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潜忍 トイレットペーパー争奪戦

テクニカルシティのコンビニでは定期的に、珍妙な品が売られる。

アンコウの標本だったり、隕石の欠片だったり、人間の頭部…いや、失礼、人体模型の頭部部分だったり、基本何でもありだ。

そういう物を求めてやってくる客は多い。

れなもまた、その一人だ。


「今日はランダムトイレットペーパーか!よーし、博士も喜ぶだろうし、買ってあげよっ!」

コンビニに貼り付けられた宣伝紙から、今日はランダムトイレットペーパーである事を知る。

ランダムトイレットペーパーとは、全て使い切った後の芯に、あたりかハズレかが書かれたトイレットペーパーの事。

当たれば更にトイレットペーパーをプレゼント。節約に繋がる絶好のギャンブルだ。


早速入店し、無気力な「らっしゃっせー」が、bgmと共に耳に滑り込む。

陳列してある商品に適当に目をやりながら、れなは奥の方に置かれた目的の物に目を向けた。



ある。一見するとただのトイレットペーパー。

その下には、五千円と表示されたPOP。


個数は…なんと、最後の一つ。

大人気商品だ。


ただのトイレットペーパーの方が、それこそ節約になるのでは、と言ってはいけない。

これはギャンブルだ。ギャンブルという名の節約だ。多分。


迷う事なく、れなはそれに手を伸ばす。


…が、邪魔が入った。


『あ』

声は、二つ。


一つはれな。

もう一つは…彼女の横に立ち、同時にトイレットペーパーに手を伸ばした、怪しげな人物。

黒いローブを纏っており、全体的に細身。忍装束を身に纏っており、いかにも忍者、と言った風貌。

忍者がこんな所に何の用…とは思わなかった。

明らかに狙いは、このトイレットペーパーだ。


「…儂が先に触ったんじゃ!!儂によこせ!」

「は!?アタシが先だろ!アタシによこせ!」

互いに譲らない。

二人はトイレットペーパーを求めて、言い争いを始めた。


「儂は数々の戦を潜り抜けて来た、闇姫軍有数の実力を持つ忍者、潜忍(せんにん)じゃ!日頃の潜入捜査はキツイ。それに忍具を買う金だってかかる!だからこうして節約しようとしてるんじゃ!」

「潜入するから潜忍って、そのまんまやん」

思わずツッコミが漏れるれな。

それはともかくとして、このトイレットペーパーは夢にも見た逸品。ここであっさりと奪われる訳にはいかない。


どうするか…答えは単純。


勝負で決めるのだ!


「こうなれば、儂と勝負じゃ。殴り合って、倒れた方が負け。単純じゃろ」

「やってやるぉじゃぬぇか」

凄まじい巻き舌を披露するれな。


そこで、レジに立つ店員はカウンターに身を乗り出し、二人に声をかけてきた。

「おっ!何か面白い事を始める気ですね?客寄せに丁度いいです。どんな事でも始めちゃって下さい!」

店員の許可も下りた。

ならばもう、やりたい放題だ。

潜忍はニヤリと笑うと、突如身を翻す。

「では、始めるぞ…!名付けて、かくれんぼバトルじゃ!」




次の瞬間、彼の姿が消えた。



僅かな風圧だけが、れなの長い髪を揺らす。

れなは慌てて周りを見渡す。

周りにあるのは、商品棚、そして、面倒事に巻き込まれたくないとばかりに、一連の会話が聞こえぬふりをしているであろう顧客達。

「どこだ!どこに行った!!」

大袈裟に首を左右に振るれな。潜忍の姿はどこにも見当たらない。既にこのコンビニのどこかに潜入したようだ。

慎重に歩を進めるれな。普段行き慣れた日常の場が、戦場に変わった。

やつはどこに潜んでるのか、どんな手を使ってくるかも分からない。


警戒を解かぬまま一通り店を回り、雑誌コーナーへ到達。潜忍の姿は、やはりどこにもない。

「おかしいな。どこへ消えたんだ?」

姿も無ければ気配も感じない。彼女は一旦拳を下ろし、もう一度コンビニを探索しようとする。


「隙やり!!!」

れなの後頭部に衝撃が走る!

ぐらり、と揺れる視界。アンドロイドといえど、後頭部への攻撃は致命的だ。

「ぐっ!!」

何が攻撃してきたのかは最早言うまでもない。

潜忍だ。

れなは急いで背後の潜忍から離れ、その際、自動ドアが反応。外界と屋内の空気が一時的に混じり合う。

潜忍は頭上を指さす。

「天井に張り付いておったのに見つけられぬとはな!」

天井…よりによってそんな分かりやすい場所に堂々と隠れていたのだ。れなは悔しさのあまり、「ぐぎぃ」と意味もなく声を発し、その声に怒りを混ぜこみ、排出する。

「ふん、不意打ちするなんて…。戦士の風上にも置けないな!バーカバーーカ」

「不意打ちだって、戦いの技術の一つじゃ。長年戦士をやってきて、そんな事も知らぬのか?バーカバーーカ」

れなの怒りが爆発する。

潜忍に真正面から拳を叩き込み、その風圧で店中の商品が揺れ動く。

客達は、いつの間にか二人の戦いに注目していた。店員に至ってはもはやノリノリで、マイクを取り出して実況してる。

「これは盛り上がってきました!たかがトイレットペーパーでここまで張り合える頭の悪さ!馬鹿と馬鹿の大勝負、果たして勝つのはどちらだ!?ワタクシ個人としては、もう働くのはうんざりなので、あわよくばこの店ごと破壊してほしいものです!」


それから二人の戦いは続いた。

潜忍は狭所での戦いを得意とするようで、戦況は終始、潜忍の有利。しかしながら、れなもれなで彼の攻撃に耐え続ける。顔面を殴られようと、クナイで背中を突かれようとも倒れない。

全ては、トイレットペーパーの為。

「今度はどこだ!」

「ここじゃ、ボケ!!」

アイスのショーケースから飛び出し、凍らせたクナイを投げる潜忍。

冷気を纏う危険な一撃だが、れなはそれを見切る。飛んできたクナイに手刀を振り下ろし、真っ二つに切り分ける。

スマホを構えた客達の、「おおっ」という声が、店内bgmと溶け込むように浸透した。れなは胸を張り、足を広げ、堂々と佇む。

「ふん、もう攻撃パターンも、お前の行動も読めてきたよ。次は従業員スペースに潜り込むつもりでしょ」

戦士の感覚が、れなの精神力を研ぎ澄ましている。彼女の予想は的中したようで、潜忍ははじめて明らかな動揺を見せた。

「くっ…。手を読まれる前に早期決着に持ち込むべきだったか。ならば…」

また、姿を消した。

もはや慣れたとばかりに、れなは落ち着いた様子で周りを見渡す。

相変わらず気配は感じない。ならば対処は一つ。これまでの彼の行動から、次の行動、攻撃を予測する。

身体が感じないなら、直感に頼る。

彼女は頭が良い方ではないが、戦闘に関する頭の回りは人一倍だ。

予想外の手段に出られない限り、やつは恐らく…再び天井から来る。

顔を上げ、天井へ視線を向ける。


奴の姿は…見当たらない。

予想外の手段に出た可能性が高い。



れなが再びコンビニを探索しようとした、その時。

「おえええええええ!!!!」

物凄く間抜けな声が、コンビニ全体に響く。



「うわっ!」

れなは思わず声を上げて驚いた。

そう、潜忍が現れたのだ。

ただし、予想外を極めた位置から。



…あのコンビニ店員の、口の中から現れたのだ。

「隙やりいいい!!!!」

潜忍はクナイを構え、れなを突き刺そうと既に構えをとっていた。

現れ方こそ予想外だが、流石にもう慣れた。トイレットペーパーの為、こんな攻撃に何度も惑わされる訳にはいかない!

迷わず、れなは拳を中段で構え…突き出す。


「ぐえっ!!」

拳は潜忍の鳩尾へと到達。

すかさず追撃の蹴りを仕掛け、潜忍を天井へ叩きつけてみせた。


「くっ…儂の負けじゃ…」

首がダラリと垂れる潜忍。れなの勝利だった。



「やったぁー!!!」

両手を挙げて喜ぶれな。

戦いを見守り続けてきた客達から、拍手による称賛。少数の客とは思えない程、壮大な拍手だった。

れなは誇らしげにカウンターへ向かい、店員に向けて身を乗り出す。

「さあ、トイレットペーパーはアタシのもんだ!金ならある!!」

目を輝かせるれな。


だが…店員は、何やら言いにくそうに口を淀める。

「それが…あの…」

「何だ!早く言え!!」

店員は両の人差し指を絡ませて手遊び。目をそらし、意地でもれなと目を合わせようとしない。それとは真逆に、れなは彼に顔を近づけて圧をかける。

店員は、ようやく吐いた。


「二人が闘ってる間に、お客さんがレジにあれを持ってきたんですよ。で、もう会計しちゃいました」



は?

れなの頭に、その一言だけが響く。

無意識に、潜忍にクナイを投げられた腕を押さえる。




「何で売っちゃうんだっ!!!!」

「いやいや、私店員ですし。それに、別に取り置いてほしい、とも言われませんでしたし?」

拳を震わせるれな。

「こちとら商売ですから?」

どうや?とでも言いたげな笑みを見せる店員。面白い戦いを見れて満足げだが、同時に顧客を舐め腐った態度だった。


「…」

が、確かに取り置いてほしいとも言ってないし、客は皆、平等であるべきだ。

れなは潔く、背を向け、立ち去ろうとした…。



が。

「おい」

れなの肩に、手が置かれた。


潜忍だ。

「…冷静になって気づいたが、トイレットペーパーに五千円もかけてどうする?ここは、普通のトイレットペーパーで手を打とうじゃないか」


不貞腐れていたれなの顔が、徐々に明るさを取り戻していく。


「…そうだね!そうしよう!!」

戦いの中で、絆が芽生えていたらしい。

いや、トイレットペーパーを通じた仲だ。

トイレットペーパーで、アンドロイドと忍者がコンビニで友情を得る。

嗚呼、世界とは不思議なもの。



『これくださぁーい♥』

二人揃って、普通のトイレットペーパーをレジに置く。店員は呆然とした顔つきのまま、バーコードをスキャンするより他なかった。


いつの間にか、はじめは迷惑がっていた客達からは、流れるように鮮やかな拍手が漏れていた。誰もが無意識に手を叩き、二人の戦士を称えるようだった。

戦士だけではない。

この戦いのきっかけとなり、真の節約の仕方を伝えてくれた、トイレットペーパー。

そこは、何もかもが、輝いて見えるコンビニとなった。













何だこの茶番。

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