1−21:報告
ダンジョン探索を終えて屋敷に帰り、身だしなみをキッチリ整えた後。父上が王宮から戻ってこられたタイミングを見計らい、父上の執務室へと向かう。父上は屋敷に到着してしばらくは小休止をとられるので、そのタイミングで相談させてもらおうと考えたのだ。
「おや、エリオス様。このような時間にどうなさいましたか?」
執務室の扉の前に着くと、そこに父上専属の執事兼ソリス男爵家の執事長――ブリーゲルが立っていた。彼がここにいるということは、やはり父上は執務室にて小休止をとっておられるようだ。
……ちなみに、彼のフルネームはセバスチャン・ブリーゲルだ。アルカディア王国では、かつて王家の名執事長として名を馳せたセバスチャン・シュヴァインフルト氏の名前にあやかり、執事を家業とする家の長男に"セバスチャン"という名前を付けることが多い。ブリーゲルもそうであるため、混同しないよう姓で呼ぶことが暗黙の了解となっている。
「いや、少し父上に相談させてもらいたいことがあってな。申し訳ないが、父上に10分程度お時間を割いてもらえるか確認してくれるか?」
本格的に話をしようとすれば、10分で収まるようなボリュームではない。ただ、1から10まで全てを話し切る必要も無い。
最低限、ボス戦に20連勝すれば貴重なアーティファクトが手に入ることだけでも伝わればいいのだ。後は父上がうまく活用してくださるだろう。
「かしこまりました、旦那様にお伺いして参ります。エリオス様はこちらで少々お待ちください」
ブリーゲルが父上に確認するため、執務室の中へと入っていく。
……その背中を見送りながら、サッと身嗜みをチェックする。髪型よし、貴族服よし、靴よし、マジックバッグ2つよし……完璧だな。
「エリオス様、旦那様がお会いになられるそうです。中へお入りください」
しばらくして、ブリーゲルが執務室から一旦外へと出てきた。扉を開けて顔だけ外に出すのは、アルカディア王国においては大変な失礼に当たるからだが……まあ、多少の手間がかかってでも守るべき作法というものだ。
「分かった」
先導するブリーゲルに続いて、執務室の中へと入っていく。
……さて、与えられた時間はそれほど多くない。どのように報告するのが一番良いだろうか……?
既に父上はソファに座っておられたので、テーブルを挟んだ向かい側のソファに、一礼してから僕も座る。僕の先導を終えたブリーゲルは、静かに壁際へと歩いていった。
「お時間を割いてくださり、ありがとうございます、父上」
「ふむ、それは構わぬが……珍しいな、エリオスがこのような時間に訪ねてくるとは」
「早めにお話ししておくべきことがありますので……まずはこちらをご覧ください」
前話もそこそこに、懐からマジックバッグを取り出した。それを見た父上が、少し目を丸くしている。
……軍属たる父上は、兵站構築にも役立つマジックバッグのことをもちろんご存知だ。僕が取り出した物が何であるかを一目見て気付き、それゆえに少し驚いておられるようだ。
「ほう、マジックバッグか。確かにダンジョン探索には大いに役立つ代物であるが、エリオスは持っていなかったはずだ。これらはどうやって入手したのだ?」
「アーティファクトの専門店にて、手持ちのアーティファクトと交換で入手いたしました。ランクⅠの品ですが、それゆえ内部容量に不安がありましたのでもう1つ用意しております」
換金する物を入れるために使った、今はカラのマジックバッグも机の上に出す。さすがに2つも出てくるとは思われなかったのか、父上の表情は驚きが隠し切れていない。
「……2個のマジックバッグⅠと、ちょうど価値が釣り合うアーティファクトか。それなりに奥まで行かなければ、そのレベルのアーティファクトは見つからないはずだが?」
「ダンジョンに隠された、秘密の仕様とでも言うべきものを見つけたのです。それを利用して得た物が、こちらになります」
――ゴト……ゴト……ゴト
マジックバッグからバングル3種を次々と取り出し、テーブルの上へと並べていく。これには、さすがの父上も驚きに表情が染まった。
「「!?!?」」
……父上を驚かせるのは、今日だけでもう4度目だろうか。希少品がマジックバッグから次々と出てくるのを見て、明らかに絶句している。
普段は柔和な笑顔を決して崩さないブリーゲルでさえも、その表情は驚愕に彩られていた。相当な衝撃であったことは容易に想像がつく。
「……ふう……まさかとは思うが、それは状態異常を防ぐバングル型アーティファクトか?」
一呼吸おいてから、父上が僕に問いかけてきた。外に漏らしていい内容ではないことを察して頂けたようで、かなりの小声だ。
「はい。アンチパライズバングルにアンチスリープバングル、アンチポイズンバングルもあります。これがポイズンでこれがパライズ、こちらがスリープですね」
「むむむ……」
さすがの父上も、難しい顔をしたまま腕を組んでいる。そんな父上の視線は、机に並べられたアーティファクト――状態異常を防ぐバングル3種類と、僕が持つマジックバッグⅠの間を行ったり来たりしていた。
「……貴重なアーティファクトだ、半年に1つ出るかどうか、といったレベルのな。にわかには信じがたいが、これをダンジョンの浅層で手に入れたと?」
「はい、父上。第1階層、第2階層のボス部屋にて、20回連続で勝利すると追加でドロップするようです」
僕がそう言うと、父上の表情が曇る。
「第1・2階層のボスというと、ホブゴブリンか。初級探索者には厳しい相手だが、それと連戦するなど危険ではないか?」
「もちろん、安全には細心の注意を払っております。魔法も使えるようになりましたからね」
「なに?」
これに関しては、さすがに父上にはちゃんと伝えておくべきだろう。今日見た夢の話――前世の僕についての話を、より具体的にね。
「むぅ……なるほど、そんなことがあったのか」
「はい、父上」
半信半疑ながらも、とりあえずは父上に信じて頂けたようだ。本当に、アルカディア王国に生まれて良かったと思う。
アルカディア王国貴族にとって、フィスタニーシュ教の信仰はもはや必修科目と言っても過言ではない。だからこそ、僕のこの荒唐無稽にもほどがある理由に、ちゃんとした現実味が生まれるのだ。
そして、前世の記憶により魔法が使えるとなれば……。
「では、エリオスよ。その魔法を、今ここで見せてもらえるか?」
「はい、分かりました」
当然、どんな魔法なのか気になられるだろう。もちろん準備はできている。
「"マニュファクチャー・アイアンゴーレム"」
岩でも青銅でもない、今の僕が使える最高レベルのゴーレム魔法を使う。鉄製のゴーレムを作る魔法だ。大量のパーツが空中に浮かび上がり、一気に組み上がり形作られていく……。
そして10秒後くらいには、身長2メートルほどの立派な騎士ゴーレムができあがった。武器を持たせておらず、鎧兜のデザインはアルカディア王国聖騎士団の制式装備に合わせている。
「こ、これは……!?」
「ほう、これはなかなか……」
大抵のことでは驚かないブリーゲルも、さすがに驚愕から声を上げてしまったようだ。
一方の父上は、僕の鉄製ゴーレムをじっくり見ている。
「ふぅ……これが、今の僕の全力です」
「……ふむ? 完成度はなかなか高いように思うが、まだ先があると?」
「はい。まだ上位ランクのゴーレムもありますし、このゴーレム魔法自体がそこまで洗練されていません。様々な点で無駄が多すぎるのです。
これからゴーレム魔法をブラッシュアップしていけば、単体ではないゴーレム軍団を作り上げることも可能でしょう」
「なるほど……」
やや下を向いて考え込んでいた父上が、顔を上げて小さく頷かれた。
「……よし、エリオス。これは私からの提案なのだが、2ヶ月後のアルカディア王立魔法士学校の入学試験に挑戦してみないか?」
父上から、とてつもない提案を頂いた。
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