1−31:節目のレベル
楽しい楽しいお昼ご飯を済ませてから、再びスモールボア戦周回を再開する。今はちょうど、再開してから10戦目のスモールボア戦をこなしているところだった。
「ブゴォ……」
「ブゴォ……ブゴォ……」
ここまで見ていると、スモールボアは性格にかなりの個体差があることが分かってきた。出現してすぐに突進してくる個体がいれば、少し間を置いてから突進してくる個体もいて……今回のように、ずっと遠巻きに様子を窺ってくる個体もいる。毎回どんな性格の個体なのか、確認して対応する必要があるのは……正直なところ、ちょっと面倒だったりする。
特に、今回のように2体とも慎重派のスモールボアが来てしまうとちょっと面倒なことになる。対スモールボア戦ではカウンターに徹することが一番安全で確実な方法なのだけど、それもスモールボアが突進攻撃をしてくれなければ、いつまで経っても睨み合いが続いてしまう。
その状況が頻発するとボス周回をするにあたって効率が悪くなっていくし、何より僕の集中力が切れるリスクが高まっていく。もっと効率良く、もっと安全かつ確実にスモールボアを倒していくためには、何かしらスモールボアの突進攻撃を誘発させる策を用意しないといけないな。
……ちなみにホブゴブリンは性格の個体差が無く、かつとても単純な性格をしている。僕たちを見つけたらなりふり構わず殴りかかってくるだけなので、対応する側としてはとても気楽だったりする。
「……このままだと埒が明かないね。よし、行けブロンズゴーレム」
――ガシャガシャガシャ!
それにしたって、今回のスモールボアはあまりにも動きが少なすぎる。もう3分近く睨み合っているのに、2体とも突進攻撃を仕掛けてくる予兆すら無いのだ。
なので、試しにブロンズゴーレムを1体、剣を振り上げた状態でけしかけてみる。さて、スモールボアはどう反応するかな?
「「ブゴォ!?」」
――ザッ、ザッ、ザッ!
ブロンズゴーレムの接近に気付いたスモールボア共が、地面を後ろ脚で掻き始めた。どうやら突進攻撃で迎撃するつもりのようだけど、脅威が迫ってなお様子見を継続するような、危機感の無いレムレースじゃなかったみたいだ。
……なるほどね。相手が動かないのであれば、こちらから動いて刺激してやればいいのか……それなら、もっと良い方法があるな。
――ダッ!
「「ブゴォォォッ!!」」
――ズババッ!!
「「ブギィィィィッ!?」」
――ズザザザザ……
スモールボアが仲良く2体並んで突進してきたので、突撃させたブロンズゴーレムを大きく横っ飛びさせる。そうして突進攻撃を避けると、控えていたブロンズゴーレム2体でスモールボアの前脚を1本ずつ斬り付けさせた。
……斬られた脚の方へ体が傾き、転んで滑っていくスモールボア共を見ながら考える。ブロンズゴーレムに弓を使わせれば、牽制も簡単にできるのではないだろうか?
剣盾以外の武器を装備させたパターンのブロンズゴーレム召喚魔法は既にある。魔法陣改良の時についでにパターンを増やしておいたので、少々特殊な武器種であってもそれを装備したブロンズゴーレムを召喚することが可能だ。そのパターンの中に、弓兵型のブロンズゴーレムももちろん存在している。
ただ、実戦投入するにあたっては不安が残る。ゴーレムを操る僕自身、弓を扱った経験があまり無いからだ。近接系武器なら、まだアドリブでも何とかなるんだけどね……。
……そして、不安な時は無理しない。それがダンジョン探索者の鉄則だ。まずは私兵団員たちと訓練する場面で、弓兵型のブロンズゴーレムを混ぜた編成で戦ってみようかな。
「ティアナ、左のスモールボアにトドメを」
「はい……"レイ"!」
――パシュウッ!
「ブギィッ……!?」
――ガシャガシャガシャ!!
――ドスドスドスッ!!
「ブグッ……!?」
ティアナがレイを放ち、スモールボアにトドメを刺す。それと同時に、僕はブロンズゴーレムでもう1体のスモールボアを突き刺した。
……スモールボアがドロップアイテムに変わっていく。今回は珍しく、2体ともボアレバーをドロップした。
このボアレバーだけど、スモールボア60体を倒して計16個ドロップしている。ドロップ率は大体25%くらいかな? 売値は厳密には時価らしいけど、よほどのことが無い限り2500ペルナの固定額で買い取ってもらえるそうだ。
まあ、ペルナ稼ぎだけするならホブゴブリン戦周回の方が効率は良いんだけどね。怪我を負うリスクほぼ0で戦えるゴーレム戦法とホブゴブリン戦の相性があまりに良すぎて、約1分という凄まじい早さでホブゴブリン戦を終わらせることができる。その早さでもって周回し、各種腕輪型アーティファクトを集められるのはもはや反則技と言っていいだろう。
一方で、スモールボア戦周回は経験値稼ぎ効率がとても良い。加えて万年品薄な材料を市場に供給できるから、王国の繁栄に貢献したということで僅かながら貴族的功績も得ることができる。訓練のついでに貴族的功績を得ることができるなら、僕みたいな立場の人間にとっては一石二鳥なのかもしれないね。
「さて、本日31回目のスモールボア狩りを始めようか。ゼルマ、外に誰かいるかい?」
「いないっすよ!」
「よし、それでは扉を閉めてくれ」
――ガチャッ!
扉が閉まると同時に、部屋の隅に光の柱が2本立ち上る。さて、今回のスモールボアはどんな立ち回りをしてくるのかな?
◇
「……うーん、まさか3回ともパワーリングⅠが出るなんてね」
計60戦、120体目のスモールボアを倒し、その後に残った指輪型アーティファクトを鑑定して思わず言葉を漏らしてしまった。
……もちろん、パワーリングⅠはとても有用なアーティファクトだ。腕力が上がれば強力な武器を装備することができるし、敵に与えられるダメージも増える。武器攻撃を主体とする探索者や、各騎士団員にとっては垂涎の品だろう。
ただ、できれば他の能力が上がるリングも欲しいなぁ、と思うのだ。特に僕やティアナの場合、魔法系の能力を底上げするアーティファクトが是非とも欲しいところだ。
「もしかして、ここはパワーリングⅠしか出ないんじゃないっすか?」
「それは……うん、確かにあり得るね」
ゼルマの予想はもっともだと思う。さすがに3回とも同じ物が出たとなれば、元々のボーナスドロップが1種類だけである可能性は高い。
……だけど、まだ断定するには早いのも事実だ。あと何回かスモールボア戦を周回するつもりだけど、そこで本当にパワーリングⅠしか出ないのかが分かるだろう。
「……あ」
なんだか力が漲っていくような感覚を得た。しかも、今までよりもその感覚は一層強い。これはもしかしなくても……。
「今の戦闘でレベル20に上がったみたいだ。ゼルマはどう?」
「あ、私はもうレベル20になってるっす。フランクは?」
「……俺は、上がりませんでした」
僕は3つ、ゼルマは1つレベルが上がり、節目のレベル20に到達した。ただ、フランクはレベル20から上がらなかったようだ。スモールボアを60体倒しても上がらないとは、レベル20から21になるまでには相当な量の経験値が必要みたいだ。
多分だけど、レベル20に達した後はレベルアップに必要な経験値量が一気に増えるのではないだろうか? もはやランクEのレムレースでは足りなくて、ランクD以上のレムレースを倒していかないとレベルがなかなか上がらないのかもしれない。
……まあ、それならそれで僕としては構わないんだけどね。レベルが上がって魔力が増えても、僕の技術の方がまるで追い付いていないのだから。
今だって、ブロンズゴーレムを召喚するだけなら魔力量的に30体はいける。いけるんだけど、絶対に操作が追い付かなくなるのだ。30体のブロンズゴーレムを安定して操作できるようにするためには、技術の壁をあと2つは破らないといけないような……そんな気がするわけだ。
レベル上げは確かに重要だけど、それで得た力を使いこなせなかったら意味が無いからね。特に僕とティアナは急激にレベルが上がり、やれることがたくさん増えたんだけど……使いこなせるかどうかはまた別の話なのだ。ここからは技を磨くタームに入ったのだと、前向きに考えていこう。
「ティアナは、レベルどうなったかな?」
「はい、私はレベル18になりました。あと2つ上がれば20ですが、もう20体ほどスモールボアを倒せば到達できそうです」
「おお、それは重畳だね」
ティアナにトドメを刺してもらう方法は、どうやらかなり効果があったみたいだ。明らかにレベルアップ速度が早くなり、僕と同じくらいの勢いで上がっていっている。
……これで、僕とティアナの間に開いていたレベル差は少しだけ埋まった。本当なら、このままティアナがレベル20になるまで戦いたいところだけど……。
「……でも、今日はこの辺にしておこう。ちょっと疲れちゃったよ」
「ぜひそうしましょう、エリオス様もだいぶお疲れのご様子ですし……エリオス様がご自身で止めていなければ、私が代わりに止めていました」
「えっ、そんな疲れたような顔してる? 今の僕って」
「……私には分かんないっすけど?」
「……俺にも、サッパリです」
ゼルマとフランクは首を傾げているけど、ティアナは確信を持った様子で僕を見つめている。うまく取り繕っていたつもりだけど、ティアナの目だけはごまかせなかったみたいだ。
「成果としては、十分すぎるほどだと思います。これ以上はエリオス様のお体に障りますので、今日は帰りましょう」
「……うん、そうするよ」
節目のレベルに到達し、8体のゴーレム制御にもだいぶ慣れた。ホブゴブリンもスモールボアも3セット60戦ずつ周回して、貴重なアーティファクトもたくさん入手できた。誰もケガしなかったし、今回のダンジョン探索は大成功だと言っていいだろう。
パワーリングⅠをマジックバッグに入れ、ブロンズゴーレムを先頭にボス部屋を出る。通路側にレムレースはいなかったので、入り口を目指して歩き始めた。
さて、今日も父上に良い探索結果を報告できそうだね。
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