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人ならざる者達のアイロニー

骨の髄まで

作者: 砂流
掲載日:2024/11/18

30代より下の方には、わからない描写があるかもしれません。読み終えた後にもう一度読みたくなって頂けたら嬉しいです。

夕方になり、少し風が強くなってきたようだ。


アナタが勢いよく開けたドアから、一緒に入ってくる風は少し冷たく、秋の終わりを告げているような気がした。


アナタは、いつものように足早に店内を歩き、私を見つけると目の前の椅子に勢いよく座わり、少し微笑みながら

「この席空いてたのね」

と言った。


入り口からほど近い、ガラス張りのすぐ横の席がお気に入りで、いつもこの席に座っている。

もう彼女が通うようになって10年はたつだろうか。


この窓際の席に気にいる何かがあるのか、縁起でも担いでいるのか、私は聞いた事は無かった。


アナタは、10年近く愛用している少し古ぼけて見えるブランド物のシガレットケースだけをバッグから取り出すと、中からタバコをつまみだし、少し慌てたように咥えて、安物のライターでカチカチと火をつけた。


まるで何年かぶりに吸った念願のタバコかのように、大事に一口目を吸うと、体内に煙を充満させるかのように息を止めた後、ゆっくりと煙を吐き出した。

煙は不規則な動きをしながら天井へと立ち上っていった。


アナタは、まだ口の中に溜められていた残りの煙が出尽くすのも待たずに隣のブースにチラッと目をやると、少し嫌そうな顔をしながら


「禁煙席にも以外と人がいるのね。どこに行っても喫煙者は悪者みたいで肩身が狭くて嫌になっちゃうわ」

と二口目のタバコを吸いながら、誰に言うでもなく不平を漏らした。


機嫌を損ねると、この後やりづらくなるので、私は音が出るか出ないか程度に応えた。


ふと、視界に可愛らしい制服に身を包んだ女性を見つけたアナタは、思い出したかのように彼女を呼び止め

「すいませんブレンドコーヒーください」

と注文をする。


この店の昔ながらの『サンド』を「古くさい」と言いながらも10年近く足繁く通うのは、コーヒーが美味しいのも理由の一つなのかもしれない。



「今日はいくら必要なのかしら?」


アナタは、おもむろにバッグから見た事の無い『赤い長財布』を取り出して言った。

パッと見て5.6万円は入っているように見えた。


「今日はとことん付き合ってあげるわよ」

少し不敵な笑みを浮かべながら、私に1万円を差し出してそう言った。


今日は長丁場になりそうだな。

そう思いながら私は準備に取り掛かった。




もう2時間はたっただろうか、アナタが怪訝な顔をしながら、赤い長財布の中から、最後の1万円を取り出そうとしたその時。


「お客様」


珍しく店長が席へやって来て、少し大きめな声で話しかけてきた。


「はい?何かしら?」


「すみません、警察の方が来ておりますので、事務所の方に来ていただけますでしょうか?」


私はアナタの目尻がピクっと動いたのを見逃さなかった。


「け、警察が何の用かしら?」

アナタは、警察が来た理由がわかっているようだったが、店長にそう聞いた。


「さぁ、私は何も聞いておりませんので……他のお客様もおりますので、こちらへ」

店長はそう言うと、腰を屈めたまま、手のひらで事務所の方向へ促した。


「いやよ、私忙しいもの」


「ですが、来ていただかないと……」

何度かそんなやり取りをしていたが、

一向に話が進まないまま、アナタはタバコに火をつけた。


すると事務所の方から、警察らしき制服を来た男性がやってきて、店長へ言った。

「この方ですね?」


「ああ、はい。動きたくないとおっしゃるもので……」

そう言うと、警察官は何度か頷いた。


アナタは、全く逆の方向を見て、何も気づいてないような素振りをしながら、タバコをふかしていた。


「すみません。私◯◯署の本田と言う者ですが、先程◯◯銀行の駅前支店で、ATMをご利用になりましたよね?」

警察官は、そう言った。


アナタは、今初めて警察に気づいたような驚いた表情をして

「え、ええ」

とだけ答えた。


「その時、前にATMを利用した方が、財布を置き忘れたようなんですが、戻っても無かったそうなんですね、お心当たりはございますか?」


なるほど。

見た事がないあの『赤い長財布』はそう言う事だったのか。

最近はあまりお金が無いようだったが、今日羽振りが良かった理由に合点がいった。


「……はい」

意外にも彼女は素直に認めると、席から立ち上がって財布を警察に渡した。


「じゃちょっと署の方までご同行をお願いいたします。」


「……はい」

そう言うと彼女は、おとなしく警察官の後を歩いて店を出て行った。


アナタには言って無かったけど、実は今月で、この店は取り壊しが決まってるの。


もう会うことはもう無いわね。今まで、ありがとう。


骨までしゃぶらせていただきました。


パチンコはあまりハマりすぎてはダメよ。

もう遅いかもしれないけど。


窓の外のパトカーに乗るアナタを見送りながら、私はそう呟いた。

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