1−34:ソリス私兵団、いつもの訓練風景……?
バルテン伯爵家三男坊殿との、ちょっとしたトラブルがあった翌日。今日はゼルマがお休みなので、ダンジョンには行かず私兵団員たちに混じって訓練を行う日だ。
「今日も良い天気ですね」
「ああ、絶好の訓練日和だよ」
太陽に照らし出され色とりどりの花が咲き誇る中庭を歩きながら、ティアナとの会話にも花が咲く。
……ティアナの笑顔は、太陽にも負ないくらいにまぶしく輝いている。この笑顔を絶対に曇らせるようなことはあってはならないと、僕は決意を新たにしていた。
「……おはようございます、エリオス様」
「お、フランクか。おはよう、朝早くから精が出るね」
「……はい、今日はよろしくお願いします。昨日から、楽しみにしていましたので」
「フランクを飽きさせないように頑張るよ」
訓練場に入ると、早速フランクが話しかけてきてくれた。今日の訓練で模擬戦を行うことは昨日の時点で伝えているので、フランクも楽しみにしてくれていたようだ。
……前回の模擬戦の時は、ゼルマもフランクもお休みだったからね。今日はお互い、身になる訓練を積めるといいな。
「おはよう、みんな」
「おっ、エリオス様! おはようございます!」
「聞きましたよエリオス様、もうレベル20に到達したんですって?」
「第4階層のボス部屋に籠もって、ひたすらスモールボアを倒してたとか」
「あのゴーレムに囲まれちゃあ、スモールボアも形無しですわな」
「あれ? なんだ、もう皆知ってるのか」
レベル20というのはまだまだ半人前扱いだけど、ここからはレベルアップに必要な経験値量が格段に増えるから……1つの区切りとしてはちょうどいいのかもしれない。レベル20以下で一生を終える人も少なくないからね。
なんせ、スモールボア120体を倒しても1つもレベルが上がらないのだから。これ以上レベルを上げるには、もっと強いモンスターやレムレースと戦えってことなんだろうね……。
「……すみません、俺が話しました」
「ああ、フランクが情報元か。問題無いよ、そう簡単に真似できることじゃないからね」
「そりゃ、ボス連戦なんて無理ですわ。弱いボスならともかく、強いボス相手じゃ絶対に誰かが怪我しちまいますよ」
「んで、弱いボスなんかいくら倒してもレベルは上がりませんからね。意味が無いですよ」
適正レベル以下の探索者では、ボス周回をこなすのは難しい。ゴーレムというダメージ無視の前衛がいるからこそ、安全かつ効率良くボス周回をこなすことができるわけだ。
もちろん、適正レベルを上回る探索者ならボス相手にも連戦をこなせるけど……その場合、そもそもボス周回をする意義が薄くなってしまう。特定のドロップ品狙いでもない限り、弱いボスと戦うのは時間の無駄でしかない。
だからこそ、ボス20連勝ボーナスの存在に誰も気付けなかったのだろう。今は僕たちと父上だけが、その存在を知っているわけだ。
「レベル20なら、第10階層辺りでも十分やっていけますよ。第10階層のボスはDランク下位のオーク2体で、さすがに格上の相手ですけど……あいつら脳筋なので、策を練れば十分勝てると思いますね」
「なるほど、オークか。ブロンズゴーレムで勝てるのかなぁ」
なんて言ってみたけど……多分、オークが相手でも勝てると思う。
これは僕の推定なんだけど、ブロンズゴーレムはモンスターで言うDランク上位、レベルに換算すると35〜40くらいの強さを持っていると考えられる。ホブゴブリンはともかくとして、スモールボアに無傷で完勝するならそれくらいの強さは必要らしいからね。その強さでもってオークと戦えば、無傷は無理だとしてもかなり有利に戦えるはずだ。
「まあ、1対1で無理なら数で押すだけさ。ゴーレムの強みは数とダメージ無視だからね。その強みをもっと活かすためにも、制御数はドンドン増やしていこうかな」
「おっ、ということは今日はゴーレム何体でやるんですかい?」
「そうだね……今日は10体からいこうと思ってる」
剣盾、槍、弓の混成部隊で模擬戦をすることも考えたけど、やはり8体では数が少なすぎる。まずは同時制御数を増やすことに専念して、混成部隊の連携制御はその後の課題だな。
「よっし、お前ら! 今回は10人ずつだ、エリオス様をがっかりさせんじゃねえぞ!」
「「「「おうっ!!」」」」
フランクまでもが気合の入った掛け声を上げて、その場にいた私兵団員全員が広い訓練場スペースへと向かっていく。
その後ろに付いて、僕も訓練場へと移動する。今日の訓練でどこまで制御数を伸ばせるか、楽しみだな。
◇
「はぁ、はぁ、はぁ……うぁ〜、きっつ」
夕陽が沈んでいくのを横目に、パタッと地面に仰向けに寝転がる。今日はずっとゴーレム10体を操作していたけど、結局最後までキツかったな……。
多分、数が増えて難易度が上がったからだろうね。操作に必死で細かい制御がまるでおぼつかず、今日は勝率もだいぶ低かった。1日で慣れるのはさすがに無理があったみたいだ。
……ただ、感覚的に明日1日頑張ればゴーレム10体は余裕で制御できるようになる気がする。それと同じ感覚で16体くらいまではいけそうなので、できればそこまでたどり着きたいところだ。
「……ふぅ、ありがとうございます、エリオス様。とても良い訓練になりました」
「フランクもお疲れ様。びっくりしたよ、ブロンズゴーレムがボールのように跳ね飛ばされるんだから」
「……まさか、こんなにも力が伸びているとは思いませんでした」
今日のフランクはとにかく凄かった。スモールボアの突進にすら耐えたブロンズゴーレムと大剣で打ち合い、パワーで圧倒して弾き飛ばしていたのだから。
これがレベルアップの恩恵か……とも思ったのだけど、僕と一緒にダンジョンへ行く前からレベル18だったので、フランクは2つしかレベルが上がっていない。それであのパワーを発揮できるというのは、いくらなんでも能力が伸び過ぎだと思うのだ。そこに、レベルアップ以外の要素があった可能性は高い。
……まあ、1つだけ思い当たることがあるんだけどね。
「もしかして、魔力訓練のおかげかな? フランク、もしかして魔力を腕に集めたりとか、そんな感じのことを訓練中にしてたりした?」
「……いえ、特に意識はしていません。確かに魔力を集めると、そこが強くなる感覚はありますが」
「うーん、そっか」
本格的な魔法が使えない人でも、魔力で身体強化をすることはわりと誰でもできる。
……ただ、無意識に身体強化をしていたとすれば、フランクは紛うことなき天才だと思う。前世の僕の記憶の中にも、意識せず身体強化を使って無双していた天才剣士がいるからね。フランクのあの規格外のパワーは、おそらくそうやって発揮されたのだろう。
「さて、今日はこの辺で訓練を切り上げ――」
「「……!!」」
屋敷の近くから強い魔力波を感じて、僕とティアナがそちらの方を振り返る。不思議なことに、魔力波から威圧感のようなものは一切感じず……どちらかと言うと、僕たちのことをやんわりと試してくるかのような意図を感じるものだった。
「どうしましたかい、エリオス様?」
ルッツが汗を拭いながら、僕に声を掛けてくる。
「お屋敷の方に、一流の魔法士がいるみたいだ」
「ああ、それならフォルクハルト士爵様じゃないですかねえ。今日来られると聞いてますし」
フォルクハルト士爵様というのは、王国魔法士団副団長その人だ。フルネームはバルリング・フォン・フォルクハルトと言い、父上とは仕事仲間であり友人でもある。なんでも同じ副団長同士、ほぼ同じことに苦労していて仲間意識が芽生えた結果、友人になったのだとか……。
……こうして魔力波を飛ばしてきたということは、僕はフォルクハルト士爵様に呼ばれている、という解釈でいいのだろうか? 実は直接お会いしたことが無いので、どのような方なのか伝聞でしか知らないのだ。
「分かった、呼ばれてるみたいだしちょっと行ってくるよ……よっと」
こちらも魔力波を返してから、サッと身嗜みを整える。僕が訓練中だということはおそらく知っていると思うので、多少汚れていても大目に見てもらえるだろう。
「ティアナも一緒においで」
「はい、かしこまりました、エリオス様」
ティアナを伴い、お屋敷の方へと移動する。
……さて、僕はどのような用件で呼ばれたのだろうか。ちょっとだけ楽しみであり、フォルクハルト士爵様の人となりを知らないのでちょっとだけ不安であり……。
まあ、悪いことにはならないだろうさ。
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