2−7:未来、反転攻勢の礎となる魔法
そうして、オリハルコン塊と格闘を始めてから……およそ、30分後。オリハルコンとミスリルの金属的な結合を、1つずつ丁寧に解いていった結果が僕の手元に現れた。
僕の右手のひらの上には、黄金色の大きな塊と白銀色の小さな塊がある。純度90%オリハルコンの完成だ。
「よし、完成っと……おっと」
「大丈夫ですか、エリオス様?」
「大丈夫だよ、ありがとうティアナ」
机に金属塊をそっと置いたところで、少しふらついてしまった。ティアナに支えてもらって事なきを得る。
さすがはオリハルコンとミスリル、僕の魔力が枯渇寸前までいっちゃったか……。
でも、それだけの価値はあった。単なる精錬が相当な訓練になったのだろう、レベルが25から26へアップしたのだ。モンスターもレムレースも倒していないのにコレとは、さすが最高の金属と言われるだけのことはあるな。
「おお、もしかしてこれは!?」
ヨハネス教授が目を輝かせながら、黄金色の塊……ではなく、なぜか白銀色の小さな塊のほうを手に取る。ただ、純度90%オリハルコンには一歩及ばないものの、その白銀色の塊ーーミスリル塊も相当な価値がある代物だ。
「はい、超々高純度ミスリルです。純度99.995%くらいですかね?」
「"メタルサーチ"……うん、うん、確かにそれくらいだ。僕が必死になって精錬して、3日後にようやく得られる純度のミスリル塊がこんな簡単に手に入るなんて……なんて素晴らしい………」
ヨハネス教授が、超々高純度ミスリル塊に頬擦りをしている……もしかしなくても、ヨハネス教授は金属そのものが純粋に好きな人だったりする?
でもまあ、そうじゃないと基礎研究なんてずっと続けられないよね。僕はどちらかと言うと、その金属を使って作るものの方に価値を見出してるから……金属材料の基礎研究に向ける熱意や技量の部分で、僕はヨハネス教授には絶対に勝てないだろう。
でも、別にそれでいいと思う。ヨハネス教授はヨハネス教授の、僕は僕のできることがあるのだから。
「今回僕が使った魔法陣ですけど、ヨハネス教授にそのまま託そうと思っています」
「えっ、そんな簡単にいいのかい? どこかの商会と正式に契約すれば、ものすごいお金になる技術だと思うんだけど……」
確かにそうなんだけど、それを正直に言ってしまう辺りヨハネス教授って相当なお人好しだよね。だからこそ、こちらも素直に託せるんだけど。
「お金は確かに大事ですが、それよりも僕は高純度オリハルコンの現物がたくさん欲しいのです。それなら僕だけで秘匿するより、一番使いこなせそうな人に魔法陣を託すのはありだと思いませんか?」
「むむむ……」
「それに、この魔法は魔法陣が分かったところで、簡単に実行できる代物ではありません。おそらくですが、ヨハネス教授も最初は何度か失敗すると思いますよ?」
とにかく制御とイメージが難しいからね。オリハルコンとミスリルががっちり手を繋いでいるのを、1つずつ丁寧に引き剥がしていく感じ……と言えば、ヨハネス教授には伝わるかな?
とは言え、その辺りの魔法のセンスはヨハネス教授の方が上だろう。僕は前世の僕のアドバンテージで、数十年分の経験を前借りしているだけなのだから……。
◇
「いやぁ、ごめんね。すっかり遅くなってしまって……」
「いえ、とても充実した素晴らしい時間でした。この魔法が僕だけ使える専用魔法なのではなく、他の人でも使える汎用魔法だということをきちんと証明できましたから」
「個人の特別な資質に頼った専用魔法は、あまり評価されないからね」
あれから、およそ2時間。ヨハネス教授にオリハルコン精錬の魔法を教えているうちに、すっかり外は暗くなっていた。
……もっとも、これでも相当早い方だと思う。上位の地属性魔法士でも数日、場合によっては1ヶ月単位で教えられないと身に付かない技術を、ヨハネス教授はたった2時間でものにしてしまったのだから。それだけ、ヨハネス教授の技量が飛び抜けて高いことの証左であろう。
そして、ヨハネス教授のすごい所はそれだけじゃない。
「この知識があれば、オリハルコンの成形魔法にも手が届くかもしれない……!」
僕はまだ、オリハルコン成形魔法が使えることをヨハネス教授に教えていない。にも関わらず、ヨハネス教授は自力でオリハルコン成形魔法の実現方法にたどり着いたのだ。
……そう、高純度オリハルコンを精錬する時に、前世の僕は"金属同士の繋がりを1つ1つ解いていく"という考え方で魔法を構築した。それは見方を変えれば、"金属同士の繋がり方を魔法で変える"という考え方もできる。
オリハルコン成形魔法は、まさにその考えのもと作られた魔法だ。オリハルコン同士の繋がる向きを変え、あるいは切り貼りすることによって形を整えていく。確かに時間はかかるけど、熱を加えても叩いても一切変形しないオリハルコンを成形する唯一の方法なのだ。
「それにしても、王立魔法士学校は夜でも明るいのですね」
「ああ、光魔法の権威が少し前に開発した魔法……いや、もはやマジックツールかな? 超高純度ミスリルに魔法陣を刻み込んでいて、昼に太陽光を吸収し夜に発光する機能を持っているらしいよ」
「すごい……魔力の補充が要らないということですか!?」
一緒に歩いているティアナの目線が、所々に立てられたポールのような物にいく。そのポールは上部がガラスの箱になっていて、その中に収められた金属……ヨハネス教授曰く、超高純度ミスリルが光を発しているらしい。おかげで王立魔法士学校の敷地内は明るく、ランプ等が無くても足元がよく見えるのだ。
しかも、これをほぼメンテナンスフリーで実現しているらしい。ティアナの言う通り、確かにすごい技術だと思う。
……ただ、これを僕はアルカディアスの街中で見た記憶が無い。もちろん、ソリス男爵家にも無い。
これだけ便利なマジックツールなのに、数が揃わないということは……。
「まあ、コストの問題があってあまり普及してないんだけどね。魔法陣を刻み込める技術を持った人が少ないから、量産化には難航してるらしいよ」
「超高純度でないと、光が朝まで保たないんですよね?」
「そうなんだよね……」
ミスリルという金属は、基本的に対魔法抵抗力が高い。そこに魔法陣を刻み込み、常に起動し続けられるようにするためにはかなりの技術と魔力量が必要になる。
その分、1度動かしてしまえば魔力効率はとても良い。ミスリルの純度が上がるほど魔力効率も良くなるので、昼の蓄光分だけで夜間を保たせるためには超高純度ミスリルが必要なのだと思う。
「………」
これ、99%高純度ミスリルであれば、実は誰にでも使える量産精錬魔法がある。習得にかかる時間も、それなりの実力を持つ地属性魔法士なら多分1日あれば覚えられるレベルだ。ミスリル鉱石さえあればいくらでも作れるようになる。
魔法陣を刻んで起動させるのも、実は高純度ミスリルと超高純度ミスリルでは難易度が大きく変わる。どうにか高純度ミスリルに乗せられるまでに魔法陣の改良を施せば、生産性の問題もコストの問題もまとめて解決できるだろう。
……そして、僕にはその解決策が思い浮かんでいる。魔法陣を見なければ断定はできないけど、この方法ならおそらくいけるはずだ。
「ヨハネス教授、その光属性魔法の教授に――」
「――エリオス・ソリス様。少しお待ちください」
僕を後ろから呼ぶ、鈴の音のような声が聞こえた。
……ずっと付いてきてるのには気付いてたから、いつか話しかけてくると思ってたので特に驚きは無い。敵意や害意も感じなかったからね。
振り向いて見てみると、入学試験で見かけた4色オーラの女の子がそこに立っていた。僕より少しだけ背が高く、街灯に照らされ白銀色に煌めくローブ――おそらくはミスリル糸が編み込まれているのだろう、かなり上等な物だ――に細身を包み、黒色の長い髪を風に靡かせている。その灰色の双眸は、まっすぐ僕を見つめていた。
一応、険しい表情を作っているようなんだけど……残念ながら、可愛らしい印象しか受けない。顔の造形があまりに整いすぎていて、どんな表情でも負の感情が全く伝わってこないのだ。
そういえば、この娘は確か次席だったっけか。名前は……。
「エリーゼ・カペルマン殿。カペルマン子爵家の、三女の方でよろしいでしょうか?」
「はい、その通りです。よくご存知ですね?」
そう言って、エリーゼ殿は不敵な笑みを浮かべた。
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