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霜夜

経験したことがない孤独な夜・・・父は帰ってこなかった・・・

 静かな夜の中、極寒の静寂が家をすっぽりと包み込んでいた 。暖もない部屋は、肌を刺すような寒さに満ちている。

 ベッドの上で毛布に包まり、窓辺の月をじっと見つめる一人の少女。

 少女はまだ幼く、9歳になり、父とふたりで誕生日を祝ったばかりだった。

 父親にそっくりなきれいな金髪と澄んだ青い瞳・・・。髪は父の不器用な手でいつも結ってもらっていた一本の三つ編み。その先端をリボンごと指でいじり、不安をごまかしている。

 ・・・夜に出歩くことのない父が、今日はまだ帰ってこない。

 喉の奥が冷え、涙がこぼれそうになるも、拭うのは自分だけ・・・。誰も慰めてはくれない。

 ─必ず帰ってくる・・・─

 小さいころから、そう聞かされてきたからこそ、信じて待ち続けるしかなかった。


 ***


 荒々しい破壊音が、夢を引き裂く。

 一階のロビーから複数の男たちのざわめきが響き、梁の軋む音も混ざった。

 少女は突然の時に驚き、恐る恐る部屋をでて踊り場からそっと一階をのぞく。

 鎧を着た兵士たちと、軽装の装備の冒険者が家を荒らしてる。

 兵士が怒鳴った。

 「よし、家にある書類すべて押収しろ!武器など装備品もだ!隠し部屋などないかくまなく探せ!!」

 父親がいない間に自分の家が知らない大人に荒らされると悟った少女。

 とても思い入れがある家だ。知らない人に荒らされるわけには行かない。

 しかし相手は大人だ。簡単に自分の手をひねられて止めらえるだろう。しかし父親がいない今、自分が守らないといけないと意を決めた。

 父親からも何度も何度も聞いている。女の子でも守るべきことがあったら自分を信じてたとえ一人でも前を向いて自分の意思を信じて行動すべきだと。

 かすれた声で踊り場から声を上げる。

 「・・・あ・・・あの!!うち・・・になんの御用ですか?・・・あと・・パパが今いないんです! 帰ってきたらパパに伝えますので私たちの家の中を荒らすのを・・・やめて・・ほし・・い・・んです・・け・・ど・・」

 「あぁ、あいつに娘がいたんだったな」

 一人の鎧の兵士が二階にがガチャガチャと鎧の音を立てて踊り場に上がってきた。 

 少女はびっくりして身を引くが、無理やり腕を捕まれ引っ張られる。

 「きゃあ!痛い!」

 「強引ですまないが、決まりなんだ。一緒に詰所までこい!」

 少女は涙目で声を震わせて声をあげた。

 「いや!なんでですか!!それよりパパは・・」

 「父親か・・・」

 その兵士がほかの兵士に目を合わせると互いにうなづく。

 そして少女に顔の高さを合わせ、両肩に手をかけて話を続けた。

 「お前の父親は・・・死んだ」

 「・・・え?え?・・・うそ・・・ですよね・・・パパが・・・」

 少女は身を・・・口を・・・震わせながら涙を流し始める。

 同様をみせる少女にしっかり目を合わせ兵士は話を続けた。

 「とても伝えづらい事なんだが、事実は事実だ。それだけではない、重大な罪も同時に侵してだな・・・。それで国の指示で家を調べないといけないんだ」

 「そ・・そんな・・パパ・・・はそんな悪い事する人じゃ・・・」

 「信じがたいのは十分に悪いが事実なんだ。すべて証拠が出ているからな」

 「うそ・・そんな・・パパ・・・パパぁ!!」

 衝撃な事を急に伝えられ、心が混乱して感情が抑えきれなくなった少女は大粒の涙を流し始めた。

 事を伝えた兵士は目をそらして申し訳ないような顔をしている。

 別の老兵士が少女に近づき、涙をぬぐっていた手を強引につかんで後ろにひねった。

 「黙れ小娘!貴様、ミゲルの娘だな?この国では親族も同罪だ!!」

 「しらない!!そんなのしらない!!パパぁ!!!」

 その老兵士が少女の頬をパシィ!っと叩く。

 あまりの事と痛みで驚き、喉を詰まらせる。

 「黙れといっているだろ!ミゲルは死罪の罪状だ。娘であるお前も処刑が決まっている。あまり暴れるようならその場で処理も許可されている。今ここで死ぬか?」

 父親の事と今自分がおかれている事に対してあまりにも過激・・絶望的な事を畳みこまれる。

 少女はペタンとすわってガチガチを歯をならして激しく怯え始めた。

 始めて殺すと言われた・・・。殺意を向けらえた・・・。知らない大人からの殺意を向けられるようなことは今までなかった・・・。

 父親は戦士だったのは十二分に承知だった。しかし、ここまで死が近い世界だとは小さな女の子には理解が及ばなかった。

 そう、父親は死んだ。そして自分もいま目の前に見えている油の匂いがしみついた金属の剣で殺される。冷たい鉄でお腹が裂かれて・・・ナイフで指を切ったのと比べ物にならない痛い事になるのだと。

 父親ももういない。誰も自分と助けてくれない。身の回りにいる大人達は自分を殺すために来たのだと・・・。思考が追い付かなくなった彼女はそのまま座り込んで頭を抱えてて声を上げず泣き続けることしかできなかった。

 しびれを切らした老兵士が腕をつかんで無理やり立ち上がらせる。

 「いやああ!!パパぁぁ!!死にたくないよぉ!!パパぁぁぁ!!」

 「うるさい!小娘!泣き止まないならここで処刑を実施する!」

 老兵士が鞘から小剣を抜き少女の心臓に突き立てようとした。

 「ひぃ!?いやあああああ!!!」

 強い衝撃音。

 剣を握る老兵士の手首が、不意に別の手に強く掴まれた。

 「その子には手をださないでください。保護を命じられています」

 「ん?保護だと・・?罪人の親族は全員同罪だと知っているだろ!!」

 「もちろん知ってますが、これは別の命令です。これ・・・わかりますよね」

 老兵士を腕を掴んだ黒髪短髪の少女。軽装鎧と長剣の鞘が月明かりに光る。

 そして老兵士に突きつけたのは、二つの金属の証明書。

 ひとつは冒険者の証しである「冒険者証明」。

 そして、もう一つは、今は存在しないかつての魔道兵隊隊長の証。

 「・・・グレイの親族か」

 「はい。娘のセタといいます。母の命で彼女を保護にきました。重要参考人であり、たとえ親族同列刑とはいえ、処刑させる分けにはいきません。証言が取れなくなりますからね。ですから今回は私の母の指示で保護を命じられていた為今ここに着ました。この娘は私が・・そして母のグレイが責任をもって保護し、証言などを引き出します。これは軍総括隊長と同等の権限です。わかりますよね・・・」

 老兵士はそっと少女から手をはなし、背中をおしてセタに向かわせた。

 そしてセタを睨みながらつぶやく。

 「・・・もし・・・なにかあったらすべての責任はグレイ隊長がかぶることになりますが・・・いいんですな」

 「もちろんです。母が許可した事です。母が責任をおうだけでなく、もちろんなにかありましたら私も全責任をおいます。

 老兵士はわざと聞こえるように舌打ちをすると、そのまま踊り場から下りていく。そして家宅捜索の指示の続きを始めた。

 少女は震えながらセタを見上げる。

 ・・・彼女は笑顔だった。

 「もう大丈夫だからね・・・。私といっしょにきてくれるかな・・・。絶対に悪い事はしないから・・・信じてもらえるとうれしいんだけど」

 「あなた・・誰・・・?」

 「私はセタ。よろしくね。グレイって知ってる?」

 「う・・うん・・・パパも言ってた…。白い髪のとっても強い冒険者・・・パパと同じお城のお仕事もしているっていってた・・・」

 「うん、そう。そのグレイの娘なの。・・・実はね・・・あなたのパパにお願いされてきたの」

 「え?パパとあったの!?パパは!?」

 それを聞かれたセタはちょっと俯きながら話を続ける。

 「え・・・っとね、あなたのパパは・・・さっき聞いたと思うけど遠いところにいっちゃったんだ・・・もう会えないの。・・・でもね。そのパパが遠くに行く前に私にあなとの面倒を最後まで見てあげてってお願いされたの・・・私はあなたのママにはなれないとは思うけど・・・決して一人にはしない!・・・だから一緒に来てくれるとうれしいんだけど・・・」

 それをきいた少女はまた涙を流し始める。しかし、行き場を失った少女に断る理由などなかった。

 この国では子供一人では絶対に生きていけない。かつ断ったら間違いなく殺される運命にあるのだろうと小さい心でもわかるのだ。

 そして彼女についていけばまた父親に会えるかもしれないという希望もその彼女の笑顔から期待が出来た。

 ・・・少女は涙目で笑顔を作る。

 「・・・うん・・・わかった。おねぇちゃんと一緒に行きたい・・・」

 それを聞いたセタは全身を包むように少女をぎゅっと抱きつく。

 「・・・ありがとう・・・私は約束は破らない・・・絶対に幸せを一緒にさがしてあげるからね」


 それはまだ寒い朝の時期の出来事だった。霜が外の草木を輝かせてる。

 太陽が登れば凍えた世界も暖かくなる。一度おちた太陽がまた少女を照らす。セタの抱擁によって。

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