那覇基地⑤
飛行隊長である西村二等空佐は、F-15J改のコックピットに乗り込み、計器類に意識を集中させた。キャノピーがゆっくりと閉じられ、外界の音が遮断されると、彼は完全に戦闘モードに入った。コックピット内は狭く、緊張が空気を満たしていたが、彼にとってはこの空間が最も慣れ親しんだ場所だった。
西村はまず、コックピット内の周囲に目を走らせ、すべてのシステムがオフになっていることを確認すると、正面のパネルに手を伸ばし、フライトマニュアルに沿ったチェックリストを手に取った。エンジン始動の手順を一つ一つ確認しながら、彼の動作は一切の無駄がなく、冷静であった。
「バッテリースイッチ、オン。」
彼はまずバッテリースイッチを操作し、機体内の電子システムに電力を供給する。ディスプレイに各種センサーやシステムの状態が次々と表示され、彼はそれらを素早く目を通しながら、異常がないことを確認する。バッテリーの電圧が安定していることを確認し、次の手順に進む。
「APUスイッチ、オン。」
続いて、西村は補助動力装置(APU)を作動させるためのスイッチを操作する。APUは、エンジンが動作する前に機内の電力や空調を供給するための小型タービンエンジンであり、地上でのシステム起動に不可欠な装置だ。APUスイッチをオンにすると、コックピット内に低い唸り音が響き、背後にあるシステムが起動を開始するのを感じた。
APUが正常に動作を開始したことを確認すると、APUエグゾースト(排気)の温度計や燃料供給ラインの圧力計をチェックし、すべてが規定範囲内にあることを確認する。
「APU、正常稼働確認。続いてエンジンマスタースイッチ、オン。」
西村はエンジンマスタースイッチをオンにし、エンジン始動の準備を整える。F-15J改に搭載された双発ターボファンエンジン、F100-PW-229は非常に高性能で、正確な手順が求められる。西村は各エンジンの燃料供給ラインのバルブを確認し、燃料ポンプが正常に作動していることを確認した。
「エンジンコントロールスイッチ、ノーマル。」
エンジンコントロールスイッチをノーマル位置に設定し、エンジンの自動制御システムが起動することを確認する。次に、エンジンモードスイッチを確認し、すべてが始動モードに設定されていることを確かめた。
「左エンジンスイッチ、スタート。」
西村は左エンジンの始動スイッチを操作し、F100-PW-229エンジンの左側が徐々に回転を始める。コックピット内にジェットエンジンの回転音が徐々に高まり、左エンジンのRPM(回転数)が上昇していくのを確認する。エンジンの圧力計や燃料流量計をモニターしながら、すべてが規定値内であることをチェックする。
「左エンジン、正常始動確認。」
左エンジンが正常に始動し、安定していることを確認した西村は、次に右エンジンの始動に取りかかる。
「右エンジンスイッチ、スタート。」
右エンジンも同様に、F100-PW-229エンジンが回転を始め、圧力計と回転数計が指定の範囲内に達するのを見守る。ジェットエンジンが規定の出力に達すると、両エンジンが安定して作動していることを確認し、再度すべての計器をチェックする。
「右エンジン、正常始動確認。両エンジン、始動完了。」
西村は、すべてのチェックが完了し、エンジンが最適な状態であることを確認すると、深く息をついた。これでエンジンの始動手順は完了し、機体はいつでも滑走路を走り出す準備が整った。