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マンモス・ジョン

れみ、ドクロ、テリー。

三人はこの日、氷の大地にやってきた。

冷たい空気が体を伝い、撫で、どこかへと消えていく。空は雲一つない青空、そして満面の笑みを見せるお天道様。

氷の大地と温暖なる天との間に、遮断壁でも張られているような、同じ世界とは思えぬ光景が広がっていた。

「ひゅー!やっぱり氷って楽しいね!!」

れみが滑り回っては転び、滑り回っては転び、たまに極寒の海にダイブ…アンドロイドと言えど確実に体を壊しかねないような行為を繰り返していた。

「れみ…楽しいのはわかるけどちょっと落ち着きなさいよ」

「えー?でもドクロちゃんもテリーも、ここへ遊びに来たんでしょ?」

そう。このところ暑い日が続き、涼しい場所に行きたいとぼやいていたドクロを見たテリーが、持ち前の妹愛を発動し、彼女をこの氷の地へと連れてきたのだ。

涼しいというのは少々オーバーな気もするが…ドクロはしっかりと喜んでくれた。つい先程まで彼女もはしゃぎ散らし、海に落ちたところだ。

ちなみにれみは、ここへ行く途中に偶然見かけたから、誘ってみただけ。



「あと、フグちゃんもいるよ」

れみのスカートのポケットから、フグが顔を覗かせた。


氷海に囲まれたこの場。

寒さすらも霞ませる程に、子供の好奇心をくすぐる。ましてや空が青空ならば尚更だ。

れみはフグを地面に下ろし、一緒に滑るよう促す。

「フグちゃん!アタシとどっちが上手く滑れるか勝負だ!」


…が、楽しくなると踊り出すはずのフグは全く動かない。

微動だにせず、人形のように固まってしまった。

滑るのを本能的に恐れているようだ。

「えー、しょうがないな…」

れみはフグを再びポケット送りにした。



しばらく滑って遊んでいると…一際大きな氷の壁を発見した。

「おい、あれ何だろう?」

テリーが指を差す。その氷の壁には所々隙間があり、その先に何か大きな影を発見したのだ。


その先には…。


茶色の体毛に包まれた、大きなマンモスがいた。

「あれは…マンモス・ジョン!」

隙間から顔を覗かせながら、テリーが言う。

あのモンスター…マンモス・ジョン。

遥か昔から生息するモンスターであり、中々お目にかかれない珍しいモンスター。これは思わぬ遭遇だった。

「へー!出かけてみるもんね」

ドクロも続いて彼らを見守る。


マンモス・ジョン自体が珍しいのだが、こうして一箇所に集まっている光景など、少なくとも人間には一生に一度見られるかどうか…。目に焼き付けておこうと、寒さも忘れてその光景を見守る。


「…動かないね」

れみの一言で気付かされた。

彼ら、何故か頑なに動こうとしないのだ。何かに集中しているのか、顔を突き出し、鼻を鳴らしている。その鼻息は荒々しく、何か不満げに聞こえる。

明らかに何かしらの目的がある…。何となく集まっている訳ではない事は確実だ。


ここで知識を披露したのはテリーだった。

「そういえば…聞いた事があるぞ」

隙間から顔を離し、彼は言う。

「マンモス・ジョンは古来から原始人達と共生していた頃があったらしい。原始人達の狩りを手伝って、一番多くの獲物を仕留めた原始人は、集まったマンモス・ジョン達に崇められていたんだとか…」

物語を語るような口調の彼。れみとドクロ、そしていつの間にかポケットから飛び出してきたフグが、マンモス・ジョンの尻を見つめてる。

という事は、あの群れは原始人を崇めるものなのだろうか。しかしその肝心の原始人の姿がどこにも見当たらない。群れの中心にいるのかも、とも考えたが、彼らの間に目を通してみてもやはり見当たらない。


それもそのはず。このあたりの原始人は、とっくにこの土地を離れた、という伝承もあるのだから。

肝心の崇拝対象がいないのにこうして集まり、動きだけでも崇拝を再現している…。この氷と同じくらいに虚しく、そして冷たい情景。

「なんか可哀想だな…」

ドクロが呟き、何かを考える。

頼まれてもないのに、何とかしてあげたくなる…彼女らの癖だった。

テリーがドクロを覗き込み、顔…及び頭蓋骨の穴を歪めて不気味に笑う。

「我が妹よ。お前が崇められてこい。お前は世界一可愛いんだぁ。マンモス達にも絶対魅力が分かる!」

「はあ?嫌よ、何されるか分かんないし。あんたが行ってきなさいよ…」

兄妹の言い合いを、れみとフグは間抜けな微笑みでぼんやりと見つめている。


そんな時。

四人のもとに、ある者が話しかけてきた。

「君達もマンモス・ジョンを何とかしてあげたいんだろ?」


無人と思われた氷の大地で、気さくな声が肩を叩かれる。

れみ、ドクロ、テリー…三人揃って、冷たい息を呑む。


現れたのは、やたら角ばった体のペンギンモンスターだった。ドクロがそのモンスターの前に立ち、無意識にその頭に手を乗せる。

「あっ、カクペンだ!可愛い〜」

このモンスター、カクペン。

氷の大地で様々な芸術品を作り続けている…という生態を持つ変わり者のモンスター。実は過去に、ラオンが関わった事があるらしい。

ワンダーズは、カクペンの事に関しては、ある程度の予備知識が共有されていた。

カクペンは、中々にプライドが高く、面倒な性格だという。その為、面倒な事になるかと少し身構えたが…どうやらその個体はそれほどの見栄っ張りでは無かったらしく、気さくに話しかけてくれる。

「度々戦士がここを訪れて、マンモス・ジョン達の奇行を見ては何とかしてあげたそうにしていたよ。でもね、やめたほうがいいよ…」

「えっ、どうして?」

続けたのはれみ。

カクペンは、氷の隙間からチラリとマンモス・ジョン達に目を向けると…突如、足元に落ちていた少し大きな氷塊に触れ始めた。

テリーはそれを見て、カクペンの生態上、とある行為を予知する。カクペンは芸術家モンスター。手ごろな氷塊に触れるのは、何かを作り出す合図だ。

案の定、カクペンは何も言わずに、どこからかナイフを取り出し、氷塊を切り始めた。水色の粒が星空のごとく輝きを見せる。


そして…一分たらずで、その氷は人の頭を模した形へと変貌した。

そう、たったの一分だった。流石モンスター、流石芸術家。

しかもその造形は完璧の一言。

元々自然のおこぼれだったとは思えぬ精巧な作り…口を開き、どこか驚いたような表情。目は瞼の髄まで生物的な皺が刻まれている。これら全て、ただ氷を削っただけで完成しているのだ。

いつの間にかフグもその氷の口や目の中に入り、楽しそうに踊っている。

「…で、ここから何をする気?」

感動も束の間、ドクロはその作品から目を離さず、ただ一言聞いていた。

カクペンは完成させたばかりの作品を、片手で、何やらずさんに持ち上げる。石ころを持ち上げるような動きだった。そんな動作の後に続くのも、当然穏やかなものでもなく…。


彼は、マンモス・ジョンの群れの中へとそれを投げ込んだ!

ワンダーズの驚きもよそに、氷はマンモス・ジョン達の背中にぶつかり、少しバウンドした後、群れの中心へと落下する。

マンモス・ジョン達は驚いたが、その氷を見つめ、顔が刻まれている事に気付くと…。


ブオオオオッと、歓喜の鳴き声を高くあげる。

そして、彼らは一気に勢いをつけ始めた。


氷の首を、待ちに待った功労者…原始人だと思ったらしい。いや、長年原始人そのものを見ていなかった彼らにとって、もはや功労者などという基準は関係ない。互いにひしめき合い、押し合い、鼻を伸ばして[崇拝]を開始した。

まず…鼻をぶつける。

そして、踏みつける。もうこの時点で無抵抗な氷の塊は粉々になり、下部の口当たりが僅かに残っただけとなる。

残った部分も容赦なく、前脚で蹴り上げる。サッカーボールのように複数の多大な衝撃に見舞われ、氷の塊は完全に粉々になる。

そして、原型すら留めない程に崩壊し、口だけが残された一片が蹴り上げられ…海面へと落とされた。



「…あれが彼らなりの崇拝だよ。自分の図体も分かってないような連中だ。彼らはあれでも敬意を示してるが、同時に、多くの獲物を倒してきたような功労者であれば、こんな攻撃屁でもないだろ、という余計な信頼まで勝手に寄せてくるんだ」

日常風景のようにまっすぐと見つめるカクペンに、一同は青ざめて頷いた。


「…あれ?」

違和感に気づいたのはれみ。

テリー、ドクロ、ついでにカクペンの姿を見渡し、何かが足りない事に気付いていた。


「…フグちゃんがいない!!」


そう、欠けていた。メンバーが。


フグは、あの氷の塊の中に入ってる状態のまま、投げられていたのだ。

「…わーー!!!!ごめん!!本当にごめん!!!」

カクペンが瞬時に土下座した。






その後、冷たい海面を楽しそうに泳ぐフグの姿をすぐに発見。

すぐ後ろに控えるマンモス・ジョンの群れを横目で見ながら、こんな所で遊んでられないとばかりに、さっさと飛び去るのだった…。







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