1−37:不穏な気配
「エリオスよ、訓練に行く前に少しだけいいか?」
「……? はい、父上」
フォルクハルト士爵様との出会いから、翌日。
朝食を終え、練兵場に向かうべく席を立とうとしたところで父上に呼び止められた。父上はかなり難しい顔をしているけど……何かあったのだろうか?
「昨晩のことだが、王都の路上に剣を持った通り魔が現れたらしい」
「通り魔ですか!?」
「うむ。とは言え、既に容疑者は逮捕されているのだがな」
あまりに物騒なその言葉に、驚愕してしまった。下手人は既に捕まっているようだけど……。
「フォルクハルトが帰り道に襲われたが、魔法で捕縛してそのまま王都守護騎士団に引き渡したそうだ」
「なっ、フォルクハルト様は大丈夫なのですか!?」
「安心せよ、やつは無傷だ。隠形と索敵はやつの得意技だからな、不意を突かれることはまず無かろう。
……とは言え、その前に王都民が3人ほど斬られてしまったそうだ。全員重傷を負ったものの、命に別条が無かったのが幸いか……」
「ちなみに、下手人はどんな人物だったのですか?」
ふと聞いてみると、父上は苦虫をまとめて噛み潰したかのような顔になる。
「……通り魔事件を起こしたのは王国民だったがな。そこに、ヴィルヘルム帝国の工作員が関与している可能性が高い」
「――!!」
ヴィルヘルム帝国。ディオニソス大陸の北東部に領土を持つ、アルカディア王国の永遠の宿敵だ。王位継承争いの隙を突き、王国の領土を掠め取った怨敵でもある。
皇帝を頂点とした貴族制国家で、ヒューマ至上主義を掲げている。多種族が融和して暮らすアルカディア王国とは、あらゆる面で絶対に分かり合えない国だ。そんな敵国が、アルカディア王国の王都に工作員を潜り込ませているのか……?
「通り魔事件を起こした者は、闇魔法で操られていたそうだ。捕縛された時のショックで正気に戻ったようだが、操られていた時の記憶は一切無かったらしい。もちろん、闇魔法をかけた真犯人のことも全く覚えていなかったそうだ。
……王都で騒ぎを起こされれば、市民生活にも少なからぬ影響が出てくる。それを防ぐために王都守護騎士団がいるわけだが、騒ぎを起こしたのは敵に操られた王国民……工作員に繋がる手掛かりが少なく、捜査が長期化することが予想されているそうだ。随分と嫌な策を使ってくるものよ。
もっとも、こちらも同じようなことをしているからな。そこはお互い様というわけだ」
「……なるほど」
戦争は、綺麗事だけでは勝てないってことだね。
「さて、元々エリオスは夜間外出などしないが……改めて、夜間外出禁止令を出す。しばらくは護衛も増やすから、窮屈になるが我慢してくれ」
「分かりました」
ここで完全外出禁止とならないのは、ソリス男爵家が軍事系貴族家だからだ。まがりなりにも軍事を司る貴族家の者が、工作員ごときを恐れて引きこもるなどあり得ないのだ。
……さて、どうなるんだろうか。早めに工作員が捕まってくれるといいんだけどね。
「うっす、今日はよろしくお願いしまっす、エリオス様!」
「おっ、よろしくなゼルマ」
訓練2日目、今日はゼルマが来る日だ。
既に練兵場へと来ていたゼルマは、見るからにワクワクとした様子で立っていた。
「……そういえばゼルマ、通り魔の話は聞いた?」
「あ、聞いたっすよ。クソ帝国のゴミ虫共が蠢いてるらしいっすね、見つけたら徹底的に苦しませてから、あの世に送ってやるっす」
「酷い言いようだね……まあ、僕も概ね同意だけど」
「かの帝国はダメです、決して許される存在ではありません。この世から速やかに滅されるべきです」
「そうだね」
ゼルマもティアナも、ヴィルヘルム帝国は嫌いなようだ。僕だってそうである。
ティアナの故郷を奪った。ただそれだけで、僕にとっては万死に値する愚行なのだから。
……ちなみに、ゼルマのように口さがない人たちはヴィルヘルム帝国を決して国名で呼ばない。クソ帝国とかダニ帝国とかゴミ帝国とか、まあなかなかに酷い蔑称で吐き捨てるように呼ぶわけだ。ただこれだけでも、対立の根深さがよく分かる。
なにせ、分かり合える要素が皆無だからね。多種族融和国家とヒューマ至上主義国家という違いに加えて、実はアルカディア王国の国教であるフィスタニーシュ教と、ヴィルヘルム帝国の国教であるゾラ教は互いに互いを消滅させようとする行為を"聖戦"と称するほど仲が悪い。友愛を基本教義とするフィスタニーシュ教も、ゾラ教だけは徹底的に叩き潰すことを奨励しているのだから相当なものだ。
「まあ、ヴィルヘルム帝国の工作員のことは今はおいておこう。どうせ僕たちがバタバタしてもしょうがないし」
「……そうですね」
「そうっすね」
偶然にでも出くわしたなら戦うけど、簡単には見つからないからこそ工作員なのだ。既に王都守護騎士団の人たちが動いているそうだし、工作員のほうも今後はそう身動きは取れないはずだ。
精神操作の闇魔法を使ってくるのは厄介だけど、それを防ぐマジックツールだってある。捕縛は時間の問題だろう。
「よし、今日は早速16体でチャレンジかな。"マニュファクチャー・ブロンズゴーレム"」
――ガガガガガガガガガッ!!
工作員のことは頭の片隅に置いておき、早速ブロンズゴーレムを召喚する。フォルクハルト様と一緒に魔法陣を改良したことで、更に少ない魔力量でゴーレムを呼び出せるようになったけど……やはり、僕の操作技術の方が全く追い付いていない。焦ってはいけないのだけど、心情的にはどうしても焦ってしまうのだ。
もっとも、これに関してはひたすら訓練あるのみだ。上達に近道などないのだから、実践して慣れていくしかない。
「おお、いつもは味方っすけど、こうやって対峙するとなかなかの迫力っすね」
幸い、僕には私兵団員という良い訓練相手がいる。彼ら彼女らも訓練を通じて徐々に上達していくのだから、まさにウィン・ウィンの関係を築くことができているのだ。
◇
「ふう、ありがとうみんな」
「「「「ありがとうございました!」」」」
訓練を終えて、皆に声を掛ける。どうにかブロンズゴーレム16体の操作にも慣れ、私兵団員たちにも勝てるようになった。
……さて、次はどうしようか。単純に同時操作数を増やすのもいいけれど、昨日のフォルクハルト様との魔法陣改良で目指せる方向性が1つ増えた。
すなわち、アイアンゴーレムへの切り替えだ。アイアンゴーレムは確かに強いけど、その分操作負荷がブロンズゴーレムに比べて重い。現状だと4体を操作するのが精一杯だから、これを増やしていくわけだ。
ただし、これをやってしまうと私兵団員たちが訓練にならなくなってしまう。ブロンズゴーレムはレベル30〜35の戦士程度の強さなので、私兵団員たちのレベルの平均とほぼ互角だ。だからこそ訓練が成り立っているのだけど……アイアンゴーレムの強さはもっと上だ。仮にレベル50相当の強さを持っているとすれば、さすがに強すぎて訓練にならなくなってしまうだろう。
……うん、やはりここは、ブロンズゴーレムの同時操作数を増やしていく方針が手堅いな。次なる壁は32体の所にありそうな気がするから、そこを目指していこう。
「明日はゼルマもフランクもいるんだよね?」
「はい、そうっす。ダンジョンに行くっすか?」
「うん、そのつもりだよ」
工作員の存在は気になるけど、ダンジョンには普通に行くつもりだ。軍事系貴族家の一員として、情けない姿を王国民に見せるわけにはいかないのだから。
さて、今日も魔法陣改良作業をしてから、早めに寝るとしようかな。
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