1−7:エリオス・ソリスの人柄
探索者ギルドを出て、一路アルカディアスダンジョンへと向かう。馬車を使えば5分で着くくらいの距離にあるのだが、ここは準備運動も兼ねて徒歩で向かうことにする。
……さて、突然の話ではあるが。ここ王都アルカディアスは円形の街で、内側に行くほど高貴な身分の人たちが住んでいる。中心に立つ王宮には王家の方々が住まわれているし、そこから順に公爵家・侯爵家・伯爵家・子爵家・男爵家・1代貴族・平民……という風に、身分が低いほど外へ外へと住居が移っていくわけだ。
そして、原則として上位身分者が住まうエリアには、下位身分者は呼ばれなければ立ち入ることができない。その逆の縛りは一切無いものの、特に伯爵家以上の人ともなれば好き好んで下位身分者がいる場所には立ち入らないので、自ずと行動範囲が決まってくるわけだ。
ただし、これにはいくつか例外がある。例えば父上は男爵であるが、主な職場は王宮に併設されたアルカディア王国聖騎士団本部、王家の方々が住まわれるエリアにある。父上はそこの副団長を務めているのだが、本来は男爵という身分では立ち入ることができないところ、職務遂行のために立ち入りが一切制限されていないのだ。
そしてもう1つ、ここに分かりやすい例外がある。
「この道かな?」
まっすぐ王宮の方角に向けて伸びる道の前に立つ。ここからアルカディアスダンジョンに行けるのだが、実はアルカディアスダンジョンは貴族街のど真ん中にあるのだ。場所としては、ちょうど伯爵家エリアと子爵家エリアの境界線上辺りだろうか。
その関係で、ダンジョンへ行く道が1本だけ特別区域に指定されており、どんな身分の者でも立ち入ることができるようになっている。そうしなければ、子爵家以上の貴族しか行けないダンジョンになってしまうからな……まあ、仕方ない措置だと言える。
もちろん、この道はただ特別区域に指定されているだけではない。
「「「「………」」」」
道沿いには、屈強な王都守護騎士がズラリと並んでいる。貴族街のど真ん中ゆえ、不心得者が紛れていると危険なのでしっかり目を光らせているわけだ。
実際、年に10回くらいは守護騎士に襲い掛かったり、貴族街に侵入しようとして捕縛される者が現れているらしい。だからこそ、僕たちが少しでも怪しい動きを見せればたちまち守護騎士の人たちが集まってくるだろう。
「さすが伯爵家エリア、すごい警備ですね」
「まあ、ここはいつもこんな感じですね〜。変な動きしなければ大丈夫よ……多分ね」
「……ゼルマ、騒ぎすぎて、捕まりかけた」
「ちょっ、フランク余計なこと言わないで……よ……っ!」
ゼルマが大声を出しかけて、守護騎士たちの鋭い視線が集まる。すかさず僕が頭を下げると、守護騎士の人たちはなぜか小さく頷いてから持ち場に戻った。
「……?」
守護騎士の人たちは全員がフルフェイスタイプのヘルムを装備しているので、顔は全く見えないのだが……もしかしたら、僕のことを知っている人がこの中にいたのかもしれないな。
たまに父上の監督の下、一緒に聖騎士団本部へ行っているけど、その隣が王都守護騎士団の本部だったからな。僕の顔を知っている人も多少は居るのだろう。
「……よし、行こう。今度はまっすぐ、前を見てな」
「「「了解」」」
なぜか守護騎士の人たちに温かく見守られながら、アルカディアスダンジョンを目指してまっすぐ進み始めた。
◇
(守護騎士エッカルト視点)
「………」
ダンジョンに向けて歩いていく4人組の背中を、そっと眺める。大きい背中、小さい背中、太い背中、細い背中と様々だが……その先頭を歩く、小さな背中の持ち主を見た。
……ふむ、あの方がソリス男爵家の秘蔵っ子、エリオス様か。勤勉で真面目、まだ成人前ながら人間性にも優れ、身分下位者と自然に友誼を結んでいるとか。武才は父や兄2人に一歩譲るそうだが、背筋をぴんと伸ばしてなかなかどうして立派な立ち姿ではないか。
「……エッカルト、あの方が例の?」
「……ああ、どうやらそうみたいだ」
業務中ゆえ、本来私語は慎むべきであるのだが……エリオス様についてなら例外だ。エリオス様は我ら王都守護騎士団員の間で、とても人気があるお方なのだ。
時折、エリオス様がルーカス卿と共に聖騎士団本部へと来ていることは知っていたが……俺がある日エリオス様をお見かけした際、王都守護騎士団本部の前で『僕が鍛錬に集中できるのも、王都守護騎士の方々が護ってくださっているからです。最上級の感謝を』と言いながら、建物に向けて深く礼をされていたのだ。
俺は平民なので、その時は礼の意味を知らなかったのだが……下位貴族家の出である分隊長に聞いてみると、その礼は"60度礼"という特別な礼であると聞かされた。身分上位者や上位組織に対してしか行わない礼で、明確に自身を下と位置付け、相手を大きく持ち上げる意味を含んだ礼だと。
驚いたのは、そんな礼を平民も所属する王都守護騎士団の建物に対して行っていたことだ。お高く止まった上級貴族様ばかりが所属する近衛騎士団が相手なら、まだ分かるんだけどな。
「普通はさ、『平民如きが調子に乗るな、王都の守護などできて当然だ』とかって言ってきそうなもんだけどさ。その当たり前が途轍もない苦労の上に成り立ってるものなんだと、あの歳で理解してるのがすげえよな」
「全くだ。一生分からない奴らも居るってのにな」
エリオス様は、年齢の割に考え方が大人びているのだ。もしかしなくても、兄2人より精神年齢は高いかもしれないな。
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