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第10話 目を凝らせば

 ぶおおおおん。また暴風。例によって、梓希のスカートが捲れ上がる。


「あー」


 今回はテオを抱えていたため、ほとんど防御姿勢が取れず。不本意ながら全面開示となってしまった。


「やはりミニスカこそ至高……!」

「このヘンタイ……!」


「ふ、今は罵倒すら心地よい。それほどまでに、俺の視界は青く満ち足りていた……!」

「色言うな」


「主よ、その御心に感謝します……」

 合掌したシンクの目にうっすら涙が光る。


「泣くな! 禿げちゃえ! 口臭くなれ!」

「そういうこと言わないの」

 荒ぶる暴言にやんわり釘を刺すと、シンクはテオに妬みの視線をぶつけた。

「で、小僧。いつまでアズにくっ付いてんだ……!?」

 がしっ。タキシードを雑に掴み、梓希から力の限り引っ剥がす。


「やめてシワになる! うう、アズが離してくれなかったんだよー」


「そんな……。アズ、嘘だよな……?」

「何がよ」


 ごおおおお、と暴風が三人の間を抜ける。それは建物と建物の間に吹き荒れ、上昇気流となって中空に至り、魔獣へと殺到する。


 闇夜を賑わせていた魔獣群も、気付けば大型の三体を残すのみ。その中でも最大のものは伝説上のロック鳥を思わせる規格外の体躯で、なおかつ竜の顎を持っていた。


 本能的な恐怖を植え付ける異形。梓希は言いようのない嫌悪感を抱いたが、シンクは全く別の考えを口にした。


「これもう避難する必要ないかもなー」


「え、めっちゃ見た目えぐいじゃん。ほら行くよテオっち。シンクは置いてくからね」


 梓希はテオを連れて低空に浮かぶ。

「火とか吹いてきたらヤバいでしょーが」

 それだけ言い残し、バーの方へと向かった。こうやって飛ぶとパンツ見られそうだけど、もういいや——と諦めて。


 梓希が飛び去るのを見て(もちろんパンツも拝んで)、シンクはあることに気付いた。

 避難するのなら、この辺の建物でもいいのではと。

(ただ、揉めずに中に入れてもらえるかって考えたらさっきのバーが確実か)

 テオを助けに行ったのが知られてるわけだから、現状の避難先としては手堅い選択かもしれない。


「——さて」


 強烈な風を感じ、大通りで扇を振るう術者に目を向ける。メア=リィケート。都を守護する八賢者の第三席にして、魔宝『六歌扇』の所持者。見目麗しいお姉さんで、オトナの色気がある。正直一晩お願いしたいとシンクは思っているが、未だ叶っていない。でもいいんだ、アズとまた会えたんだから——と今となっては考えている。


「ああは言ったけど——」


 風を奔らせる六歌扇の働きにより、空の魔獣はあらかた討伐された。残るはラスト一匹のみ。いかにも屈強そうな竜頭の巨鳥だが、メアが遅れをとる相手ではないだろう。好戦的で経験豊富、魔宝の扱いも一線級。特に対空戦闘において、彼女ほど頼もしい存在もない。

 ないのだが——。


「ああちくしょう、やっぱりか」


 シンクは目を凝らし、嫌な予感の的中を知る。竜頭鳥りゅうとうちょうの背に何者かの影を認めた。おそらく認識阻害の術か何かで存在感を薄めているのだろう。初めからいる前提で(、、、、、、、、、)意識を集(、、、、)中させる(、、、、)まで気付けなかった。


「メアーーーー!!」


 注意を促そうと、シンクは絶叫しながらメアのもとへ駆け寄る。


「シンク、いたの。じゃあアズちゃんも?」


「知ってたのか」


「シュヴァイツが戻ったからねえ。それで? 一緒じゃないの?」


「ああ、今はテオと避難してる」


「ならよかったわ」


「それがよくなくて、あのでかい鳥!」


「ええ、誰か乗ってるのよね?」


「それも知ってたかー!」


 追い絶叫。雑魚どもを撃墜しながらよくもまあ、とシンクは唸ってしまう。


「じゃあ余裕ッスね。俺はこの辺で……」


「あら。私、見捨てられちゃう?」

 メアが瞳を潤ませる。


「そそそそんな! 滅相もございません!!!!」


「ふふ、冗談よ。私はいいんだけど、あちらが逃してくれるかしら?」


「え?」

 メアの視線を追いかけて、シンクが首を巡らすと。


「えええええーーーー!?」


 竜頭鳥、急降下。象を上回る巨体が2人めがけて一直線に迫ってくる。


「風よ、お前は盾となれ——」


 詠唱は短く。所作は優雅に。華美な扇が下から上へと扇がれた。


「展開! 暴風障壁!!」


 ごおおおお、と目の前に上昇気流が発生する。シンクは風圧で当然吹っ飛ばされる。でも文句は言えない。死ぬより全然いい。どうにか主神降臨剣の刃を顕現、それを路上に突き刺して、飛距離を抑えることには成功。メアは少しだけ振り返ると、シンクを見てペロリと舌を出した。お茶目か。


 竜頭鳥側は気流の直撃を受けてノックバック。だが大型なだけあって高耐久らしく、わずかにも損傷した様子はない。


「うーん、無傷か。やるわねぇ」

 たいして動じず、しかし呆れたようにメアが嘆息した。

 対して上空から、聞き覚えのある快活な声が返される。


「ははは! そうとも! この魔獣はやるのだよ!」


 ズズン。巨体が着地する。再度の突撃はなく、十分な間合いを確保して。


「おま、えは——!」


 シンクが目を見開く。竜頭鳥の陰から、ゆらりと長身の人影が姿を現す。


「おやシンク。僕が分かるのかい? ああ、喋ってしまえば認識阻害も用済みか。ならばこう言おう。久しぶり(、、、、)


 ギチリ、とシンクが奥歯を噛み締める。目は血走り、呼吸が荒くなる。


(ダメだ、少し、冷静に——)


「それにしても、酷いじゃないかメアくん。こんなに多くの魔獣を屠るなんて。まだ僕らは何もしていないというのに」


「——そう言われても、何かされてからじゃ遅いのよね」

 メアは困ったように眉を下げ、口もとに寄せていた扇子を閉じた。

 油断——ではない。今の相手に戦意がないのを感じ取り、それに応じて臨戦態勢を解いている。


 ——だが、シンクは違った。


「魔王、ドネル……!!」


 憎々しげにその名を呼び、今にも飛びかかりそうに光り輝く剣を構える。


 ——そこへ。


「おーい、2人とも大丈夫? アズちゃんの助けいるー?」

 天使が元気な感じで飛んできて。


 竜頭鳥の傍らで。

 魔王の目が、煌々と熱を帯びた。

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