2−3:アルカディア王立魔法士学校入学試験・後編
「名前を聞いた時に、そうじゃないかなって思ってたんだけど……エリオス君、最近叙勲されてるよね?」
「はい、その通りです」
「やっぱりかぁ……」
小声で話し掛けてきたヨハネス教授が、少々困ったように笑いながら左頬をポリポリと搔いている。
……なるほど、ヨハネス教授は聞かされている側の人だったか。僕がヴィルヘルム帝国工作員を倒した件の詳細は、箝口令というほどではないにしろなるべく口外しないように言われているし、王国もほとんど周知していない。
なにせ、王都守護騎士の人が何名か犠牲になっているからね。ヴィルヘルム帝国との戦いが膠着状態に陥っている今、士気に影響するかもしれない情報は極力表沙汰にしたくないのだと思う。僕もそのことは言い含められているので、功績を誇るようなことはしないようにしている。
「……さて、それじゃあ実技試験を始めようか。エリオス・ソリス、君はどんな魔法を見せてくれるんだ?」
ヨハネス教授が少し厳かな口調に変えて、僕に問い掛けてくる。
……もちろん、僕が使う魔法は決まっている。
「僕は、ゴーレムを召喚します」
「ほう?」
ヨハネス教授の目がキラリと光る。どうやら興味を持ってもらえたようだ。
ここまでの受験者に、ヨハネス教授の興味を惹くほどの魔法を使う人はどうやら居なかったようだからね。
「では、いきます。"マニュファクチャー・ブロンズゴーレム"」
――ガガガガガガッ!!
――ドンッ!!
「「「「おぉ〜……」」」」
ブロンズゴーレム24体分のパーツを空中に浮かべ、そのまま一気に組み立てていく。持っている武器は、8体ごとに片手剣+小盾・長槍・弓の3種類とした。もちろん刃は丸めてある。
その光景が物珍しかったのか、実技試験を終えて周りにいた受験者たちが小さく歓声を上げていた。
「ほう……」
立ち並ぶブロンズゴーレムたちを見ながら、ヨハネス教授が更に目を輝かせる。よしよし、掴みはバッチリだね。
「整列!」
――ガシャガシャッ!!
召喚したてで隊列が乱れていたので、まずはブロンズゴーレムを8体✕3列横隊に整える。声は別に出さなくてもいいけど、見栄えのためにあえて出すことにした。
そうして、前列から順に片手剣+小盾・長槍・弓の順に並んだブロンズゴーレムの小隊が現れる。
「ふむふむ……エリオス君、少しゴーレムに触れてみてもいいかな?」
「どうぞ。僕が命令しない限り、ゴーレムは動きませんので」
「では、失礼して……」
ヨハネス教授の手が、ブロンズゴーレムに触れる。そうしてから、なにやら魔法を唱え始めた。
「"メタルサーチ"……なるほど、錫は少なめか。配合を赤銅色寄りにしているのは、ゴーレムを目立たない色合いに調整するためかな……?」
……凄いな、さすがは地属性魔法の達人だ。
ブロンズゴーレムは錫の含有量を抑えて、やや暗めの色合いにしている。金属の硬度と靭やかさのバランスを取りつつ、敵からの視認性を低くする狙いが前世の僕にはあったらしい。
……ちなみに錫の含有量を多くしていくと、黄金色から白銀色に色合いが変わっていくのと同時に硬度も上がる。ただ、硬度が高すぎると逆に脆くなってしまうので、赤銅色〜黄金色くらいが現実的な配合になるそうだ。
そうして生まれたブロンズゴーレムには、スモールボアの突進に耐えられるほどの耐久性がある。武器も多彩なものを持たせることができ、動きも滑らかで扱いやすいゴーレムとなったわけだ。
「エリオス君、まさかゴーレムを召喚しただけでは終わらないよね? そのゴーレムを用いて、どのようなことができるのか見せてもらえるかな?」
「分かりました」
さて、ここからが実技試験の本番だ。このゴーレム魔法がいかに有用な魔法であるか、言い方は悪いけど試験官に見せつけなければならない。
ヨハネス教授がブロンズゴーレムから離れたところで、指示を出すフリをすべく声を張る。
「総員、前進!」
――ザッ、ザッ、ザッ……
24体のブロンズゴーレムが、一糸乱れぬ集団行動をとる。ゴーレムは全て僕が操作しており、行動を完璧に同期させるのはお手の物だ。
もちろん、これだけではとても有用性なんて主張できないけど……ブロンズゴーレムが持っている武器は、決して飾りではないからね。戦ってこそのゴーレムであり、ゴーレムならではの強みがある。
「こうして、1個小隊規模の戦力をどこにでも出すことができます。またゴーレムには怪我という概念が存在しないので、破壊されても簡単に作り直すことができます。糧食も必要としません。さらに……総員、止まれ! 迎撃用意!」
――ガシャシャッ!
「迎撃!」
――ブンッ! ブンッ! ブンッ!
片手剣+小盾を装備したゴーレムが、前列で半身になって盾を構えれば……そのゴーレムの後ろから、長槍装備の中列ゴーレムが合間を縫って槍を突く。風を切る音が響くほどに鋭い突きが、8発同時に何度も繰り出された。
――パシュシュシュッ!
――トトトトンッ
――パシュシュシュッ!
――トトトトンッ
そこに目をやっていると、今度は青銅製の矢じりが8本ずつ上から次々と振り注ぐ。後列のゴーレムが弓を引き、山なりの軌道で放ったものだ。
これで王国聖騎士団が得意とする陣形、立体迎撃陣の完成だ。前と上からの二段攻撃に対応できる人はそうそういないだろう。
「"リリース・ブロンズゴーレム"」
――パシュゥッ!
見事な連携を見せたブロンズゴーレム24体を魔力に還し、僕へ戻す。還元率は大体99%くらいかな? 歩いて武器を振るったくらいで、ゴーレムに損耗はほぼ無かったからね。
まあ、これで終わりにしてもいいんだけど……せっかくヨハネス教授に興味を持ってもらえたのだから、現時点での僕の最高のゴーレムをお見せしようと思う。
「"マニュファクチャー・アイアンゴーレム"」
――ガガガガガガッ!!
――ドスンッッ!!
ブロンズゴーレムのそれよりもさらに重厚な音が響き、鋼鉄製のゴーレムが16体顕現する。体長2メートルを超える、非常に大柄なゴーレムだ。同時操作は16体が限界だけど、今の僕が切れる最高の切り札だと言える。
ブロンズゴーレムなら両手で持つ必要があるほどに巨大な剣と巨大な盾を、アイアンゴーレムはそれぞれ片手で持っている。ブロンズゴーレムの威圧感も凄かったけど、アイアンゴーレムのそれは巨躯も相まって桁違いに上だった。
「………」
ヨハネス教授の目が、アイアンゴーレムに釘付けになる。ブロンズゴーレムと同じように調べたいんだろうな、とは思うけど……実技試験には受験者それぞれに持ち時間があり、僕のそれはそろそろ時間切れが近付いてきている。申し訳ないけど、パフォーマンスを優先させてもらおうかな。
「数は少ないですが、全てにおいてブロンズゴーレムよりも上のスペックを誇ります。もちろん、これも動かせますよ。総員、整列! 行進!」
――ザッ! ザッ! ザッ!
1列縦隊にしたアイアンゴーレムに歩かせると、重厚な行進音が辺りに響く。全鋼鉄製のゴーレムだから当然だけど、非常に重たいので歩かせるだけでもかなりの迫力だ。
「止まれ! 総員、左向け左! 防御体勢!」
――ザッ!
こちらへ向いたアイアンゴーレムに巨大な盾を構えさせる。ブロンズゴーレムならすっぽり隠れてしまうような大盾でも、アイアンゴーレムが持つと小さく見えてしまうから不思議なものだ。
「迎撃!」
――ブォンッッ!!
「「「「うおぉ……」」」」
盾を引き、鋼鉄の巨人が一斉に大剣を縦に振るう。そのたびに周りの空気が揺れ、観衆と化した受験者たちから驚嘆の声が漏れた。
ブロンズゴーレムの演武は、集団行動での強みを見せる構成にしたけど……アイアンゴーレムのそれは、とにかく個の強さを見せつけることを意識した。こんな化け物みたいな騎士がそう何人もいるはずがないので、ゴーレム魔法の有用性は十分に示すことができただろう。
「総員、止め! "リリース・アイアンゴーレム"。
……いかがでしょうか、ヨハネス教授?」
「なるほど、これは面白い魔法だね。1度の攻撃では決して終わらないところが、特に面白いと感じたよ。
ブロンズゴーレムの時点でも、よく考えられた魔法だなと思ったけど……アイアンゴーレムが出てきて、将来性にも大いに期待が持てる魔法だと分かったよ」
「ありがとうございます。まだまだ研究途上の魔法なので、いつかはミスリルやオリハルコンでできたゴーレムを召喚し操作できるようになりたいと考えています」
「うんうん、いいね。ぜひ頑張ってね。
……さて、受験者の皆さん。これにて実技試験は全て終了です。試験結果は10日後を目処に、指定された場所へ伝えますので確認してくださいね。それでは、解散」
実技試験が終わり、受験者がゾロゾロと帰宅の途につく。その流れに逆らうようにして、ティアナが僕のところに近付いてきた。
「エリオス様、お疲れ様です」
「うん、ティアナもお疲れ様。今の僕の全力を出したつもりだけど、どうなるかな?」
「エリオス様なら、絶対に合格していますよ」
僕の合格を微塵も疑っていないようで、ティアナは聖母のような笑みを湛えている。
手応えは確かにバッチリだったけど、王立魔法士学校の試験は絶対評価……つまり、全ては僕の実力次第で合否が決まる。他の受験者との比較ではないので、本当に受かっているかは10日後にならないと分からない。
さて、どうなるだろうか?
……そして、10日後。
「エリオスよ、王立魔法士学校から合格通知が届いたぞ。しかも首席だ」
「ありがとうございます、父上」
合格通知が、学校から届いた。
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