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幕間2:オズバルド・フォン・ゼーゲブレヒト


「……ふむ」


 日頃より懇意にさせてもらっているルーカス・フォン・ソリス男爵殿から、この日の朝に手紙が届いた。かの家の使用人が直接届けてきたということは、急ぎの内容なのだろう。

 中身を取り出し、内容を(あらた)めてみると……。


「我が家の三男に魔法の素質あり、ついては訓練の教官を要請したい……か」


 今日で10歳になる、ソリス男爵殿の息子……確か、エリオスといったか。儂は会ったことはないが、ソリス男爵殿曰く武の才能はそこそこあり、年齢の割には落ち着きがあるとのこと。頭も良いため、指揮官に向いているのではないかという見立てであった。

 それが、魔法の素質があると……10歳になるまで誰も気付かなかったという点がよく分からないが、手紙の文面からはそう読み取れた。


 手紙には、これからダンジョン探索者として登録するためにエリオスが本部を訪れるとも書いてあった。ゆえに準備を整え、本部に向かう。


「あ、オズバルド本部長、おはようございますニャ!」

「ああ、おはよう」


 儂の姿を見つけたミウが、カウンター越しに挨拶してくる。


「もう連絡が来ているかもしれないが、今日はソリス男爵家の三男坊が探索者登録を行うために本部を訪問するそうだ。応対は儂がするゆえ、登録の準備を頼む」

「了解にゃ!」


 ミウがササッと準備を始めるのを横目に、扉の方を向いて立つ。さて、時刻的にはもうしばらくしたら来るかな……?




「お出迎えありがとうございます、オズバルド本部長。私はエリオス・ソリスと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 本部に現れたエリオス・ソリスは、儂に向かって貴族的な礼儀に則った一礼を行った。

 ……儂が士爵位を賜っていることは知らなかったようだが、立ち居振る舞いからなんとなく察したのだろう。ソリス男爵殿がおっしゃっていた通り、エリオスは実に(さか)しい子だった。




「ははは、まさか。必死に耐えているだけですよ」


 試しに魔力波をぶつけてみると、エリオスは一瞬だけ渋い顔をした以降は涼しげな表情で受け流していた。やはり、エリオスに一流の魔法士になれる素質があることは間違いないな……魔力感知ができぬ者は、そもそも儂の魔力波にも気付けぬのだから。

 そして一応は100レベルを超えた魔法士が放つ魔力波であり、エリオスの後ろにいる少女はおろか、本部にいるそれなりの魔法士でさえも動けなくなるほどのプレッシャーを受けているはずだが……そんな中でもエリオスには、少女の様子に気が付いてかばうだけの余裕があった。


 これは、素質があるなどというレベルではない。儂を超えているのは確定として、下手をすれば神童と言われた大賢者ヴァルター様をも超える潜在能力を秘めているかもしれない。

 国が非常に大変な時に、ヴァルター様をも超えるかもしれない魔法士の登場……これは、フィスタ神とニーシュ神のお導きなのだろうか? もしそうであるなら、エリオスは何か自覚していることがあるかもしれない。時間がある時にでも聞いてみるとしよう。




 ……とまあ、そんな風に軽く考えていたのだが。


「………」


 ダンジョンから帰ってきたエリオスだが、信じられないほどにレベルが上がっていた。いくらスタートが1桁台とはいえ、1日で4つもレベルを上げるのは異常だ。

 そして、換金場面でもとんでもないことが起きていた。売ったポーションの数が100個以上ということは、おそらくはホブゴブリン戦をこなしていたのだと思われるが……その回数が尋常ではない。ダンジョン退出後はマジックバッグを買い求めに行っていたそうだから、相当効率良く倒さなければ無理だ。


 さらに言えば、エリオスと一緒に行っていたメンバーの様子も気になる。ホブゴブリンと言えば浅層階のボスだが、それだけ連戦していれば誰かが重篤な怪我をしていてもおかしくない……いくらレベルが高くとも、人間である以上は集中力がふと途切れることがあるのだから。

 だが、実際は誰も怪我はおろか、疲れた様子さえほとんど見せていない。唯一、エリオスだけはなぜか疲労の色が濃かったが……ソリス男爵が賢しいと太鼓判を押す子が、そんな無茶な探索をするはずがない。実際に怪我1つしていないのだから、何か別の理由で疲れていたのだろう。

 なればこそ、基礎訓練は延期でも良かったのだが……エリオス本人が求めてきたので、実施することにした。




 その基礎訓練でも、驚嘆すべきことが起きた。

 ……ほぼ全ての魔法は、発動までに4段階のステップを踏む必要がある。すなわち、


①魔力感知

②魔力集中

③性質付与

④魔法発動


 以上の4つだ。そして魔法基礎訓練とは、このうち①と②ができるようになるための訓練となる。

 エリオスと少女――ティアナに関しては、儂の魔力波を認識できていたので①は問題無いとは思っていたのだが……なんと2人は、②の魔力集中まで既にできていた。エリオスに至っては魔力集中速度を早めるためか、魔力を右手に素早く集中させては戻し、そしてまた素早く集中させては戻し……という操作を何度も繰り返していたくらいだ。訓練内容が明らかに魔法初学者のそれではないのである。

 これらの様子をみるに、エリオスはほぼ間違いなく③と④までできる。それなら既に魔法が使えるはずだ。エリオスは今日10歳になったばかりで、なぜ魔法が使えるのかは分からないが……これもまた、フィスタ神とニーシュ神の気まぐれによるものなのだろう。エリオスだけがやけに疲れた顔をしていたのも、おそらくは魔法を何度も行使したからだと思われる。


 ……もっとも、儂が真に驚嘆したのは残りの2人――ゼルマとフランクにエリオスが魔力感知訓練の補助を行い、本来は習得に数ヶ月かかる技術をあっさりと習得させてしまったことであるが。あの時、儂の魔力波を認識できていなかったことから、ゼルマとフランクは確実に魔力感知すらできていなかったはず……それをエリオスがほんの少し手を加えただけで、たった1時間程度で習得できてしまった。これが誰に対しても適用でき、かつ次のステップである魔力集中を簡単に習得できるようになれば実に恐ろしいことになる。

 先ほど、ほぼ全ての魔法は①〜④までのステップを踏むことで発動すると述べたが……1つだけ、魔力集中までで発動できる魔法がある。

 それが自己強化魔法だ。足に魔力を集めれば脚力が強化され、腕に集めれば腕力が強化される。魔法の中では特殊な立ち位置にあり、才能がものを言う性質付与を挟まないので使える者は多い。それでも習得にはそれなりに時間がかかるので、ある程度の年齢になったベテランが自身の身体能力の衰えを補うために習得することが多いのが現状だ。

 ……だが今、己の肉体のみで戦っている若き者たちが自己強化魔法を習得してしまったら。戦闘能力が大幅に向上することは間違いなく、一般兵が精鋭部隊員並みの力を得ることもできるだろう。そうなれば、魔法革命とでも言うべきことが起きるのは間違いない。


「………」


 今日見たものは、その第1歩目となり得るものだ。儂はその可能性を壊したくない。

 ……これは責任重大であるな。そろそろ身を引くことも考えておったが、エリオスが独り立ちするまでは隠居できなくなったな。


 儂は高齢で妻子がおらず、1代貴族ゆえ継承する爵位も無い。財産はそれなりにあるが、大半は魔法関係のものばかりだ。

 この魔法関係の部分を、エリオスに譲ることも考えておくべきか。国家貴族院の承認が必要だが、まあ通るだろう。


 エリオス・ソリス……我が人生の晩年に、このような傑物の卵と出会えるとは。フィスタ神とニーシュ神には、強く感謝せねばな。



◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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