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ピンツク戦

「ショウです!不束者ですが、よろしくお願いしますっ!!」


事務所のリビング。


ワンダーズの仲間達が、煎餅片手に硬直していた。


そこには見慣れぬ少年。

光姫の弟…ショウ。


あれから彼は王国に無事帰還したのだが、魔術師との戦いを目の当たりにしたれながショウの実力に深い興味を持ってしまったのだ。

あの小さな身体であの動き、あの力…。

そこで彼女は考えた。


ショウを鍛えてやる!と。


とんだ余計なお世話だが、ショウはと言うと、心の底から喜んだ。

彼はれなに抱きつき、目を輝かせてこう言ったという。

「れなさんみたいなかっこよくて優しい方の下で修行できるなんて光栄です!!」

まともに褒められた経験が少ないれなにとって、この言葉は誠に甘いものだった。

そして、ショウの髪と同じくらいに輝いていた。


光姫と光星王ははじめ、止めようとした。ワンダーズの迷惑になると考えたようだが、れなにとっては迷惑どころか大歓迎。

単純に戦力にもなるし、何より本人が強くなりたがってるのだ。力をつけるなら、日々様々な依頼に忙しなく動き回ってるワンダーズの事務所で暮らすのが一番。そういった意味でも、ワンダーズとは便利屋だった。


だが…れなはきちんと考えていた。

仲間達はどう思うか…。


光王国からの帰り道。草木が優しく通行人を囲う、石畳の道を歩きながら、れなはショウに言う。

「他の皆の許可得ないと、君を事務所に住まわせられないかも…。勢いでここまで連れてきちゃって、ごめんね」

両手を合わせるれなに、ショウは首を横に振る。

「むしろ、こんな僕を迎え入れようとしてくださるだけでも、感謝してもしきれないくらいです。改めてお礼させてください。ありがとうございます!」

またもや頭を下げるショウ…。ここまで来ると、れなも少しばかりやりにくそうに視線をそらした。

ちなみにそのすぐ横を歩くラオンは両手を頭の後ろで組み合わせて、特に何も気にしていない様子。彼女もショウの戦いぶりを目の当たりにして、れなと同じ戦闘狂としての闘志が、れなの意志を尊重してくれたような気がしていた。ラオンは還来荒っぽいので、彼女に反論されたら何かと厄介になりそうだったが…ここまであっさりと受け入れてくれるとは。



そして現在。


粉砕男が先導するように発言した。

「まあ、あの光姫の弟さんだ。何も心配する事はないだろう」

彼に続くのはドクロ。

「そうね。それにピカピカ光ってて見栄えもいいし」

「流石我が妹だ!この少年、確かにピカピカ光ってて見栄えもいい!!」

妹の発言をオウム返しの如く発するテリー。葵もその横で頷きながら答えた。

「そうね。ピカピカ光ってて見栄えもいいし、良いんじゃないかしら」

リーダーシップに溢れる葵の許可も出た。


何より大きな反応を見せたのは、れみだった。

彼女は突然大声で笑いながらショウに近づき、彼に頭を下げる。

「ショウ君!アタシ、れみって言うんだ!アタシと同い年くらいだよね?うれしい!!ピカピカ光ってて見栄え良いね!!」

ワンダーズ最年少のれみ。幼さ故に他のメンバーとの年齢の差に少々プレッシャーを感じていた事も度々あったが、ようやく、自身と同い年くらいの仲間が現れたのだ。

これから何をして遊ぼうか、どんな呼び方をしようか…互いに関わり合うビジョンを脳内にイメージし、気持ちを高ぶらせる。


それに対するショウの返事は。

「れみさんと言うんですね!改めまして、ショウと申します!ピカピカ光ってる不束者ですが、よろしくお願いします!!」

お決まりのお辞儀。後ろから見守るれなは、もう何回このお辞儀を見たか分からなくなっていた。

さっきまで笑っていたれみも、ここまでされると、こちらもかしこまらなければならないのかと姿勢を正しそうになる。普段気を緩めてるこの事務所で、ここまで構えたのははじめてかもしれない。



ワンダーズに囲まれるショウ。彼の姿を一つの影が監視していた。

窓の外から見守るその影は…闇姫軍の戦士の一人。



紫の球体から翼を生やした小型の悪魔。

彼の名はデビルマルマン。闇姫軍でも屈指の魔力の腕を持つ悪魔。お世辞にも威厳ある見た目とは言えないが、彼の実力は闇姫からも高い評価を受けている。

「光姫の弟が新たなワンダーズとは。これはまた面白い事になってきたな。ピカピカ光ってて見栄えは良いが、実力は如何ほどかな?」

かなり窓に近づいているが、ワンダーズは気づかない。


デビルマルマンは気配を消す事にも長けている。迫力のない見た目を密かに気にしてるらしく、日常の中でも事あるごとにその実力をちらつかせるのが彼の癖だった。


ショウの姿、魔力、その仕草…あらゆる要素を観察し、目視で彼のデータを集めていく。十秒程で、表面上の情報はすぐにまとまった。

「見た目によらず、中々の魔力を持ってるな、身体能力も高そうだ…。それにピカピカ光ってて見栄えも良い。修行積んでたな、あのガキ」

見た目の幼さによらぬその力。デビルマルマンの興味を誘う。

強い相手を見つけると、ついちょっかいを出したくなる。それが闇姫軍の上級戦士達…強さと悪さを備えた者の性だった。


「もっとあいつの面白そうなところを見たくなったぜ…。ちょっと俺の部下と遊んでもらおうかな?」


デビルマルマンの姿が、紫のモヤと共に消えた…。




「では僕は、この付近の事をもっと知りたいので探検に行ってまいります!」

ショウは実に好奇心旺盛だった。

けれどそれでいて、余計な事には手は出さない利口さも備えてる。彼が言ったこの付近、というのも、事務所の周囲の庭の事だった。遠くへ行く訳でもなく、無邪気に庭を探検し始めた。

「アタシも行く!!」

れみまで飛び出した。ショウが来てくれて嬉しいのだろう、文字通りの自分の庭…なのに、まるで未知の無人島の洞窟にでも向かうかのように、濡れ縁から飛び出す。

やれやれとばかりに微笑みながら、葵が彼らを見守る。



そんな平和な一幕に、刺客が現れてしまった。

「っ…!?二人とも危ない!」

ドクロの声が、庭の二人に危険を呼びかける。


次の瞬間…事務所の塀が勢いよく破壊され、瓦礫が飛び散る。

二人が普通の子供であれば、大怪我だ。しかし幸い二人は、飛んでくる瓦礫を容易く蹴り砕けるだけの力と反射神経を備えている。

一瞬驚きながらも、二人は息を揃えて瓦礫を破壊。早くも相棒同士となった。


塀の向こうからゆっくりと、大きな影が現れた。

それは、まさしくモンスター…。異形の、四足歩行の獣。

ピンク色の皮膚だが、何より異常なのはその顔。やや前向きに傾いた襟飾りの中心に、鋭く尖った棘が一本ついているだけ…。目や口らしきものは見当たらず、生物であるのかすら怪しい。

が、葵はそのモンスターの足取りから、ロボットの類ではない事をすぐに悟る。何より、そのモンスターは自ら名乗りをあげたのだ。

「ふっふっふ、突然の訪問、失礼した!俺様はピンツク!闇姫軍で可愛がられてるアイドル的存在だ!今回はデビルマルマン様のご指示で、ワンダーズの新メンバーをいじめに来てやったぜ!」

新メンバー…。間違いなくショウだ。


葵の横に押しかけるように、他のメンバーも集まってきた。

無理やり顔を出すれなが、ピンツクを見て拳を掲げる。

「滅茶苦茶喋るやつだな!ショウをいじめに来たって?そうはさせるか!ここはアタシと戦え!!お前なんかアタシの拳で一発、ワンパンだ!さあ来い!さあ、どこから来る!!さあ!!」

れなの方が滅茶苦茶喋る…。

葵は横で目を細めていた。


ピンツクはれなを無視して、前脚で三度、地面を引っ掻く。そして、棘部分をショウに向けて足先に力を込める。

「ショウ、来るよ!」

れみがショウの前に腕を伸ばす。彼を守る動きだが、実際はこんな事をしなくても大丈夫だと、既に分かっていた。

ピンツクはまっすぐに突進してくる!あまりに素直なその攻撃。修行を積んでいたショウにとっては赤子の戯れも同然だ。

彼は軽く体を傾けて回避する。

「中々のスピードですね!当たったら危ないところでした!」

相手を敬う台詞を忘れない。どこまで礼儀正しいのだろう。

ショウは、ピンツクの背中に乗り、頭部へ拳を叩き込んでいく。ピンツクは慌てて振り落とそうとあちこちに走り回って暴れ回る。

その際、突進された塀や事務所の壁が壊されていくが、ワンダーズは全く気にしない。

テリーが細長い骨の手を振って呑気な素振り。

「こんなくっだらねえ小説の建物なんだ。どーせ何回でも壊されるさ。気にしてられるか」

なんだかよく分からない理屈を言っている…。


ショウはピンツクの背中から降り、れみの前に立つ。

「れみさん、お気をつけて!あなたもお強い事は十分承知していますが、このモンスター、ピンツクさんの突進力は侮れません!」

「…っ!そ、そうだね!」

戦闘中であるにも関わらず、この話術。今までもワンダーズの仲間であったかのような錯覚さえ覚えさせる。

ショウを守ろうとしていたれみだが、いつの間にか守られる立場となっていた。守られてばかりなのは、れみのプライドが許さない。

「ショウ!任せて!」

れみは彼の頭上を飛び越え、ピンツクへと飛びかかり…蹴りを仕掛ける!


ショウに集中していたピンツクはまともな対応もできず、被弾を許す。蹴飛ばされ、更なる隙を晒してしまう。

れみはピンツクの襟飾りに両手で掴みかかり、ピンツクの顔を隠す。顔と言っても一本の棘しかなく、目は見当たらないが、何かしらの感覚で目の前の状況を見定めていたようだ。動きが明らかに乱れ始めた。

「お、おいどけっ!見えないだろ!!」

「今だショウ!」

ショウは頷くと、右手の拳を握る。

拳が黄金色に発光し始めた。どうやらこれがショウの必殺技らしい。


輝陽拳(きようけん)!!!」

拳は熱を持ちながら、ピンツクに叩きつけられる!!

小さな拳からは考えられないような力が弾けた。集まった光の魔力がピンツクの皮膚を焼き、煙を噴き上がらせる。

「うああああ!!あっちいいい!!!何しやがったガキどもおお!!」

れみは手を離しそうになりながらも、ピンツクに張り付き、絶対に離れない。顔だけをショウの方へ向け、喉を裂くように大声で叫ぶ。

「アタシが押さえつけてる!!やれええええ!!!!」





「いや、もう離れて良いと思うけど」

ドクロのボソリとした呟きなど耳を貸さず、れみはより力を込めた。


ショウの左手が光を纏い、またもや熱を纏い始めた。

輝陽拳、二発目だ。


「どりゃ!!!」

拳が振り上げられ、ピンツクの腹部を突き上げる。事務所の高さを超える程に、ピンツクとれみは吹き飛ばされた。


「ぎゃああああああ!!」

両者、地面へ激突。

今回の被害は…事務所の壁、塀、そして庭の破壊。まあ何とかなるだろう。




「…すんげえガキだな。これは面白くなりそうだぜ…」

…上空から一部始終を監視していたデビルマルマン。背を向け、空へと飛び去っていった。




ピンツクは…足を縄で拘束され、物干し竿に吊り下げられていた。豚の丸焼き状態だ。

「ちっくしょう…ピカピカ光ってて見栄えが良いだけの、こんなガキに負けるなんて…。所詮俺は、ただの顔から棘出てるやつに過ぎないのか…」

ピンツクは身を捩らせる事すらせず、ワンダーズにわざと聞かせるような声で独り言を呟く。

「だがそうだよな…。顔の棘向けて突進するくらいしか個性がないやつなんて、こうなるのがお似合いだ…。まじで個性ないよな…。やっぱり戦士への志願なんてせずに城でチヤホヤアイドル生活してた方が俺に合ってたのかもな…」

アイドルなのは本当らしい…。

悲観溢れるその語りは、ある意味で最後の抵抗だった。どう反応すればいいか分からない。

こんなやつは早いところ解放して、夕飯の支度でもしようかと、縄をほどいてあげようとした…。


「いいえ、そんな事ないです!」

明るく声をかけたのは、やはりというか、ショウだった。

彼はピンツクに歩み寄り、顔のない顔を覗き込む。視線を合わせ(合わさってるか分からないが)、その独り言に優しい言葉を返す。敵とは思えぬ温かい声で。

「あなたの突進…凄い力強さでした!当たったらドーン!ってなっちゃいそうで…ヒヤヒヤしましたよ!」

子供だからか、どこかチグハグした単純なフォロー。しかしそれ故、聞く者の心にも深く浸透する。

そのたった一言で、ピンツクは独り言をやめた。逆さ吊りのまま、しばらく何かを考え込み…そして言う。

「…ショウか。面白い新メンバーが来たじゃねえか」

ピンツクは激しく身を捩らせる。縄が揺さぶられ、少しずつ解けていき…ブツッという軽い音と共に、彼は地面に落っこちる。

「一人で脱出できるんかい!」

ドクロのツッコミと、走り出すピンツクの足音が交差する。尻を向け、玄関門から逃げていくピンツクに、ショウは手を振る。

「お体にお気をつけてーー」

やはり、敵にかけるとは思えぬ言葉…。

彼が言葉を荒げる日は、天地がひっくり返っても来ないだろう。


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