1−38:違和感
「うん、今日も大成果だったね」
「やはりゴーレムさんは凄いですね。それを操るエリオス様はさすがです」
「ほんと、昨日の訓練でブロンズゴーレムがどれだけ強いのかよく分かったっす。あれ、レベル35くらいの強さはあるっすよね?」
「ああ、多分それくらいかなって思ってる」
「……普通に俺たちより、強いです。1対1では、勝てませんね」
――ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ……
今日のダンジョン探索を終えて、第1階層の直線通路を歩きながら3人と会話を交わす。一応、ブロンズゴーレム12体を周囲に展開して警戒はしているけど……ここに出るレムレースはレッドジェリーとゴブリンだけなので、正直なところブロンズゴーレムの敵ではないね。
伯爵家三男坊殿のような、面倒な探索者にも遭遇しなかったから楽だった。そもそもの話、今日もダンジョン探索している人数が少ないのか、ほとんど貸し切りのような状態だった。おかげでホブゴブリン討伐とスモールボア討伐が非常に捗り、アンチポイズンバングル2個とアンチスリープバングル1個、アンチブラインドバングル1個、パワーリングⅠ3個を新たに入手することができた。
ただ、明日はさすがにダンジョン入りする探索者が多いかもしれない。今日まではいわゆる仕事日だけど、明日は休養日……アルカディア王国法により7日中1日は休養日が設定され、国民生活や国防などに大きな影響が出るような仕事に就く人を除いて休暇を奨励されるからだ。ちなみに罰則付きなので、"奨励"と言うより"強制"と言った方が正しいかもしれない。
探索者には専業の人もいるけど、実は兼業探索者の方が圧倒的に人数が多い。そして探索者や探索者ギルド職員は、実は国防に多大な影響を与える仕事として扱われているので、休養日でも自由に活動できるわけだ。
加えて兼業探索者は仕事があるので、仕事日にはあまりダンジョン探索ができない。専業探索者は仕事日も休養日も関係無くダンジョン探索をしているけど、そういう人たちは僕らが探索するような浅い階層にはほぼ居ない。そういうわけで、ほとんどダンジョン内で探索者に会ったことが無かったのだ。
まあ、明日はダンジョン入りする探索者が多くてまともに探索できない……特にボス部屋周回ができない可能性もあるので、思い切って休みにしようと考えている。
そうしてブロンズゴーレムをリリースし、ダンジョン探索を終えて建物の外に出た時のことだった。
「……?」
ふと視線を感じて、そちらに顔を向ける。ここは貴族街のど真ん中なので、大きなお屋敷が立ち並んでいるのだけど……その裏手に繋がる、細い路地の方を見る。
……誰も居なかった。シーンと辺りは静まり返り、風の音だけが耳に届いてくる。
「? どうかなさいましたか、エリオス様?」
「……いや、なんでもない」
僕の挙動にティアナが気付き、心配そうに話し掛けてきたので何でもないと手を振って答えておいた。
うーん、誰かの視線を感じたような気がしたんだけど。もしかしなくても、気のせいだったかな?
……なんてね。
("ストーンバレット")
――ビュッ!!
2つの石礫を、無詠唱で裏路地に向けて超高速で飛ばす。威力よりも速度重視で、とにかく早く着弾するよう調整した。
――ドスドスッ!
「ぐぁぁっ!?」
何も無いはずの空中に、2つの石礫が突き刺さって止まる。そこから、人の悲鳴――声の低さからして、おそらくは男だろう――が聞こえてきた。
「えっ、えっ?」
「な、なんっすかアレ!?」
「……まさか!」
突然のことにティアナとゼルマは驚いていたけど、フランクは何かに気付いたようだ。
「……まさか、あれで僕をごまかせるとでも思ってたのかな? ヴィルヘルム帝国の工作員さん?」
「ぐ……」
何も無かったはずの空間に、スゥッと黒ずくめの男が姿を現す。石礫が突き刺さった右足から、ジワジワと赤い血がにじみ出てきている。
隠形の魔法、名前は確か"インビジブル"だったかな? 光魔法の1種で、周囲から自分の姿を隠してしまう効果がある。おそらくはそれを使ったのだろう。
……この魔法は、激しく動いたりダメージを負ったりすると効果が切れてしまうからね。今回はストーンバレットが突き刺さって、そのダメージでインビジブルの効果が切れてしまったのだろう。
まあ、僕には【魔眼】があるから、魔法で姿を消しても分かっちゃうんだけどね。白く光ってるように見えたから、本当に一目瞭然だったよ。
「ダメじゃないか。僕の大切な仲間に向けて、魔法を放とうとしちゃあさ?」
「……くそっ、なぜ分かった?」
「律儀に答えてやる必要は無いね」
僕が【魔眼】持ちだとバラしてやる義理は無い。逃がすつもりは微塵も無いけど、余計な情報は与えないに限る。
特に創作物なんかだと、勝ちを確信したキャラがごちゃごちゃと余計なことを口走った結果、逆転の憂き目に遭う事例は枚挙にいとまがないからね。
("アイアンスパイク")
そして、更に無詠唱で攻撃魔法を行使する。魔力消費量が増えてしまうので、必要な時以外は使わないのだけど……今は必要な時だから、魔力消費量が増えてでも使っておく。
アイアンスパイクは、足下から鋼鉄製のトゲを大量に生やす攻撃魔法だ。出が早くて高威力だけど、距離が遠くなるほど制御が難しい魔法になる。
そんな攻撃魔法を、ヴィルヘルム帝国の工作員に向けて放った。
――ドシュドシュッ!!
「がふっ……!?」
僕たちの後ろから、肉を引き裂くような音とくぐもった悲鳴が響く。声からして、こちらは女のようだ。
「……なっ!?」
口元を嘲笑の形に歪ませていた、男のヴィルヘルム帝国工作員が驚愕の表情に染まる。いいね、そういう表情が見たかったんだよ。
「……えっ?」
キョトンとするティアナは、とても可愛いけどね。そのティアナに手を出そうとするやつは、男だろうと女だろうと容赦はしない。
位置関係的に、女工作員が狙っていたのはティアナだった。この僕の目の前で、ティアナを狙ったのだ。だからこいつらは、この世に生まれてきたことを骨の髄まで後悔させながらあの世に送ってやろう。
「気付いてないとでも思った? 工作員がもう1人いることくらい想定済だよ。
……あまりソリス男爵家の貴族を舐めるなよ? 我が国の軍属が、貴様らダニ共の思い通りに動くと思ったら大間違いなのだから」
「が……ぐ……くぅ……」
鋼鉄の槍に体を貫かれた工作員の女が、苦しそうに呻く。頭や心の臓は外れているので、即死はしなかったみたいだけど……残念ながら、それは苦しむ時間が長くなっただけだ。死の運命はもはや変わらない。
「10歳のガキに策を見抜かれるなんてさ。君たち、ホントにヴィルヘルム帝国の精鋭工作員なの? ちょっと信じられないなぁ」
「………」
工作員の男は、絶句して言葉も紡げないようだ。こんなのが精鋭とは思えないので、実はもっと凄腕の工作員を出し渋っているのかもしれない。
……そういう人材は、ヴィルヘルム帝国としても絶対に失いたくないだろうからね。まずは二流の人間で様子見というのは、心情としては理解できなくもない。
ほんと、アルカディア王国という国をバカにされてるなぁとは思うけどね。侮ってくれた方がこちらとしては好都合なので、まあ何も言うまいよ。
「それじゃあ、さようなら。"アイアンスパイク"」
「まっ――」
――ドシュドシュッ!!
男の工作員の方も、あっさりと鋼鉄の槍に全身を貫かれる。今度は心の臓と頭も貫いたので、どうやら即死だったようだ。
「……あ、レベルが上がった」
腕前は二流でも、工作員のレベルはそこそこ高かったみたいだ。あっという間にレベル22まで上がり、レベル20の壁を軽々と突破してしまった。
「……わ、私もレベル21まで上がりました」
「私も22まで上がったっす」
「……俺も、22まで上がりました」
ティアナとゼルマ、そしてフランクもレベルが上がったみたいだ。
「どうだい? 僕たちの経験値になった気分は?」
「………」
女工作員に話し掛けてみたけど、こちらはいつの間にか事切れていたようだ。僕の問い掛けに返事は無く、ただの屍となってしまったようだ。
王都を騒がせたヴィルヘルム帝国工作員を、これ以上の被害が出る前に仕留めることができた。二流の工作員で良かったと思うけど、今後は本物の一流工作員が王都を脅かしてくるかもしれない。
その時に備えて、僕も油断せず己を磨くとしようかな。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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