備を任されていた。


その日は客も少なかった。

色とりどりな花壇、煌めく噴水が設置された庭園。

平日特有の寂しさ、同時に誰にも乱されぬ美しさ…この庭園もまた、展示物の一つと言える。

「アイムスリーピーーー」

大きく伸びをするれな。その手先は、既に拳が握られている。

平和なのは良い事だし、悪人が現れないのも結構な事。しかしそうなると、欲求…戦闘意欲が湧いてきてしまう。

「うーん、暇だなー…平和なのと、戦いが無いのは別なんだよ」

少しでも気を紛らわそうとシャドーボクシングを始めるれな。彼女の人工頭脳が「抑えろ」と意欲を静め込んでも、両手は「嫌だ」とばかりに自然に動いてしまうのだ。

それがれなという女の(さが)。究極の脳筋。


…拳の力加減を誤ったのか、拳圧が生じ、拳先にあった博物館の壁に穴を空けてしまった。

「あ」

口笛を吹いて誤魔化す…。


そのくらい、今の彼女は(飢えて)いた。


そこへ…少なくとも現時点では救世主と呼ぶべき二人組が現れた。

「ん?」

何やら強い力を感じ取る。


目の前の庭園に、胸元を強調したようなラバースーツを着た少女達が現れたのだ。

一人は赤い髪、赤のラバースーツ、もう一人は二本の青黒い角、そして紫の長髪。

昼間から大胆な格好とも言えるが…れなは、別の意味で驚きの声をあげた。


「あっ!デサイアにキュバス!!」

デサイアという名前で赤い方、キュバスという名前で紫の方が反応した。

二人は目を丸め、れなを見る。

『げっ、れな!!!』

そう、ある意味で顔見知りなのだ。


この二人は、元闇姫軍の悪魔。


特徴を言い表すなら、(欲張り)の一言に尽きる。

必要のない物まで盗難を試みる程に欲まみれ。闇姫軍に所属していた頃も、仲間の武器を奪い、防具を剥ぎ取り、城の調度品、果ては城の一部を丸ごともぎ取り、持ち去ろうとした程。

戦力とその欲望の制御性が釣り合わず、闇姫からは即解雇を言い渡された。尚、出来る限り部下の居場所を維持しようとする闇姫が自ら解雇を言い渡すのは極めて稀な事だった。

以降は各地を彷徨い、悪魔らしく反省も後悔もせず、世界に散らばる宝を求めて強奪を繰り返している。この日も恐らく、博物館の展示物でも盗みに来たのだろう。

が、今日に限って警備員は、未だ闇姫軍を苦しめ続けているワンダーズのれな。

本来ならば警備員を真正面から殴り倒し、さっさと展示物を強奪していく予定だったのだが…とんでもない警備員が待ち構えていたものだ。

正義の味方、ワンダーズがここにいるとは。

「ちっ…デサイア。どうする?」

キュバスの声は大人びている。腰に手を当て、舌打ち交じりにデサイアに目をやる。

一方のデサイアは…情熱の赤とはよく言ったものか、足を深く踏み込んで構えを取り、戦う気満々だ。

「決まってるでしょ!れなをやっつけてやる…」

「馬鹿ぁ!」

キュバスの角が、デサイアの後頭部を突き刺す!!

絵の具のごとく血が噴き出し、白目をむくデサイア。

「いっっった!!!何すんの!!」

「何すんの、じゃない!!れなは強敵よ、さっさとここから逃げないと!」

そう言いつつも、目が泳ぐキュバス。

何も盗まず尻を向けるのは、彼女らの強奪者としてのプライドに生々しい傷をつけてしまう。

「…せめて、これだけでも持っていきましょ」

彼女が目をつけたのは、噴水だ。

おもむろに噴水に近づき、掴むなり…そのまま地面から引っこ抜いた。

生物のごとく生々しい音と同時に、配管や装置が地中から露出する。水が噴き出し、晴れの空の下の地面を雨上がりのごとく濡らし散らす。

そのまま、噴水を丸ごと持ち上げて走り去ろうとするキュバス。

「…あ、こ、こらー!!待てー!!」

れなは急いでそれを追いかける。

拳を高速で突き出し、先の拳圧弾を発射して二人を狙撃。街を傷つけないように器用に攻撃していくが、二人は背を向けたままかわしていく。

噴水を丸ごと持ち上げた少女が駆け抜ける様は…最早言うまでもないが異常な光景。

しかも悪魔というだけあって無遠慮だ。

商店街に突入するなり、噴水をあちこちの建物にぶつけ、人々を突き飛ばし、地面を濡らし、買い物帰りのラオンに体当たり…。

「いって!?ごら危ねえじゃねえかぁ!!」

買ったばかりのマカロンを地面に散らし、うつぶせに倒れ込むラオン。間髪入れず、れなの足がラオンの頭を踏みつける。

「わーーっ!!ラオンごめん!!」

「れ、れな…テメエまで…覚えとけ…」


二人はどこまでも逃げ続けるものと思われたが…街の中央広場に到着するなり、足を止める。

そして…あれだけ大切に抱えていた噴水を、唐突に投げ飛ばしてきた!

「うわっ!」

驚きながらも、れなは飛んできた噴水を両手で受け止めた。何とか傷をつけず(いや、最早手遅れに近いが)、取り戻す事ができた。

が、何故突然諦めたのか?

それを聞くより前に、キュバス本人が理由を明かした。

「逃げてる間、宝石店を見つけたのよ…。邪魔な噴水一個を持ち去るより、宝石沢山の方が稼げるでしょ?」

わざわざ目的を明かしてから、二人はれなの左右を横切っていく。

まるで挑発のようだった。いや、間違いなく挑発だ。身軽になった事で更に強奪がスムーズになった今、彼女らはより強気になっている。

「くっ…逃がすか!…ちょっとそこの可愛い子ちゃん、これ預かっといて」

れなは近くの適当な野次馬に、噴水を投げ飛ばす。

悲鳴と共に轟音が響き、ペラペラになった哀れな野次馬の女性が目を回す…。


れなは振り返るなり、助走もつけずに急加速、二人を追いかける。

あの二人とは度々戦った事もあるのだが、好きにさせた時の被害は闇姫級だ。力こそ闇姫には及ばないが、とにかく見境がないのだ。


二人は早速、目的の宝石店の前に到着する。

豪快なスライディング、街の地面に亀裂を刻み、キラキラと輝くネオン看板を見上げ、涎を垂らす。

「キュ、キュバス♥ここの宝石ぜーんぶ転売したら…」

「一生働かなくて済むかもしれないわねえ…」

やはり無遠慮に、二人はガラスケース目掛けて体当たり!皮肉にも、飛び散る破片が宝石のように煌めいていた。

店員の女性は、あまりの出来事に目を丸くして、しばし呆然…。

悪魔であり、強力な力を持つ二人に、コソコソと立ち回る必要などない。彼女らは店員を脅す事すらせず、目の前でショーケースを殴り割り、次々に宝石をかき集め始めた。

最早これは強盗なのか否か、そんな根本的な疑問すら生じてしまうほどの大胆な、そしてお間抜けな強奪事件だ。


「…あっ。だ、誰かー!!強盗よー!!」

叫んだ頃にはもう二人は大量の宝石を抱えて店から出る頃だった。

丁度同じタイミングでれなが辿り着くが、まだ二人組が店内にいるかと思い込み、大惨事の店内へと無意味に入店、余計な遠回りをしてしまったせいで、二人との距離を更に離されてしまう。

「あっ…ま、待てや!この…赤と紫!」

滑りそうになりながら追いかけるれな。

デサイアとキュバスは、右手からそれぞれの色に合わせた電撃弾を発射して攻撃してくる。

それらは地面に着弾すると同時に電撃を散らし、周囲に広がってくる。

この攻撃も読めている…れなは左右に動き、時々殴りつける事で電撃弾を相殺。一度対峙した敵との戦いほど達成感を感じさせるものはない。

それでもデサイアとキュバスはかなりの速度だった。見る見るうちに姿が遠ざかってしまう。

「くっ…町中だからあまり高速移動で人に迷惑かけたくないんだけどな。まあ仕方ない…!」

ここで捕まえなければ、それこそ人間様に迷惑だ。れなは速度を上げ、二人に手を伸ばそうとした…。


が。その必要はなさそうだった。

何故なら…。



「あーーーっ!!!落とした!落とした!!」

デサイアが悲鳴を上げる

青い宝石を一つ、落としたのだ。

追われの身であるにも関わらず、彼女は足を止めてしまい、宝石へ飛びつく。

「ちょ、何やってんのよ!」

続いてキュバスまでもが宝石へと足を奪われた。

二人は欲の化身。珍しい物を求めるのは、二人の本能なのだ。

本能に抗える生物などそうはいない。

『ゲットオオオオ!!!』

二人仲良く両手を突き出し、宝石を包み込む。

逃走劇の最中に、追跡者のもとへ戻っていく者がかつていただろうか。

「ゲットじゃねーよ!!」

流石のれなもこれにはツッコミを入れざるを得なかった。彼女は二人の顔面に同時に狙いを定めると…。


猛烈な右フックを炸裂させた!!!

その一撃は、二人の顔面を同時に殴りつけ、真横へと吹き飛ばす。

コンクリートの地面を衝撃波で裂きながら、遠くのビルに叩き込まれた。

後には宝石が虚しく転がり落ちるのみ…。



…はずだった。

「…あれ?」


宝石が、一つも落ちていない。

あれだけの勢いで吹き飛ばしたにも関わらず、一欠片すら落ちていないのだ。

騒ぎ立てる人々…白昼堂々繰り広げられているのは、強盗追跡か、破壊テロか…当然ながら状況がつかめていない様子。



そして、人々の思考に追い打ちをかけるかのごとく、遠くのビルが突然傾いた。

「…あっ」

昔からあの二人の事をよく知っていたれなは、何となく察した。



ビルが地面から根こそぎ引っこ抜かれ、空中に浮き始める。

よく見ると…あの二人が、ビルを持ち上げていたのだ。

靴の中、頭の上に、宝石が乗せられている。

あの時吹き飛ばされたにも関わらず、しっかり宝石を守っていたのだ。

そして今度は…ビルまで持ち去ろうとしている!

「こうなれば何が何でも盗んでやるーー!!」

猛スピードで空へ飛び去ろうとする二人。


れなは腰を深く落とし…拳を握る。

「…いい加減に、しろ!!」

拳圧が放出され、街全体を一瞬揺るがした。


見えない衝撃波は、空中の二人を瞬時に撃ち抜く!

流石にバランスを崩した二人は、ビルを手放し、地上へと落下していく。


巨大な質量が落下し、耳を塞いでも防ぎきれない爆音が街を襲った。



…二人は、ビルの下敷きになっていた。

流石に宝石は地面にぶちまけられ、拾いようがなくなった。

…れなは指を鳴らしながら二人に迫り、拳を振り上げる。

「ここから去れ…金品全部ここに置いていきな!」

「ちっ」

デサイアの舌打ちと共に、二人はビルの下から這い出てくる。


そして、濡れた犬のごとく全身を振るう。

すると、どこに隠していたのか、札束や硬貨が撒き散らされていく。

せめてもの仕返しとばかりにれなの顔面に叩きつけられる硬貨。

だが、金を渡している事には変わりない。れなは全く動じず、地面に落ちた硬貨を拾い上げ、ニシシと歯を見せて笑った。

「よしよし。貴様らの誠意、認めてやる。どこへでも行け」

「畜生、調子乗って…覚えてなさいよ!!私達は必ず戻ってくる!そしてこの街の全ての財産を手に入れてやるわ!」

二人は翼を背中から生やす。

デサイアは緑、キュバスは青い翼。悪魔である事が一目で分かる特徴だ。

風を地面に叩きつけながら、二人は飛び去っていった。




ひとまず、戦いは終わった。

れなは目の前に倒れたビルを持ち上げながら、地上にばら撒かれた金達を見下ろして、何とも嫌らしい笑みを見せていた。

(キュバスとデサイアはうざいけど…あの二人と戦うとこんな感じでお金貰えるんだよね。良いカモだぜ…)

この金で何を買うか。

シシャモか。新作ゲームか。それともパンツか。

妄想に妄想を巡らせ続けていると…。


「…ん?」


あれは…本当に硬貨だろうか。


硬貨にしては何やら安っぽい質感をしている。そしてやけに薄い。

札束も同じだ。妙に不自然な色褪せ方をしており、同じく質感に違和感あり。


「え、まさか…」



彼女は更に目をこらす。


アンドロイド特有の驚異の視力が、その金達の正体を見破った。



…いつか、れみとの遊びで見た事がある。

あれは、玩具の金だ!



「…やつら、ここまでコケにしおってぇ!!このやろーう」

怒りに身を任せ、れなは持っていたビルを空高く投げ飛ばした。

投げた先は、あの二人が飛んでいった方向だ。


「ぎゃああああ!!!」

ビルの中に取り残された人々が慌てふためく。仕事中のアクシデントなんてレベルではない。これは最早天災だ。


ビルは猛スピードで飛んでいき…。








「キュバス〜次はどこを狙おうか」

「そうね。次はウスノロ村でも…ん?」



『ビルが飛んできたぁああ!!??』

ロケットのごとく飛んできたビル!!

まさか建造物が空を飛んで追いかけてくるなど、世も末だ。

膨大なコンクリートの塊が二人を叩きのめし、悲鳴をあげさせる間もなく一気に落下。




『ぎゃああああ!!!』

見知らぬ森に叩きつけられたデサイア、キュバス、ビルから飛び出した社員達。


窓からは、腫れ上がったたんこぶの社員達が這い出てくる。

「…このやろー!!!!まともなやつはいねえのかこの街はぁー!!」

社員達の怒りの叫びが、森にこだました…。






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