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四葉とショウと森の主

テクニカルシティは科学が発展した街…。

鉄の塊のようなイメージを受けるこの街だが、案外自然にも優しいエコ技術が多く使われている。

街のすぐ横にある美しい緑の森が、その何よりの証拠だ。



そこは多くの生物が暮らしている。

虫、魚、動物、モンスターに至るまで…数々の生物が共存し、生態系を安定させている。



そして…住人の中には、ワンダーズの仲間も存在していた。


幼い少女だった。

黄色い着物を着ており、桃色の髪を、クローバーの髪飾り、そして黄色のハート型の髪飾りで彩っている。

大きな瞳もまた、陽光を直接受けたように美しい黄色。


彼女の名は四葉。森に古来より伝わるクローバー族の娘であり、この森の多くの生き物を世話している。

人間そっくりでありながら、人間ならざる不思議な存在。ワンダーズとは昔から様々な場面で協力しあい、森の平和を守ってきた。

「四葉、花の調子はどうだ?」

四葉を、大きな影が覆う。


球体に顔がつき、苔や草が生え、頭頂部にあたる部位から大木を生やしたモンスターが、四葉に話しかけてきた。

彼は誰あろう、この森の主。四葉を昔から見守り続けてきた、少し頑固だが心優しいモンスター。

四葉は、森の主の威圧的な容姿にも全く臆さず、ニコリと微笑んだ。

「ええ。今日も皆さん元気です。良い天気が続いてるからでしょうか?」

そう言うと彼女は、森の主の腕に飛びつき、その肩の上に乗る。

彼女は森の主に懐いてるのだ。

人間達が放ち、自然を汚染した汚染物質によって親を失った四葉にとって、昔から、森の主が親代わり。

四葉の本当の両親と仲が良かった森の主にとっては、この状況は少々複雑でもあった。

「一緒に、森の見回りをしましょう!」

「ああ。行くか四葉」

重い足音をたてながら、森の主は歩みだす。


森は平和だが…近頃、沢山の石ころが落ちていた。

勿論石ころがある事自体は何もおかしくない。だが、やたら数が多いのだ。

道を塞がんばかりに大量にちりばめられたその石ころ達。…裸足のモンスターが足を傷つける恐れもある。

今日もまた、大量の石が道を塞いでいるのを発見した。

「地殻変動でもあったのか…?」

「私が拾います!」

四葉は率先して、石ころを拾い集める。

昔から清らかな動物やモンスター達に育てられた彼女。幼く、純粋な事もあるが、世の中でも中々お目にかかれない程の優しさを秘めていた。

そう、「彼」のように。



「あれ?あそこで何か、光ってます…」

2個目の石ころを拾おうとしてすぐの事だった。

奥の茂みで、何かが光ってるのだ。

昼間時でも分かるくらいに、はっきりとした光源。人間の落とし物かと思い込んだ森の主は、警戒し、四葉の前に歩み出る。

大きな足を、音一つたてずに踏み出していき…。


そっと、茂みを覗き込む。



そこにいたのは…輝く金髪、輝く瞳を持つ幼い少年だった。


ショウだ。


「あっ!ショウさん!」

ショウがワンダーズの新メンバーと話を聞いていた四葉は、彼に駆け寄る。

「あっ…!」

四葉の声より、森の主の顔に先に反応したショウ。

四葉の友達と知った森の主が、ニヤリと笑って警戒を解く。その顔があまりに不気味すぎて、ショウは一瞬涙目になり…四葉のもとへ駆け出した。

「あ、あなたがもしかして…四葉さんですか!?」

「はい!お会いできて嬉しいです!」

二人は向かい合い、互いの波長がよく合う事を悟りあった。目を輝かせあい、手を繋ぎあう。

その様は、どんなに礼儀正しく振る舞おうとも隠しきれない、子供特有の無邪気さが溢れてる。

森の主は、隅で温かく見守っていた。


ショウは、元々はこの森へ修行に来ていたのだという。だが石ころの多さに気づき、先程のように自主的に石ころ撤去作業という名のゴミ拾いに勤しんでいた。

思わぬ協力者だった。四葉はショウの手を取り、森の主のもとへと連れて行く。

「一緒に森の警備をしましょう!楽しいですよ!」



森の主の左肩に四葉、右肩にショウが乗る形で、再び警備、及びゴミ拾いは再開した。

王国で大切に育てられてきたショウは、モンスターの肩に乗る機会など一度もなかった。

新鮮な体験に、ただでさえ輝いている目を更に光らせ、興奮気味に地上を見おろしていた。


が、その様子も、あちこちに転がる石ころ達を見ると、途端に警備者の真剣な目つきへと変化した。つくづく、適応力が高い。

「それにしても石が多いですね。何ででしょうか」

それに答えるのは森の主。

彼はショウと四葉の座る肩を微塵も動かさず、ある事を伝えた。

表情を変えず、けれども確信に満ちた声で。

それは…。


「…そこに思い切り原因がいるぜ」


突然の、答えだった。



『あ』

ショウと四葉の声がシンクロする。もはや兄妹だ。


目の前に立っていたのは…茂みに僅かに擬態している、緑のモンスターだ。

サイの頭部からそのまま足だけを生やしたような、何とも奇妙な姿をしている。

そのモンスターは、目の前の作業に夢中なようで、こちらを見ている三人の乱入者に気づいていない様子だ。

立派な黄色い角を地面に押し付け、勢いよく振り上げ…。


地面を破壊した。


破壊された地面から飛び散った無数の石礫が地面に広がる。


あまりにも堂々とした、犯罪現場。


「お、おいこらあ!!!」

一瞬唖然とした森の主だが、その怒鳴り声は真っ直ぐだった。

この森は、多くの家族が暮らす家であり、生命の楽園。どんな目的があろうとも、森の主たる自分の目の前で無断の破壊行為を行うなど、彼の森の主としての大義、そしてプライドが許さない。

「貴様…俺の目の前でよくそんな事を…」

サイモンスターは少しばかり怯んだが、その図体通りの図太さで、歯を見せて笑ってみせた。

「…おっさんがこの森の主か?へへへ…なら挨拶が必要だな」

モンスターは片足を踏み込み、草を散らす。

森の主に見せびらかすかのように、地面をひび割らせてみせた。

「俺の名は、アタライノ!闇姫様よりこの森を荒らしまくるように命じられた、突進モンスター!脳筋軍団所属!!」

今の今まで自然破壊を行なっていたとは思えぬハキハキとした自己紹介。闇姫軍も、教育が行き渡っているようだ。森の主は少しばかり感心したが、見過ごす理由には勿論ならない。

アタライノは自己紹介を終えると、角を向けて戦闘態勢へ。

「さーて。障害があっちゃ破壊を楽しめねえ。おっさんのそのでけえ図体、砂粒になるまで壊しまくってや…」

突然、アタライノの言葉が不自然に止まる。



「…え。子供がいるじゃねえか」

森の主は、左右を見た。

いつの間にか四葉とショウは彼の肩に戻っており、身を震わせてる。

震えながらも、ショウは拳を握り、四葉は睨みつけ…なんとか立ち向かおうとしている様子だ。

アタライノはそれを見て、一歩ずつ後ずさっていく。

「え?まさか子供が怖いのか、お前」

「ちげえよ!!」

アタライノは、今まで後ずさった分を取り返すように、距離を詰めてきた。

角が顔のすぐ前まで来ても、森の主はびくともしない。

「子供を傷つけるかもしれねえだろ!!俺にそんな非道を強要する気か、この悪魔!!」

わなわなと震えつつも、攻撃してこないアタライノ…。

(闇姫軍って、俺が思ってるほど酷いやつらじゃねえのかもな)




森の主は四葉とショウを下ろすと、木を傷つける恐れのない広場でアタライノを迎え撃つ事にした。

もとよりこのあたりは森の中でも土の栄養素が少なく、植物もあまり生えてない。森の主はできる限りこの場で侵入者を撃退する事を心がけていた。


アタライノの角、森の主の爪。


有機物の刃には闘志が込められ、刃物以上の威厳を感じさせる…。


「いくぞ!!」

アタライノが先行をとる。

頑丈な筋肉と皮膚に固められた巨体が、森の主に衝突する。

森の主も、避ける事なく、それを受け止める。

両手でアタライノの頭頂部を押さえ込み、足を踏み込む。

自分自身を盾とするその勇姿。森を守ってきた誇りそのものだ。

「木一つ、傷つけさせんぞ!」

アタライノの身体を怪力で持ち上げ、空中へ投げ飛ばす。

木々が揺れつつも、葉っぱ一つ落ちなかった。力任せに見えて、力の加減を調整した慎重な攻撃。

だがアタライノは空中で回転し、森の主に狙いを定める。

「へっ、こんな程度で、突進魔と呼ばれた俺が止まると思うか!スカイアタックでも喰らえ!」

ロケットのごとく落ちてくるアタライノ!

勢い任せながら、その重量と角を生かした強力な一撃が、地上の森の主に炸裂する。

巨体が押し倒され、転がり、僅かな草を散らす。

『森の主さん!!』

茂みから見ていた四葉とショウが、また声を揃えた。

森の主は頭の大木を軽く手で払いながら、立ち上がる。

「…大丈夫だ」

アタライノは森の主の目の前で、動きを止めていた。憎たらしく歯を見せる。

「俺の動きが見えなかったみてえだなおっさん?こりゃ案外、簡単に勝っちまいそうだぜ」

まさに勝利の確信。アタライノは完全に油断しきっていた。

被弾こそしたが…戦士としての経験は、森の主の方が特段上だ。

それをアタライノは身を持って知る事となる。


「ガハハハハ!!年はよく考えるもんだぜ、おっさ…」

ポキリ、と、アタライノの鼻先から何かが折れた。


「ん?」


角が、折れた。


足元に落ちた黄色い角を、アタライノはしばし呆然と見つめていた。


「あ…?あああああっ!?い、いつの間に!!」

意味もなく距離を離すアタライノ。森の主は、聞かれるより前に種明かしをした。

種明かし…と言っても、単純極まりなかったが。

「さっき突っ込まれた時、俺の爪をお前の角に叩き込んでおいた。硬度は俺の爪のほうが上だったようだな」

「は、は!?俺の自慢の角が!!負けたというのか!?み、認めねえ…!」

アタライノは、体勢を低くする。両足が深く沈み込み、地面にめり込まんばかりに体重をかけ始めた。

「角がなくても勝てるっ!!この森を石ころで埋め尽くすまでは、負けられない!!絶対に、諦めるものかぁーー!!!」

(主人公みたいな台詞だな…)

心の奥底で突っ込みつつ、森の主は彼を抑え込もうと手を突き出した。


だが、もはやその必要もないようだった。


『させません!』

幼くも、勇敢な二つの声。

アタライノの目の前に立ちはだかったのは、小さな2つの影。


四葉とショウだ。

森の主より遥かに小さなその体が、アタライノには壁のように見えた。


「なっ…!!あ、危ねえじゃねえか!!」

ブレーキをかけるアタライノ。勢いをつけすぎた為か、両足が地面にめり込み、すぐに動けなくなる。


勢いが良すぎる突進、子供への気遣い。

全て、アタライノ自身が招いた結果だ。

…まあ、子供を気遣うのは見上げたものだが。

「おしまいだ!!」

森の主は飛びかかり、両足を揃えてアタライノを蹴飛ばした!!

同等の質量が全力で衝突、アタライノは後ろへ吹き飛ばされ、激しくバウンド、緑の身体は土で薄汚れた。



「ち、畜生、覚えてろ!!」

先程の勇ましい台詞はどこへやら、今度は小悪党らしい捨て台詞を吐き、背を向け、茂みへと猛スピードで突っ込み、逃げていった。


残った森の主は、屈んで四葉とショウの頭を撫でる。

「…終わったみたいだな。二人とも、よくやってくれた。でも、無茶はするな。俺に終始任せてくれて良いんだからな。お前たちは子供なんだから」

頷き合う二人の顔は、嬉しそうだった。

今回の件を通じて、新たな友達ができた事を純粋に喜んでいる。

やれやれとばかりに、森の主は再び二人を肩に乗せる。

今日も森は平和(?)だった。

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