1−20:基礎訓練
「さて、僕らはこの後オズバルド本部長の所で魔法基礎訓練だけど……ゼルマとフランクはどうする?」
2人は魔法タイプではないので、魔法基礎訓練を受けても効果は限定的だ。武器を振るっている方がよほど有意義なので、さすがに時間がもったいなく感じる。
そう思って聞いてみたけど、返答はある意味で予想通りだった。
「帰れるなら帰るっすけど……一応私兵団の業務で来てるんで、簡単には帰れないっす」
「……エリオス様の護衛も兼ねておりますので、俺は残ります」
「そうだよね……」
休みでダンジョン攻略をしているならともかく、今日に関してはゼルマもフランクも私兵団業務の一環として僕に付き従ってくれている。僕の護衛も兼ねているから、僕が帰るよう命じても2人は帰れないだろう。
「……それなら、2人も一緒に魔法基礎訓練を受けるかい?」
もちろん、僕がそう考えた根拠はある。2人も多少は魔力を持っているからだ。
僕の目からは、ゼルマは赤色の魔力を、フランクは緑色の魔力を薄っすら纏っているように見える。どちらもオズバルド本部長の得意属性なので、訓練で魔法が使えるようになる……かもしれない。
使えるようになると断言できないのは、今の2人は魔力量が少ないからだ。特にゼルマはクォータードワーフゆえ、ヒューマであるフランクよりも魔力量は少ないようだ。
「意味あるっすかねぇ?」
「……魔法に憧れはありますが、俺には無理かと」
「まあ、1回やってみて無理なら止めればいいよ。ずっと待ってるよりはいいんじゃないか?」
「それはそうっすけど……」
ポケッと時間を無駄にするよりは、遥かに有意義な時間の使い方になるだろう。
……よし、こうなれば善は急げだ。
「オズバルド本部長の所に行って聞いてみようか」
◇
ミウに聞いた部屋にたどり着く。扉をコンコンとノックし、返事が返ってきたので扉を開けた。
……部屋の中は道場のようになっていて、とても静かだ。これなら落ち着いて訓練できそうだな。
「ふむ、来たか」
オズバルド本部長は部屋の中央辺りにいた。そこまで4人で歩いていく。
「……む、4人か。そちらの2人も魔法基礎訓練を受けるのかね?」
「はい、それをオズバルド本部長にお願いしたく、こちらへ連れてきました。こちらのゼルマは火属性、フランクは風属性の素質があるようですので……」
「……ほう? それなら儂にもできることがありそうだ。あい分かった、4人で訓練を受けていきなさい」
オズバルド本部長の了承も貰えたので、4人で訓練を受けることになった。
訓練自体は、とても地味なものだった。床に座って足を組み、己の全身に巡る魔力を感じ取り……それを操作して体のどこかに集めては、また全身に戻す。ひたすらそれの繰り返しで、はっきり言って面白味は無い。
ただ、まずはこれができないと魔法を使うことができない。集めた魔力に性質を持たせ、それを撃ち出す行為こそが"魔法"と呼ばれているのだから。その点では、とても理にかなった訓練方法だ。
前世の僕は、その辺は悪い意味での天才だったからね。訓練もへったくれもなく、ただ己の感性のみで魔法を行使していたのだから。
「………」
もちろん、今さらそれでつまずく僕じゃない。魔法は既に行使できているので、僕にとってコレはできて当然のことだ。
だから今は、魔力を集めるスピードが早くなるよう意識して訓練している。これを早くすると、いわゆる詠唱時間を短くすることができるからだ。前世の僕はほぼノータイムで魔力を体のどこにでも集めることができていたし、魔法の行使も一瞬でこなしていたけど……今の僕にそこまでの練度は無いからね。これからも精進しなければ。
「ふむ、やはり2人は上達が早いな。特にエリオス、魔力が目で見えるというのはやはり本当なのだな」
「慣れ親しんだ感覚ですので、わりとすんなりいきました。ティアナは……」
「………」
「……うん、こちらも大丈夫そうだな」
ティアナはむしろ、僕よりも魔力を集めるのが早い。この分だと、魔法の行使も僕よりスムーズにこなせるだろう。
ちなみにオズバルド本部長曰く、本来は自身の魔力を感じ取るだけでも1ヶ月はかかるらしい。そこから魔力を集められるようになるまでに2ヶ月、簡単な魔法を使えるようになるまでに3ヶ月、計半年は最低でもかかるそうだ。
「……ぷはぁ~、全然ダメっすよこれ。魔力の感覚が全く掴めないっす」
「……難しいです」
「2人とも、間違い無く魔力は持ってるんだけどね。感覚的な部分だから、教えるのもなかなか難しいんだよな」
実際、ゼルマとフランクはまるで魔力を感じ取ることができず、苦戦に苦戦を重ねている。僕の場合は魔力を見る目と前世の知識や記憶があるから、この辺の苦労は完全にスキップしていたんだけど……これが、普通の反応なのかもしれない。
……よし、せっかくだ。良い方法を思い付いたので試してみよう。
「………」
――スッ
「……えっ、エリオス様?」
魔力感知に四苦八苦するゼルマの右手を取る。
「ゼルマ、右手に意識を集中しろ」
「……は、はいっす……」
「………」
ゼルマがゆっくりと目を閉じる。それと同時に、ゼルマの右手へ魔力を少しだけ流し込んた。
……僕の魔力とゼルマの魔力が反発しあい、ゼルマの右手で魔力が波立つ。実は、他者の魔力同士は反発し合うという性質があるのだ。これがあるから、他者の傷を癒す回復魔法は非常に難易度の高い魔法と認識されている。
「……あれ? これは……」
5回目の魔力を流し込んだタイミングで、ゼルマが何かを感じ取ったようだ。これは気付いたかな?
「……右手で何かが波打ったのが分かったか? それがゼルマの魔力だ」
「これが、魔力っすか……」
右手をジッと見つめるゼルマ。そこからの上達はかなり早く、少しだけ魔力を集めることにも成功したようだ。
同じことをフランクにもしてみたところ、フランクも「……これは」と言っていた。それからすぐに魔力を集められるようになっていたな。
「……むむ、儂の立つ瀬が無いのう」
「何をおっしゃいますか。オズバルド本部長に基礎訓練のやり方を教えて頂いたからこそ、僕のコレも思い付くことができたのです。
……むしろ、オズバルド本部長の出番はこれからですよ。僕は属性違いなので、火属性も風属性も魔法を教えられませんから」
僕にも当然、できることとできないことがあるからね。
「……ふむ、そういうことにしておくか」
なにやら、オズバルド本部長が複雑そうな表情で辺りを見回している。何か気になることがあるのだろうか……?
まあ、別に悪い意味ではないだろう。なにせ、今日だけで4人とも魔力感知まではいけたのだから。
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