1−9:不死兵団の初陣
「……ここが、ダンジョンか」
初めて入ったダンジョンは、まさに本で見た挿絵そのままの風景だった。床と壁は長方形の石を組み上げたような見た目で、天井は石で緩くアーチを描いている。地下遺跡、という言葉がしっくりくる眺めだ。
ただ、それが見た目通りのものではないことも、僕にはなんとなく分かっていた。
「………」
壁に手を触れて、鑑定魔法を唱える。
……反応が無い。石も鉱物なので、僕の鑑定魔法に何かしら反応を返してくれるはずなんだけど……ダンジョンの壁や床を構成する石からは、一切の反応が返ってこない。これは、ダンジョンの石は石のように見えて、全く異なる別の何かだという証左ではないだろうか。
ダンジョンの床や壁は、どんなに手を尽くしても決して壊れることはないらしいからな。破壊に成功したという記録が無いので、石のように見えるコレもきっと未知の物質でできているのだろう。
それほど頑丈な物質なら、再現できればオリハルコンを超える材料になりそうだが……まあ、人の力では多分無理だろうな。
「……っと、地図地図」
ゼルマとフランクがダンジョン探索をする時に、いつも持って行っている地図束から1枚を抜き出して広げる。ここには第1〜3階層までの地図が描かれているが、第1階層は上り・下り階段と直線通路だけという、非常に単純な構造をしているようだ。この階層に限っては罠も無いらしいので、レムレースとの戦いに慣れるならピッタリの場所だろう。
加えて、ここに出現するレムレースはゴブリンとレッドジェリーの2種類のみ。どちらも非常に弱く、軽く蹴散らすことができる。油断は禁物だけどね。
「……おっ、早速出てくるようですね〜」
「ん?」
ゼルマが何かを見つけたみたいだ。
地図から顔を上げてみると、進もうとしている通路の先、道の真ん中で光の粒のような何かが大量に湧き上がっている。なるほど、これが"レムレースポップ"という現象か。
レムレースは不思議な存在で、このように何も無い空間から、唐突にダンジョン内へと湧いて出てくる。自然の摂理を一切無視した出現の仕方だが、だからこそレムレースは"魔霊"と呼ばれることもあるのだろうな。
湧いて出てきた光の粒子は、やがて4つの大きな塊へと収束していき……。
「「「「……ギャギャ?」」」」
醜悪な顔付きをした、緑色の肌を持つ小さなレムレース――ザコモンスターとしてもお馴染みの、ゴブリン4体に姿を変えた。
ゴブリンは子供のような小さな体躯をしており、汚らしい腰蓑を1枚だけ巻いている。手には何も持っておらず、長い爪による引っ掻き攻撃が主たる攻撃方法の敵だ。まずはゴブリンを自らの手で仕留められるかどうかが、戦闘者として先のステップに進めるか否かの試金石となる。
……やらなければ、やられてしまうのだから。ここで臆せずゴブリンと戦い、トドメを刺しきる覚悟が持てない者に騎士となる資格は無いのだ。
「エリオス様、ゴブリン4体が現れました。どうなさいますか?」
「4体なら、1人で何とかなりそうだ。ここは僕にやらせてくれ、誰も手を出さないでくれよ?」
「だ、大丈夫っすか? ここは協力して戦った方がいいんじゃないですかね?」
「心配するな、すぐ終わる」
不安げな様子で、ゼルマが僕を見つめている。それを手で制しつつ、1歩前へと出た。
……ゴブリンの視線が僕に集まる。実戦はこれが初めてだけど、訓練で格上からの威圧に慣れた僕が、今さらこの程度の殺気で怯むことはない。
「"マニュファクチャー・ロックゴーレム"」
まずは、前世の僕が作り出した最後にして最高の成果――ゴーレムを作り出す魔法を唱える。金属製のゴーレムは強度がある反面、魔力消費量もかなり多かったが……岩製なら消費量も少なくなるだろうと考えた。さあ、果たしてどうか
――ガガガガガガッ!!
小さな岩塊が空中に幾つも生み出され、複雑に組み合わさっていく。ほんの数秒ほどで、岩塊は少しずつ人のような形をなし始めた。
……これくらいの魔力消費量なら、ロックゴーレムは今の僕でも最大15体くらいはいけるな。緊急時に備えて魔力を残しておきたいし、壊れるまで連れ回せるから今は2体だけに留めておくけど。
――ズズズ……
「「「「ギャギャ……」」」」
ゴブリンと睨み合いながらもうしばらく待つと、身長150センチ程の岩製人型ゴーレムが2体完成した。強度の関係で体をこれ以上大きくすることはできないが、鈍重ながらも人らしい動きは一通り実行可能な、十分戦力となり得るゴーレムだ。装備は岩の棍棒だけだが、ゴブリン相手ならそれで十分だろう。
「エリオス様、スゴいですっ!」
「うおっ、こんな魔法初めて見たっす!?」
「……これは!?」
ゼルマとフランクが驚いているが、そりゃそうだ。これは僕の……もっと言えば、前世の僕のオリジナル魔法なのだから。僕以外に使い手は居ない。
「……さて」
僕も、腰に佩いた愛用の剣を抜く。家から持ち出してきた数打ちの鉄剣だけど、手に馴染むほど何年も振り続けた僕専用の剣だ。手入れを欠かしたことは無いので、以前よりやや細身にはなったが、十分使用に耐え得る状態を保っている。
僕は魔法使いでありながら、剣士でもある。体格的に重い装備はまだできないので、急所のみを鉄板で補強した皮鎧にバックラーを装備した軽戦士スタイルだが……仲間の存在やゴーレムのお陰で、重装備をしなくてもいいのはありがたいところだ。
「行け、岩の戦士たちよ。醜悪なゴブリン共を打ち倒せ! 同士討ちはするなよ!」
――ズズズッ!
早速、できたばかりのロックゴーレム2体に命令を出す。闇魔法を少し混ぜ込んでいるので、ロックゴーレムは簡易な知能も持ち合わせている。命令を与えれば愚直にそれを実行してくれるのだ。
――ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ……
ゆっくりと動き出したロックゴーレムが、1歩ずつゴブリン共に近付いていく。子供が走るくらいのスピードは出ているが、やはり遅いな……ダンジョンから出たら、少しゴーレム魔法の改良に取り組んでみるかな。
前世の僕は最高の1体を作ることに情熱を注いでいたが、僕が欲しいのは一定以上の質を備えた大量のゴーレムなのだから……。
――ズズッ!
――ブォッ!
ゴブリン共の所へたどり着いたロックゴーレムが、ほぼ同時に横薙ぎに棍棒を振るう。ゴブリンはそれを見て、攻撃を避けようと動き出した。
――ベキベキッ!
「「ギャッ!?」」
――グギギッ!
「「ギィァッ!?」」
だがその前に、大質量に任せた一撃がゴブリン共を直撃する。ゴブリンは4体とも壁まで吹き飛ばされて、壁のシミとなり……そのまま光の粒子となって、虚空へと消えていった。
後には、薄緑色の液体――ポーションが入った小瓶が1本だけ残った。
「……あれ?」
剣を構えた状態のまま、その場で固まる。ロックゴーレムの動きが思ったより鈍重だったので、攻撃を掻い潜ってきたゴブリンが僕に向けて襲いかかってくるかもしれない……そう考えて身構えたのだが、ロックゴーレムだけであっさりと戦いが終わってしまった。
もしかして、ゴブリンって思ったよりも弱いのか? 初実戦がこれだと少し拍子抜けだけど……まあ、とりあえず勝ったからいいか。
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