序 三角関係を終わらせて
<我は惑星アラタナテラの意思である。貴女はこれから当惑星に召喚されるのだが、折り入って頼みがある――>
突如として脳内領域に流れ込んで来た言葉に、少女の方は言葉を失った。
「え、なになに? 召喚? どゆコト?」
――失っていなかった。
ある惑星の意思とやらは続ける。
<貴女の絡む三角関係と呼ばれる枠組みを終わらせてほしいのだ。星の存亡に関わる故、何卒……>
「なんじゃそら。ま、あたしにできることなら? おっけーするが?」
<え、いいの?>
「ん?」
<——コホン、感謝する。望外の喜びである>
「あ、そう? そんなに?」
<そんなにである。よもや疑いすら抱かず、純真無垢に了承されるとは……>
「おばあちゃんが、困ってる人は助けなさいって」
<人ではないが……。よき教育者に礼を言おう>
「まってて。今連れてくるから」
<いや連れてこられても。貴女の意識に語りかけているのだから>
「確かに、そうね」
<では三角関係の件、くれぐれもお願いする>
少女は手に持っていた怪しげな本を閉じ、近くの机に置く。そして長い金髪を指でくるくるさせながら、
「うーん。それなんだけどさ、三角関係なのよね。あたしの他の2人は?」
<………………>
「その2人にも頼んでるわけ? それなら楽勝じゃないの?」
<他の2人は全然聞いてくれないから……>
「あ、そうなんだ……。大変ね」
<貴女が優しい心の持ち主でよかった。健闘を祈る>
意識内への言葉の奔流が途絶え。
その一瞬後。少女は地球から姿を消した。
◆
その日の夜。少女の母親は知人に語ったという。
「アズちゃん、旅にでも出たのかしら。あたしも若い頃は――」