幕間3:アルカディア王国国王・シュトラウス5世
「陛下、さすがにあれは驚きましたぞ。叙勲式の最中に与える勲章を急遽変更なさるなど、前代未聞です」
「迷惑をかけたな、ベーレントよ。しかし、そうした方が良いと余の直感が囁きかけてきたのだ、許せ」
余の執務室にて、王国宰相テオドール・フォン・ベーレント公爵の小言を聞き流しながら執務を処理していく。
……ベーレントとは昔からの馴染みゆえ、余を諌める言葉に対して咎めるつもりは一切無い。むしろ、余が誤った方向へ進もうとした際は身命を賭してでも止めてくれるので、余が最も信頼する臣下と言って良いだろう。
「それにしてもだ、ベーレントよ。エリオス・ソリスは本当に10歳の、しかも男爵家の三男なのか? あの見事な所作と口上、果たして王族や公爵家子息でもこなせる者はどれほど居るか」
「決して驕らず、そしてへりくだり過ぎず……実に堂々と、陛下の前で自信をもって口上を述べておりましたな。しかも、多分に配慮を含ませた素晴らしき内容。延々と功績を誇る者が多い中、短くまとめたことに私は不覚にも感心してしまいました」
余も決して暇なわけではない。功績を上げた者に勲章を与えるのは、確かに国王である余の仕事なのだが……儀礼的に行われる口上は、できれば短くまとめて欲しいのが本音だ。もちろん、余の立場からそのようなことは決して言えぬがな。
エリオスはそのことが分かっていたのか、本当に必要最低限のことだけを述べて終わった。また5分、10分と延々功績を誇られることを覚悟していたが、あっさりと終わって拍子抜けしたものだ。
「所作も完璧だった。『面を上げよ』と告げられて、余の顔を直視してしまう者は上位貴族の子息にも多いが……それすらもエリオスは押さえていた。どこぞの公爵がこっそり産ませて教育を施した、貴き血を引く隠し子だと言っても通るぞ」
あまりに出来が良すぎるので、ベーレントはこっそりとソリス男爵家当主のルーカスに聞いてみたそうだ。なにかしら、エリオスに特別な教育を施したのではないかと。
……だが、結果は否であった。あの見事な所作も口上も、全てエリオスが自ら学び、考え……そして練習を重ねた結果だそうだ。
ただ、あの優秀さの根拠となる情報も同時に得ることができた。
「フィスタ神とニーシュ神の愛し子……"使徒"か」
「そう呼称する者も中にはおりますな」
とある老魔法士の半生を、夢の中で追体験した。エリオスはルーカスに、そう伝えたそうだ。
その老人は、よほど優れた魔法士であったのだろう。
「齢10にして、ヴィルヘルム帝国の精鋭工作員を真正面から打ち倒すほどの魔法を扱うか。しかも、実戦に対し怖れる様子が全く無い」
いくら敵が油断していたとは言え、レベル20であるエリオスがレベル50以上のヴィルヘルム帝国工作員を2人も仕留めてしまうなど、余が報告を聞いた時は耳を疑ったぞ。しかも敵は魔法で姿を消したり、背後から急襲してきたというではないか。
現場検証を行った王都守護騎士団からの報告では、エリオスは紙一重だったと言いつつも平然としていたそうだ。対人戦の実戦経験はほぼ無いはずだが、人をあやめたことに対する忌避感などは感じていなさそうだったという。
「所作も口上も完璧で、対人戦もそつが無い……確実に、エリオスは化けるぞ。余はそう考えている」
「私も同感ですな」
「エリオスの身分も、余からすれば非常に都合が良い。非情かもしれないが、エリオスは長子でないので貴族家の血の継承に何ら影響を及ぼさない。それゆえ、前線へ送り込むのに余計な配慮が必要無いのだから」
ヴィルヘルム帝国との戦争は、現在のところ膠着状態に陥っている。確かに我々は国土の2割を失陥し、かつヴィルヘルム帝国軍は相応に精強だが……我々から奪った土地で大規模反乱やゲリラ戦が相次いでおり、それらを鎮圧するのにヴィルヘルム帝国軍は多大な労力を費やしていると聞く。またそれらが補給路を度々寸断し、前線では食事さえままならない状況が続いているという。
いくら精強な軍人といえど、腹が減っては力は発揮できない。最前線のヴィルヘルム帝国軍は、その戦闘力を大幅に落としていると言えるだろう。
一方で、我が軍も大きな問題を抱えてしまっている。緒戦のミスで精鋭の国境防衛軍が壊滅してしまい、現在の前線を支えているのは大半が二線級の軍団なのだ。総じて実戦経験が足りないため、反攻作戦を展開するにあたっては不安が残る。
加えて、王位継承権争いの影響がまだ残っているのも痛い。余を支持する派閥と余の弟を支持する派閥で、聖騎士団が真っ二つに割れて派閥争いをしてしまった。その派閥間の連携に今もかなりの不安を抱えているのだ。
幸い、エリオスの父ルーカスがどちらの派閥でもない中立派で、かつ実力のある副団長として実権を握っているからこそ聖騎士団は纏まりを見せているが……ルーカスに何かあれば、聖騎士団はすぐに割れてしまうだろう。だからこそ、ルーカスを迂闊に前線へ出すことができないのだ。
この膠着状態を、余としてもなんとか打開したい。そのための鍵となるのが……。
「"特殊作戦群"を創設した暁には、エリオスにも所属してもらおうと余は考えている」
「特殊作戦群……各騎士団や魔法士団、探索者といった立場を越えて優れた能力を持つ者を集め、特殊な作戦行動を行う部隊のことですな。陛下直属の部隊として編成するとお聞きしましたが」
「そうだ。余の判断で即座に行動できる、即応性の高い少数精鋭部隊……その創設を余は目指している」
もっとも、すぐに創設できるわけではない。優れた能力を持つ者がそうそういるはずもなく、エリオスでさえまだ候補者に過ぎない。
そもそもが、エリオスはまだ10歳だ。国家存亡の危機でもない限り、未成年を戦いの最前線に送り込むなどあり得ない。
「悠長にはしていられないが、かといって焦っては今度こそ我が国は滅亡の危機に瀕してしまう。国王としてそれだけは避けなければならぬ。
……今しばらくは、我慢の時が続くか」
「そうですな……戦線を支えるにあたり、負担が大きいのは間違いなくヴィルヘルム帝国の方です。消耗戦ならば王国の方がやや有利でしょう」
「エイジス共和国との折衝を忘れるなよ。かの国とは、今後も程良い距離感を保って付き合いを続けていきたい。そのためには、かの国には中立でいてもらわねば困るのだから。
あとは、まだアルカディアスにヴィルヘルム帝国工作員が残っている可能性がある。そちらの捜索も引き続き行わせろ」
「御意」
王国が繁栄するため、できることは全て手を打っておく。
……余の即位は、マイナスからのスタートであったからな。余が国王であるうちに、これを少しでもプラスの方向へと持っていきたいものだ。
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