1−36:フォルクハルト士爵の実力
「エリオス殿を、今すぐ王国魔法士団に入団させませんか?」
「……え?」
至極真面目な顔つきのまま、フォルクハルト様がとんでもないことを言いだした。
王立魔法士学校を経由しないで、そのまま王国魔法士団に入団する……一応、そういった前例はいくつもある。別に王国法などで禁止されているわけではないので、全く問題無い。フォルクハルト様の立場なら人事権もある程度持っていると思われるので、リップサービスということもないだろう。
ただ、そのルートで王国魔法士団に入団した人たちは、もれなく事前に相当な功績を積み上げている。だからこそ実力を認められて、入団が認められたわけだ。
もちろん、僕はそれに当てはまらない。技術や技能はあるかもしれないけど、功績も何も無いただの10歳の子供でしかないのだ。
「ふむ、理由を聞いてもいいか?」
「ええ、構いませんよ」
父上もさすがに疑問に思ったのか、僕よりも先にフォルクハルト様へ問い掛けてくれた。
「触媒を一切使っていないにも関わらず、エリオス殿は事もなげに魔法を発動させました。普通は触媒の補助が無いと、魔法の発動にはかなりの時間を要するものです。触媒無しで魔法を高速発動する技術は、ごく一部の高位魔法士のみが扱える超高等技術なんです。
……私にもできません。触媒を失った時のことを考えて修練は積んでいるのですが、どうしても魔法の発動に手間取ってしまうのです」
「えっ!?」
王国魔法士の中ではトップエリートたる、フォルクハルト様ですらできないことだって?
……前世の僕は平然とこなしていたけど、それがどれほど凄いことだったのか知らなかった。もしかして、前世の僕って超一流の魔法士だったりする?
「ちなみに、私はマントの内側に魔法陣を書き込んでいます。このマントは特殊な素材でできていますので、触媒としても機能するものなんです」
「そうなのですか……」
フォルクハルト様がマントの内側を見せてくれたけど、そこにはびっしりと魔法陣らしきものが大量に描かれていた。この1つ1つが、フォルクハルト様が行使する魔法と対応しているわけか……。
「しかし、エリオス殿にはその準備が必要無い。触媒を持ち歩かなくてもいいし、破損の心配もしなくていい。戦闘力の低下が起こり得ないので、私としては羨ましい限りですね。
そして、それほどの技術を持つのであれば……年齢に関わらず、エリオス殿は王国魔法士団に入団する要件を満たしていると私は判断します。ルーカス様に聞けば、エリオス殿は【魔眼】のスキルもお持ちのようですから。功績など、自然と積み上げていけることでしょう」
「………」
……フォルクハルト様の僕に対する評価は、どうやらとても高いようだ。
「ふむ、どうするエリオス? フォルクハルトはこう言っておるが……」
「……少しだけ、考えさせてください。技術的な面では要件を満たしていても、僕はまだ10歳の若造ですから……やはり、考えが甘いところがあると思うのです」
正直なところ、僕にはまだ自信が無い。技術的な部分はともかくとして、戦う者が持つべき心構えや覚悟が圧倒的に足りないと思うのだ。
……なにせ、王国魔法士団員は軍属だ。戦う相手はモンスターやレムレースだけでなく、同じ人間となる可能性も大いにあるのだから。今の情勢下なら、なおさらそうなる可能性は高い。
その時に、僕は躊躇無く戦えるのか。10歳だから、経験が無いから、覚悟が足りないから……戦場でそんな戯れ言は一切通用しない。無駄に屍を晒すだけだ。
そんな中途半端な人間が、王国魔法士のトップクラスたる魔法士団員としてふさわしいわけがない。だから、迷っているのだ。
ティアナの願いを叶えたいなら、間違いなく近道になるんだけどね。彼女の故郷に共に足を踏み入れるという、ささやかながら難しい願いを叶えるためには……。
「慎重ですね、とても10歳の子の発言とは思えませんよ。しかし、"立場が人を作る"とも言いますので……急かしたりはしませんが、決断は早い方がよろしいかと思いますよ?」
「ありがとうございます」
今はレムレースとしか戦っていないけど、いつかはモンスターや、人とも戦う経験を積んでいかないとね。
「……さて、忘れないうちにゴーレム召喚魔法の魔法陣をお見せ頂けますか? せっかくの機会ですし、ここで改良できそうな点を一緒に見繕っていきましょう」
「あ、はい、よろしくお願いいたします」
話がだいぶ明後日の方角に行っていたけど、ここでようやく本題に入ることができた。
……その後はフォルクハルト様と、ゴーレム召喚魔法の魔法陣改良にひたすら勤しんだ。そんな僕たちの様子を、父上は書類を片付けながらそっと眺めていた。
◇
「さて、こんなところでしょうか?」
「ありがとうございました、フォルクハルト様。とても良い勉強になりました」
「いえ、私としても良い経験になりました」
外が薄っすらと暗くなってきた辺りで、ようやく作業の手を止める。
……一緒に魔法陣の改良作業をこなしてみて、改めてフォルクハルト様の凄さを実感した。僕が独力で5日はかかるであろう成果を、なんとたったの2時間程度で上げてしまったのだ。
特に改良が進んだのは、アイアンゴーレムの召喚魔法だ。材料となる鋼鉄の生成過程にかなり非効率的な部分が混ざっていたらしく、そこを改良した結果アイアンゴーレムの召喚数が飛躍的に増えた。今ならロックゴーレム100体、ブロンズゴーレム50体、アイアンゴーレム25体は召喚することができる。
もちろん、それらをうまく操作できるかはまた別の話だけど。こればかりはひたすら訓練あるのみ、ということで今後も努力を怠らずにいこうと思う。
「ふふ、エリオス殿が我々の同僚になる日を楽しみに待っていますよ。
……さて、私はこの辺でそろそろお暇させて頂きますね。ルーカス様、本日はありがとうございました」
「ふむ、こちらこそ助かった。我がソリス男爵家には、魔法士の才を持った者が極端に少なくてな……オズバルドにも依頼はしているのだが、あやつは実践派ゆえ理論的な指導はあまり得意でないのだ」
「ゼーゲブレヒト士爵殿ですか。それはまた、凄い魔法士の方に指導を仰いでいらっしゃるのですね」
なるほど、フォルクハルト様もオズバルド本部長のことを知っているのか。士爵位を貰うくらいだからそんな気はしていたけど、オズバルド本部長は僕の思っていた以上に有名な方なのかもしれない。
理論派のフォルクハルト様、実践派のオズバルド本部長……僕はとても恵まれているな。
「また、時間のある時に寄らせて頂きますね、エリオス殿」
「ぜひ、よろしくお願いいたします!」
フォルクハルト様と過ごす時間は、得られるものがとても多そうだ。今後も機会を得られたら、積極的に活用していこうと思う。
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