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幕間1:ルーカス・フォン・ソリス


(ルーカス・フォン・ソリス視点)



「それでは父上、お先に失礼いたします」

「うむ。食事前に話した通り、ゼルマとフランクに声を掛けておきなさい。ティアナの分も含めて、紹介状は私の方で準備しておこう」

「分かりました、父上。ティアナ、行こうか」

「はい、エリオス様」


 私に深く一礼をしてから、エリオスが食堂を出ていく。エリオスに続いて、ティアナも私に向けて深く一礼してから食堂を出ていった。

 ……廊下に出た後、2人が自然な様子で手を繋ぐのが一瞬だけ見えた。その様子を見ていると、単なる主従関係に留まらない特別な感情が2人の間にはあるのだと……日頃より妻に鈍感と言われる私でも、容易に察することができた。

 親としても貴族としても、特に遮る理由は見当たらないな。男爵家の三男という立場であれば、残念ながらほぼ確実に家督を継ぐことはできない。いつかは平民として独り立ちするか、自ら功績を上げて叙爵されなければならない立場にある。

 幸い、エリオスはとても(さと)い子だ。自身のそのような立場が分かっているのか、幼い頃より日々剣の鍛錬に励み、また様々な勉強を積んでいた。残念ながら、剣の才では兄2人には到底及ばないが……頭の良さや状況判断能力は、エリオスの方が優れているだろう。案外、エリオスなら自力ですぐに爵位を賜ることができるかもしれぬ。

 そんなエリオスならば、ティアナを娶らせても問題は無かろう。戦火の中でどうにか連れ出した娘だが、ティアナもまた大切な我らが国の国民だ。貴族として、良き道を歩めるよう手筈を整える義務があるのだから。


「……ふむ」


 それにしても、今日のエリオスは少し様子が違っていたな。幸いにも、良い意味でだ。


 ……もともと、気にはなっていたのだ。いくら私が止めても、なにかに取り憑かれたかのように毎日欠かさず朝の鍛錬に参加していたエリオスが……今朝は何も言わず、鍛錬に姿を見せなかったのだから。

 特に、ここ最近のエリオスはかなり根を詰めている節があった。10歳の誕生日を目前に控え、様々なことが許されるようになる前に少しでも自分を高めておきたい、という非常に強い意志は感じられたのだが……その意志に引き摺られて、ややオーバーワーク気味なところが見受けられた。心の状態に体が付いていけず、そのせいで心まで悪影響を受けてしまったのではないかと懸念していたのだ。

 私が副団長を務める聖騎士団でも、熱意に溢れていた者がある日突然やる気を喪失してしまう事象……医師による診断では"燃え尽き症候群"となって、聖騎士団を辞してしまうことがあった。なまじ普段は意欲が高いゆえ、止めるに止められないことが多々あったのだ。

 ゆえに、食堂でのエリオスの様子には特段の注意を払っていたのだが……私が見る限りでは、意欲を失ってはいなかった。むしろ、10歳の誕生日を迎えて『さあ、これからだ!』という熱意に、更に溢れていたように思う。その状態で"休む"という選択肢をとれるのであれば、ひとまずは安心してもいいだろう。


 ……ただ、エリオスの変わりようには少し違和感を覚えた。昨日までのエリオスも、その年齢にしてはどこか落ち着きのある子だったが……今しがた相対した我が息子は、落ち着きを通り越してもはや泰然自若としていた。私の急な振りにも焦ることなく考え、知識を()り合わせて最適と思われる回答を返すことができていた。

 途中で、私がエリオスを試していることにも気付いていたようだしな。とても10歳とは思えないほど、その一挙手一投足には余裕があった。


「………」


 それに、ティアナの魔法適性をエリオスが見抜いたことも気になる。


 人が発した魔力を感知する、というだけならまだ分かる。王国魔法士団に所属する一流の魔法士たちならば、誰もができる技術だからだ。ゆえに、彼ら彼女らは身に纏う魔力を均一に制御して、相手に実力を測られにくくするそうだ。

 ……だが、初見で得意属性まで言い当てた者は王国魔法士団にも居なかったはずだ。そもそも魔力に色が付いているなど、今まで聞いたことがない。


 一流の魔法士ですら身に付けていない技術を、10歳になったばかりのエリオスが身に付けている……それが一番、私にとっては不思議なことでもある。

 生まれつき"スキル"を持っていた可能性もあるが、それは統計上1000万人に1人の割合でしか発現しない。その中でも魔法系のスキルは希少なので、理論上でしか存在しないような確率をエリオスが引き当てたことになる。


「旦那様、どうかなさいましたか?」


 ずっと隣で静かに座っていた妻が、ここで口を開いた。

 私を影に日向に支えてくれている才媛、名をカテリーナ・フォン・ソリスというのだが……おっとりしているように見えて、実は中々のやり手なのだ。

 先ほどエリオスと約束した、探索者ギルドへの紹介状の件。それも既にカテリーナが手配していることだろう。私が執務室に戻れば、既に紹介状の紙面が用意されていて……後は私が最終確認を行い、サインを施して封筒に収めれば完成となる。それを無言のままに手配できるだけの実力が、我が妻にはあるのだ。

 ……ふむ、もののついでだ。どうせ探索者ギルドに行くのであれば、エリオスの魔法のことも併せてあいつに任せてみるか?


「もしかしたら、エリオスは魔法の天才なのかもしれない、と。そう思ってな……」

「ふふ、それは素晴らしいことですね」


 これだけ言えば、カテリーナには十分伝わるだろう。カテリーナもあいつのことは知っているからな。


 ……武術の才においては、確かにエリオスにも素質はある。だが私ほどではなく、エリオスの兄2人にも残念ながら劣る。私の見立てでは、どれほど頑張っても中の上辺りが限界となるだろう。

 だが、魔法の才ならばどうだ? 魔力は遺伝の要素が比較的大きく、かつ我がソリス家の家系に魔法士となれるほどの魔力を持つ者はいないが……アルカディア王国ではごく稀に、突然変異的に強大な魔力を持つ者が生まれることがある。私は魔力をほとんど持っていないので、詳しいことは分からないのだが……おそらくは、エリオスもそうなのではないだろうか。


 ちなみに、他国でそのようなことは一切起きていないそうだ。一説にはアルカディア王国の国教、フィスタニーシュ教にて主神と仰ぐ友愛の双子神・フィスタ様とニーシュ様の気まぐれが巻き起こす、神の奇跡の結晶だとも言われているそうだが……真偽は全くもって不明だ。

 神々がもたらす超越的な御業に対して、人の身であれこれ考えるだけ時間の無駄なのだから……。


「魔法の素養は、訓練を始めるのが早ければ早いほど大きく伸びるそうです」

「……カテリーナ、頼めるか?」

「はい、旦那様。すぐに手配いたしますわ」


 カテリーナが席を立ち、一礼して食堂を後にしていく。これでエリオスの教育環境は整えられそうだ。

 あとは、そうだな……。


「……訓練や勉強と並行して、エリオスには目標も与えるべきか」


 エリオスには、早めにアルカディア王立魔法士学校へ挑戦させた方が良いかもしれないな。明確な目標があった方が、エリオスも動きやすいだろう。

 アルカディア王立魔法士学校は、王都アルカディアスの中にある一流魔法士養成のための専門学校だ。建前上10歳から入学試験を受けられるが、入学時点でそれなり以上の魔法的知識と技能を習得していることが求められるので、10歳で入学を果たした者はこれまで1人も居ない。最年少入学記録は11歳1ヶ月だが、これは後に伝説的な大賢者として名を馳せた、ヴァルター氏の持つ記録となっている。

 そして、ここを卒業した者は全員が一流の魔法士として、優先的に王国魔法士団への入団を斡旋される。王国魔法士団員は平民でもなることができ、かつ給金が非常に良いので憧れの職業の1つとなっているそうだ。


 ……そういえば、王立魔法士学校は今年でちょうど創立200周年を迎えるのだったか。ちょうど時期が時期であるし、第200回の新入生はもしかしたら多めに採るかもしれないな。


「まあ、それよりもまずは探索者ギルドへの紹介と……あいつへの連絡もだな。私も紹介状を整えに、執務室へ赴くとしよう」


 私の出仕時刻はもう少し後だ。紹介状を確認し、整える時間くらいは十分に取れる。

 あとは、可能ならばエリオスと改めて会話する時間が欲しいところだが……さすがにそれは厳しいか。エリオスが練兵場に顔を出すと、私兵団員の皆と会話が弾んで長いからな。王宮へ出仕するために出発していく私を、練兵場から見送るエリオスの姿が目に浮かぶようだ。

 まあ、食事前の会話で確認したいことは全て確認済だ。あとのことは、あいつに任せることとしようか……。



◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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