余計なお世話だよ、ヨケーナ・オセワ
数多くの戦いを乗り越えてきたワンダーズ。彼らは日々の戦いの中で、多くを学び、そして実践している。
拳の角度、銃の照準、魔力の強弱、仲間との連携に位置関係。
(…ドクロちゃんは最近背が伸びたと思ったら急に縮んだわね…)
ライフルを磨きながら山道を歩いてるこの葵のように、互いの身長さえ観察し合ってるいる程だ。
そんな戦士としての着眼点を意識し続けているワンダーズ。
今回の依頼…山奥に現れたモンスター、ヨロイムシの討伐。そこからも何かが得られるだろう。
メンバーは粉砕男、葵、そしてラオン。
粉砕男と葵は、特に知識欲が旺盛だ。今回の戦いで、彼らは無意識に更なる知恵を得られる事を期待していた。
そう、無意識…。
彼らの人工の体に刻まれた生物学的本能は、本人にも分からないうちに表へ根を出すのだ。
「よーしっ、ついたぞー」
落ち着きなくナイフを振るうラオン。気合たっぷりの様子は、悪く言えば落ち着きがない。
テクニカルシティ近くの山の入り口。この奥に、鎧のような外殻に身を包んだ、人程の背丈がある虫モンスター、ヨロイムシが現れ、人々の平和を乱しているという。
ヨロイムシとの戦いを、脳内でシミュレーションする。
虫というくらいだから、鎌でも使ってくるのだろうか、ならばラオンの刃が有効かもしれない。
鎧というと、下手な攻撃は効かないだろう。なら殻の隙間から弾丸でも撃ち込むか…。
そんな葵のシミュレーションに、突如何者かが足をのせてきた。
「おいおい、そこの三人」
やけに馴れ馴れしく、なのに聞き覚えのない声。
目を向けると…そこには。
「…誰だ?おめー」
ラオンがポカンと口を開く。
そこにいたのは…兜を被り、銀の装甲に身を包んだロボットじみた姿の怪人。
奇妙な赤い紋章が刻まれているその兜は、新品のような輝きを放っている。
細い手に握られているのは刀…。一応戦士のようだ。
その怪人は、どこか鼻につく態度で首を横にふり、次に人さし指を振る。
「これだから素人は…」
「は?」
ラオンが詰め寄ろうとする。
葵が彼女の肩を掴み、自分達のもとへと乱暴に引き戻す。落ち着いた様子で、葵は怪人に問いかけた。
「あなた、何者?私達はこの先に用があるの。何か用があるなら言って頂戴」
「そうか。なら用件を言ってやる。お前ら、この先に行くのはやめておくんだな」
警告だろうか?だがこの山は、モンスターこそいるが、警告をされるほど危険な存在は紛れていないはず。
怪人は愛おしむように、鞘に収まった刀を人差し指で撫でる。
「お前らのその仕草、武器、そして言葉。あらゆる面に油断が見えるのだ」
互いの顔を見破るワンダーズ三人。
ラオンだけは不機嫌そうに眉をひそめているが、いつも通りの仲間の顔。
戦いに出向く時の、引き締まった表情だ。
初対面の相手に仲間の心境を勝手に決められては流石にムッとくる。粉砕男はあくまで平和的に、けれども自分達の意思を主張した。
「お気遣いありがとう。だが俺達はこう見えて長年戦いを続けてきた。その度に経験と知恵を身につけてきたつもりだ」
強行突破とばかりにペースを速め、さっさと山へ突入しようとしたのは、この怪人が一筋縄では行かない事を悟ったのかもしれない。
実力ではなく、[鬱陶しさ]の面で…。
怪人は、山へ入ろうとする三人の前へ、両手を広げて立ちふさがる…。
「待て!そういう事を言うやつ程、危ないのだ。俺と戦って証明してみせろ…お前らの力をな!」
ため息をつく三人、対照的に意気揚々と刀を取り出す怪人。
「この俺、ヨケーナ・オセワがお相手いたす…!かかってこい!紫髪!」
紫髪、すなわちラオンが呼び出された。
間違いなく、この中で一番苛立っているであろう彼女をわざわざ選抜するとは、命知らずにも程がある。
「やってやるぉじゃぬぇか…」
巻き舌混じりに戦意を顕にするラオン。
ヨケーナと、ラオン。
それぞれが刃を向けあい、ジリジリと距離を詰め合っていく。
刃物勝負でなら負け無しのラオン。
だが…これだけ大口を叩くヨケーナ。彼もそれなりの実力を持ち合わせているのだろう。
実際、彼が使用してる刀は、武器市場でもかなり高額の部類に入る逸品だ。
高級品の多くは、強力な分癖も強く、扱いには一工夫必要だ。少なくとも、その武器本来の威力を発揮するには。
油断せず、ヨケーナから目を離さないラオン。もうこの時点で、戦士としての証明はできているようなものだった。
彼女は、ヨケーナの肩に狙いを定めると…瞬時に飛び出す。
ヨケーナは一瞬、刀を持つ左手を軽く掲げる。
このままでは攻撃が弾かれる、ラオンの本能が危険信号を出していた。
(ちっ、ならば…)
距離を極限まで詰めた瞬間、彼女はヨケーナの胸の装甲へナイフを向ける。衝撃を与え、防御を崩させようという戦法だ。
ヨケーナの全身、そしてそれぞれの部位に目を向け、先の動きを読む。
今度は当てられる…彼女は力を込め、ナイフを叩きつけた!
「ぐおあっ!!」
ヨケーナは、その衝撃で勢いよく倒れこむ。
背後の岩盤に尻もちをつく。
その直後…ヨケーナは刀を振るう。
だがその刃は空を切り、隙を晒す。
恐らく、ラオンの追撃が飛んでくると読んだのかもしれない。だが、その時点ではまだラオンは攻撃の動作すらとっていなかった。
「…何隙晒してんだボケえ!」
ヨケーナの兜へ蹴りを仕掛け、彼を仰向けにひっくり返す。
そして、直ぐ様喉元へナイフを突きつけ、動きを封じてみせた。
今の追撃は、逆に弾こうとしなかった。
…これまでの一連の動きから、ラオンは何となく悟り始めていた。この怪人の正体を。
「…お前、さては素人だろ」
「は、はあ!?な、何を抜かす!」
ヨケーナは仰向けのまま、情けない動きでラオンから離れ、立ち上がり、気合を込めて刀を振るう。足を踏み込み、息を荒げる姿は一見すると強そうに見えるが、実際は…足が震えていた。
後ろから、粉砕男がヨケーナに声を掛ける。先程の冷ややかさとは異なり、今度は少しばかり温かみのある声…同情を悟らせるような、優しげな声。
「…な、なあ。お前、もうやめとけって。悪い事は言わん。俺らは強い。めっちゃ強い。お前の助けはいらんから」
最早面倒になってきたらしく、彼らしからぬ無遠慮さが出てきた。これからモンスター退治に出るというのに、こんな下世話に付き合ってる暇はない。
なのに、やつは食い下がる。
「お前ら!!人が親切に試練を与えてやってんのに何だその態度は!?大体お前…トロそうな見た目して俺にどうこう文句つけんのはおかしいだろ!」
「いやもう、色々とおかしくないか…?」
見た目にまで文句をつけてきたヨケーナに、苦笑いしながら両手を広げる粉砕男。
自分から喧嘩を売ったくせして、自分の首を絞め続けるヨケーナ。今度は粉砕男に刀を向け、ギリギリと歯を食いしばらせる。
「こ、こうなりゃ…お前にも試練を与えてやる…。俺が今ここでお前を倒せば、俺は試練を与える者としてキマる。それで良いな!?」
ここでようやく、粉砕男はヨケーナの隠された意図に気づいた。
…恐らく、戦士に試練を与える強者キャラになりたいのだろう。
何と言う向上心…ではなく、承認欲求。
ならば、その欲望に付き合ってやるより他ない…。
「…良いだろう、かかってこい」
「よ、よーし!」
刀を振るうヨケーナ。見てくれだけは完璧な戦士として、粉砕男へ突っ込んでくる!
「いくぞデカブツ!この勇者ヨケーナ・オセワ…!正義の刀で悪を断つ!」
「キャラもブレブレじゃないの」
腕を組みながら冷ややかに傍観していた葵がついにぼやく。
気にせず、ヨケーナは刀を構えてまっすぐに突進。粉砕男はその切っ先に全く怯まず…ヨケーナの顔面を狙い、拳を握る。
その脳に、現実を突きつけるかのように。
「…喰らえ!」
ヨケーナの顔面がめり込まんばかりに、拳が叩き込まれた。
「ぐはあああ!!」
ヨケーナは見た。
周囲の景色が白く染まるのを…。
これは、彼が試練を下す者…審判者としての意思を示したが故に、世界から認められたのだろうか。
(や、やった…俺は、ついにここまで…!)
世界がスローモーションになる。
戦士を導く星たる者…そんな偉大な存在に、自分はなったのだ。
そして、地面にぶつかる寸前…。
彼は悟る。
(あ、これただ気絶するだけだ…)
…ヨケーナは目を回しながら、気絶した。
「よし、今だ!!俺達は試練に合格した!早く行くぞお!!」
粉砕男が先導し、足を踏み込む。
この厄介者が目を覚ます前に、さっさとヨロイムシのもとへ向かわねば…。
…と、走り出した矢先に。
「…待て…!」
葵の足が、何かに掴まれた。
たった今気絶したはずの、ヨケーナだった。
「審判者が良いと言うまで…試練は終わらん!俺の試練でお前らが一流の戦士かどうか見定め…」
「余計な…お世話!!」
蹴飛ばされ、またもや気絶するヨケーナ・オセワだった…。




