1−22:アルカディア王立魔法士学校とは
「………」
就寝用の服に着替え、父上から手渡された入学願書を自室のベッドの上で眺めながら、1人思案する。受験者要件欄には"10歳以上であること"としか書かれておらず、門戸が広く開かれた学校であることがよく分かる。
……ただし、門戸は広くとも入場門は狭いことでも、この学校は有名だ。
アルカディア王立魔法士学校……それは、一言で言えば王国最高の魔法士養成機関だ。その名前は僕でも知っているくらいに、とても有名な学校である。
市井にも魔法士を養成する教育機関はあるけれど、こちらは"王立"の名を冠する通り設備の質も、そして教育の質も桁違いに高い。それゆえに卒業生はおろか中退者でさえも一定水準以上の能力は保証されているので、各方面から引く手あまたとなるらしい。
……それだけに、王立魔法士学校の合格者は毎年25人前後しかいない。今年で創立200年目という長い歴史を持つ学校であるにも関わらず、これまでの入学者の総数は4965人……なんと、5000人にも満たないのだ。
多くの入学志望者を跳ね除け続ける、極悪難易度を誇る入学試験……その構成は筆記試験と魔法実技という極めてシンプルなものだけど、筆記試験は魔法学の他に歴史や数学やマナーといった科目も出題され、魔法一辺倒ではない幅広い教養を身に付けているかが問われる。ただ、こちらは毎年似たような問題が出題されるため、対策は容易だとされている。
むしろ、魔法自慢であるはずの入学志望者が最も頭を悩ませるのが魔法実技の試験だ。その難易度を上げている最大の要因が、手元の願書にもはっきりと書かれている。
「"入学志望者は、志望者オリジナルの魔法でもって魔法実技試験に臨むべし。その魔法の有用性をもって、試験の採点を行う"……か」
魔法実技の試験で問われる内容の要約だ。既存の魔法ではなく、志望者オリジナルの魔法でもってその有用性を示すことが求められている。
魔法士は既存の魔法を使えて三流、既存の魔法を改良できて二流、オリジナル魔法を開発できて一流、オリジナル魔法に広く有用性が認められて超一流とされる。王立魔法士学校は一流以下の魔法士にハナから興味が無く、超一流しか入学させる気が無いわけだ。これがあるので、規格外の天才でもない限り長期の研究と鍛錬は必須となる。
だからこれまで、10歳での合格者は1人もいない。10代まで範囲を広げても、大賢者と称されたヴァルター・フォン・ケンプフェルト氏ただ1人だけだ。そのヴァルター氏でさえ11歳1ヶ月での合格だったのだから、王立魔法士学校の入学試験に合格することがいかに難しいかを物語っていると言えるだろう。
「そんなところに、10歳になったばかりの僕が挑戦するのか……」
正直、不安しかない。合格率は甘く見積もっても5%程度、もしかしたら0%かもしれない。
なにせ、王立魔法士学校の入学試験にはアルカディア王国中の魔法自慢が集まってくる。レベルも錬度も僕より遥かに上の連中が、本気で準備をして試験に臨むのだ。そんな中で結果を出し、もって周囲を凌駕しなければならない。
そしてなにより、合否を判定するのは魔法士学校に所属している講師陣――つまりは、アルカディア王国きっての魔法士たちだ。事情があって現場には出られなくなった方たちだけど、魔法士としては間違いなく超一流だ。そんな彼ら彼女らが目を見張るような成果を、試験の場にて見せつけなければならない。
「………」
だけど、父上は僕に合格の可能性があると判断し、願書を託してくださった。ならば、その期待には少なくとも最大限の努力で応えなければならない。
「やはり、鍵となるのは魔法実技試験か」
僕のオリジナル魔法……と聞いて、最初に思い浮かんだのはゴーレム召喚魔法だ。これは前世の僕が独自に編み出した魔法であり、その知識を受け継いだ僕だけが使える魔法である。様々な魔法書を見ても載っていない魔法なので、オリジナル魔法だと考えていいだろう。
ただ、ゴーレムを召喚して動かすだけでいいか、と言われるとさすがにそれではダメだ。少複数体のゴーレムを召喚し、連携して行動させるくらいのものは見せなければ有用性の証明にはならないだろう。
なら、ゴーレムの数は具体的にどれくらい必要か。
「……聖騎士団1部隊ぐらいの数は必要かな?」
部隊によって人数はまちまちだけど、アルカディア王国聖騎士団は基本的に30人で1部隊を構成している。剣盾装備の前衛10人、槍装備の中衛10人、弓装備の後衛10人、といった具合だ。
それを再現するためには、ブロンズゴーレムが30体必要だ。ロックゴーレムでは強度が足りないし、アイアンゴーレムではさすがに魔力が足りなさすぎる。現実的には、この辺りが落とし所だな。
……これは筆記試験対策、ダンジョン探索での経験値稼ぎと並行して、ゴーレム召喚魔法自体の改良も必要かな? いくら稀代の天才が作った魔法といえど、ゴーレム召喚魔法はほとんど改良がなされていない状態の魔法だ。魔法陣に潜む無駄を排除していかないと、入試までの短期間でブロンズゴーレムを30体用意するのは難しいだろう。
加えて、ブロンズゴーレム30体を制御しきるだけの練度を身に付ける時間が必要だ。試験日になってようやく30体召喚できました、では何もかもが遅すぎるのだ。
「……よし、早速改良を始めてみよう」
ゴーレム魔法の魔法陣を脳内に思い浮かべる。本当は紙に転写した方が効率はいいのだけど、今はやめておいた。
……脳内で魔法陣を詳細に思い浮かべることができれば、いつでもどこでも魔法陣の改良ができるからね。その練習も兼ねて、今回は紙無しでやってみることにした。
さて、どれくらい効率化を図れるかな?
◇
――チュン、チュン……
「……う〜ん……はっ!?」
鳥の鳴き声が聞こえてきて、ふとベッドから飛び起きる。魔法陣の改良に夢中になりすぎて、いつの間にやら眠ってしまっていたようだ。
「………」
魔法の研究……前世の僕はともかくとして、僕自身はそれほど興味が湧かなかったはず、なのだけれど。
やってみると、案外楽しくて没頭してしまった。成果が目に見えて出てくる、という点が楽しく感じる理由だとは思うけど……とにかく、時間を忘れるほどにのめり込んでしまった。おかげで魔法陣の改良はそれなりに進んだ。
今ならブロンズゴーレムを10体、制御用の魔力を確保しながら余裕をもって運用することができるだろう。昨日は6体ぐらいが運用限界値だったので、実に60%以上の効率化に成功したわけだ。
そして、ゴーレム召喚魔法の効率化はまだまだこれからだ。あれだけ時間をかけて、前世の知識も総動員して効率化を図っても……精々全体の0.5%程度しか手を付けられていない。それでもここまで効率化できたのだから、元の魔法陣には相当無駄が多かったのだろう。
ただ、これを寝る前に毎日繰り返していけば、レベルアップ分も併せてブロンズゴーレム30体召喚は十分視野に入ってくる。あとは、それをどれだけ早められるかの勝負になるだろう。
「……30体のゴーレムを同時操作できるように、まずは少ない数から徐々に慣らしていく必要があるな」
4体程度のゴーレム操作でさえ、あれほど疲弊したのだ。その数が7倍以上ともなれば、どれほどの負荷がかかるか想像に難くない。しかも複雑な連携までさせるとなれば、なおさら大変だ。
それをまずは少ないゴーレム数から慣れていく。今日の時点で10体までブロンズゴーレムを召喚できるようになったのは、嬉しい誤算だと言えるな。
「さて、今日はダンジョンに行けるかな?」
ゼルマとフランクは、今日も私兵団員としての訓練日となっている。昨日は2人とも来てくれたけど、さすがに定例訓練にも参加しないといけないから、今後は交代で1人ずつ来てくれることになるだろう。
少し、確認しに行ってみようかな。
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