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雑貨屋に置いてある砂時計を逆さにした

作者: 宮野ひの
掲載日:2024/10/06

 雑貨屋に置いてある砂時計を逆さにした。完全に無意識だった。サーっと砂が流れ落ちる音がする。去年家族で旅行に行った海で聞いた、優しい波の音を思い出した。


 その砂時計は、砂の色がオレンジ色をしていた。ガラスのくびれ部分が蛍光灯の光と反射して、眩しかった。


 最近嫌なこと続きだった私は、オレンジの元気が出る色に惹かれて、自然に手を取ってしまった。数秒間、砂が下に引き寄せられる光景を見続けた。3分経ったら、上にある砂が、すべて下に移動しているらしい。そんなバカな。絶対1秒以上の誤差があるに決まっている。何事もぴったりというわけにはいかないのだ。


 疑う私は、砂を逆さにした時間をカウントすらしていなかった。むしゃくしゃしていた。すべてのものに難癖をつけたかった。


 この砂時計はいつから雑貨屋に置いてあるんだろう。そもそも、雑貨屋に来て、砂時計を買う人っているのだろうか。


 例えば、ハンカチとか、入浴剤とか、オシャレな品物を贈り物用に買う人がいるのはわかる気がする。


 そこで砂時計だ。誰かのプレゼントや、自分のご褒美に買うのは違う気がする。1,000円自由に使えるお金があったら、私だったら、右の奥にある外国製のお菓子を買うだろう。今、お腹空いているし。


 頭の中であれこれ考えている間にも、砂は小さな山を作り続けている。砂時計の値段を見ると2,000円近くすることがわかった。高っ。えっ。本当に、誰か買う人いるの? 頭の中で失礼なことを自由に思っていても、絶対に口に出すことはしない。


 私の隣に黒いキャップを被ったお姉さんが現れた。雑貨屋は気軽に入れるのが醍醐味だから、次々にお客さんが来る。爪が長くて、ラメを散りばめたネイルをしている。ギャルだ。耳にピアスが何個もついていた。


 途端に居心地が悪くなった私は、その場を離れた。さようなら砂時計。今頃、お姉さんが見ているはずだろう。きっと、私が逆さにしたことがバレているだろう。恥ずかしい。


 私は左の方に行き、目についた文房具コーナーに居座ることにした。試し書きの長い紙が置いてあり、真ん中にピンクの大きな文字で『3-2最高!』と書かれていた。私は眩しいものを見たような気持ちになり、鳥肌が立った。書いた人に「どう最高なんですか?」と質問してみたくなった。きっと答えてくれることはないだろう。怪訝な顔をして「あなた誰ですか?」と聞かれるのがオチだ。


 奥の棚に、私が小学生の時に使っていた、メモ帳を見つけた。興奮。これ、まだ発売されているんだ。かわいい。パラパラと無造作に紙をめくってみる。あれ? リズムよく紙がめくれない部分がある。よく見てみると、1枚紙を切り取られたような跡があるのがわかった。うわっ。誰か内緒で持って帰ったのかな。買わないで、そんなことしたら万引きじゃん。ひどい。


 私は勝手に物事に気付いて、自分で生み出した妄想に苦しめられていた。私の勘違いということもあり得るのに。一度そうだと思ったら、他の線をまったく考えられなくなってしまった。


 居心地が悪くなり、メモ帳を棚に返して、砂時計の場所に戻った。ギャルのお姉さんはいなかった。


 あっ。砂時計がない。なんで? ここに、さっきまで、確かにあったのに。


 周りを見渡すと、レジに向かうギャルのお姉さんを見つけた。手にはオレンジ色の砂時計が握られている。


 やられた。私が逆さまにした砂時計は、お姉さんに買われてしまった。もう触れることができない。さっきまで悪態をついていたのに。誰が買うのと笑っていたのに。


 お姉さんが買ってしまった。ごめんなさい。取られてしまった今、砂時計が欲しくて欲しくてたまらなかった。私が先に買えば良かった。


 お姉さんは自分用に買うのだろうか。それともプレゼント用だろうか。


 大切な人に渡すなら、直前に中の砂が固まっていないか、二、三度振ることもあるだろう。どうか、オレンジ色をした砂が、見る人を癒してくれますように。

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