[第2話]教会で暮らすなんて!
ステンドグラスから陽が差し込み、どこか神秘的な空気が漂う古びた協会。
「貴方様は死にました。そして、主の導きで復活なされたのです」
銀髪藍眼の修道女が俺に告げた。
さらさらとしたショートヘアにおっとりとした印象を与える垂れ目。
微かにこぼれる笑みは大人びた雰囲気を感じさせる。
「死んだのか、俺……」
オートセーブという魔術が発展し、冒険の中で「死ぬこと」が無くなった今の時代。
俺は魔竜との戦いで死んだことを悟り意気消沈した。
仲間たちは無事に逃げられただろうか、もしかしたら俺と同じように……。
「あ、あの……この教会で復活なされたのは貴方様だけでした」
俺の様子を察したのか、シスターは俺が復活するまでの経緯を話してくれた。
どうやらここは、帝国から遠く離れた場所に位置する村の教会らしい。教会と言えば、オートセーブが普及する以前から存在した冒険者の復活地点だ。
現在はオートセーブの影響で訪れる人が減り、廃れてしまっている。
そして彼女、ミレナ・アルクィスはこの教会を管理しているシスターだと言う。
「実は、冒険者様の復活を行うのは初めてで……。
どうにかやり方を思い出しながらでしたが、どこか違和感はございませんか?」
そう言われ、俺は全身の動きをチェックしてみる。
首と肩を回し、上半身からつま先まで一通りに体を動かしてみた。
特段として違和感は無く、むしろ日頃の疲れが消えてスッキリしている気がする。
……いや、待て。
あったぞ、違和感が。
「俺の装備!鎧と剣……!」
今の俺は鎧の下に着ていた布の服一枚だけになっていた。
体が軽く感じたのは鎧を纏っていないからだったのだ。
「申し訳ございません、装備品までも一緒に復活させることは出来なくて……」
ミレナは申し訳なさそうな表情で謝った。
そうか……と落胆し渋々ながら俺はミレナの言葉を飲み込んだ。
鎧に関しては、俺が冒険者になって以降ずっと愛用してきただけにショックは大きい。
オートセーブなら、エーテルタワーに触れた時点の装備で復活できるからとても便利だったのだな……と、改めて実感させられる。
「ちなみに、俺の所持金が半分になってるのも……?」
「そ、それも……そう……だと思います……」
何やら上擦った声で歯切れの悪い答えが返ってきた。
ミレナの目がどこか泳いでいるが「復活すると所持金の半分を失う」のは、いつの時代もお約束なのでそれ以上は追求しないようにした。
しかし困った。
装備も無く、所持金は半分。
おまけにここは全く知らない場所ときた。当たり前のように行く当てもない。
どうしてこんな場所で復活してしまったのか……。
「もし、行く当てが無いようでしたら、しばらくこの教会に滞在されるのはいかがでしょう?」
──女神が降臨した。
「え、いいのか?」
ミレナからの救いの手に、俺は嬉々として懇願した。
なんて優しい子なんだ。彼女から後光が差し込んでいる気がする。
ありがとう神様、ありがとうミレナ様……!
「それでは、お部屋にご案内します」
俺はミレナからの提案を受け、しばらく教会の空き部屋に留まることにした。
ミレナに連れられて教会の入り口の横にある木製の扉を開け、現れた螺旋状の階段を上っていく。
これでしばらく野宿とはおさらばだ!と、ウキウキしながら目的の部屋の前に到着した。
扉には大きめの南京錠が付いてがおり、なにやら重々しい雰囲気を醸し出している。
……大丈夫だろうか。そんな心配をする俺を他所に、ミレナは慣れた手つきで開錠し、ゴゴゴ……と扉を押し開けた。
すると、目の前には衝撃の光景が広がっていた。
「ひとまず、こちらの部屋をお使いください」
「……えっとミレナさん、ここですか……?」
俺は目の前の現実から目を背ける様にミレナへ確認を取る。
しかし、対するミレナは何も言わず、ばつが悪い表情でこちらに視線を合わせようとしない。
目の前にある惨状……。それは、大量の荷物が氾濫した部屋だった。
部屋の大部分が大きい箱に占領され、およそ人の眠る空間など無いように見える。
俺がミレナに連れられてきたのは、教会の二階にある物置部屋だったのだ。
「大変申し訳ございません!荷物の移動ができず、未だにこのような状態で……」
ミレナは何度も深々と頭を下げ、謝罪した。……なんだかこっちが悪い奴に思えてくる。
俺はミレナをなだめている内に、あることが気になった。
それは、この教会にミレナ以外の人が見当たらないことだ。
「ちょっと待って、さっきから気になってたんだけど。もしかして、ここには君一人しかいないのか?」
すると、疑問を投げかけた俺にミレナは重苦しい表情で頷き返答した。
「この教会がオートセーブの普及を受けて廃れてしまったのは、先程お伝えした通りです。
訪れる人が減り、今ではこの村に住む方々しかお見えになりません。村の若者も私ぐらいです」
ミレナは自らの胸元からひとつのロケットペンダントを取り出した。
「元々は、マザーと二人で暮らしていました。このペンダントもマザーが遺したものです」
ミレナが見せたペンダントには、マザーと呼ばれる人物と思しき名前が刻まれていた。
ペンダントを持つミレナは柔らかく暖かな表情をしている。ミレナにとって大切な人物なのだろう。
そんな人が「遺したもの」ということは、もう既に……。
「マザーは、幼い頃に両親を亡くした私を育ててくれました。この教会で……」
言葉の途中、ミレナの表情が一変した。
肩をふるふると震わせ、両手で自らの顔を覆う。
「ごめんなさい……やっぱり、思い出すとダメですね……っ」
「いやすまない、辛いことを思い出させてしまったようだ……」
涙を拭うミレナの目元は赤く脹れている。
この教会には彼女の大切な思い出が詰まっているのだろう。
廃れてしまっても尚、これまで一人でこの場所を守ってきたのだ。
「貴方様がこの教会で復活された時、私はとても嬉しく思いました。この教会を残してきたのは間違いではなかったと……」
ミレナはそれまでの曇った表情を払い、晴れたように眩しい笑顔を見せた。
「この教会を人々の救いとなる場所として残していきたい。その思いが実ったように思います……!」
ミレナの笑顔が輝く。その姿に俺は胸が熱くなる。
咄嗟にミレナの手を取ると、ただありのままに今の気持ちを吐き出した。
「俺が君の救いになる!この教会を、俺に手伝わせてくれ!」
呆気に取られキョトンと目を見開くミレナは、言葉に詰まって返答に困っている様子だ。
我ながら勢いでものを言ってしまう性格であることを痛感させられる。それでも、後悔はない。
俺は、この子の力になりたい。そう思ったのだ。
「えっと、あの……顔が近い……です……」
「す、すまない!」
俺は力強く握ってしまっていたミレナの手を放し、慌ててて距離を取る。
「ふふっ……なんだか可笑しくなってしまいました」
ミレナはくすくすと笑みをこぼし、俺はその笑顔に安堵した。
一通り落ち着くと、ミレナは真っすぐ向かって俺を見る。
「貴方様が望むならば、私は歓迎します」
ミレナは柔らかい表情を俺に向ける。
「それで……その、今更なのですが、貴方様のお名前をお聞きしても……?」
そういえばそうだった。ここまでミレナには俺のことを言っていなかった。
俺は改まって姿勢を正し、ミレナに自分の名前を告げる。
「俺はアレン。アレン・マックハートだ」
「アレン様……よろしくお願いしますね!」
再びミレナの笑顔が向けられる。
こうして、俺はこの教会で暮らしていくことになった。
……だが、その前に
「まずは、ここの部屋を片付けないとな……」
閲覧ありがとうございます。
ぼちぼち更新する予定ですのでお待ち下さいませ。




