那覇基地②
那覇基地のブリーフィングルームには、いつにも増して張り詰めた空気が漂っていた。壁には東シナ海と中国大陸沿岸の詳細な戦術マップが掲げられ、各地の防空識別圏(ADIZ)の境界線や、敵のレーダーサイトの位置が細かくマークされている。部屋の中心には、今回のミッションを3Dで再現するホログラムが浮かび上がり、飛行ルート、ターゲットエリア、緊急避難経路などがリアルタイムで表示されていた。
ホログラムには、これから飛行する東シナ海の空域が鮮明に映し出され、そこに点滅する赤いラインが、 中国の防空識別圏と領空を示している。そのラインのすぐ手前を滑らかに走る青い線が、彼らの飛行ルートを描いていた。ルートは、中国領空のぎりぎりをかすめ、敵の防空体制を探るための戦術的な飛行が求められていることを示していた。
第204飛行隊のパイロットたちは、それぞれの座席に座り、ホログラムに映し出された情報を真剣な表情で見つめていた。任務の重要性とリスクの高さを肌で感じながら、彼らの視線はホログラムと手元の作戦資料の間を行き来していた。特に、隊員たちの視線が集中するのは、中国人民解放軍の防空ミサイルシステムの配備状況と、最近強化されたとされるレーダー網の分布であった。
「これから実施する任務は、東シナ海上空、中国領空ぎりぎりを飛行し、敵の防空体制を探るためのものだ」と、飛行隊長の西村二等空佐は鋭い眼差しでホログラムを見つめながら話し始めた。「我々の目的は、敵のレーダーサイトの反応を確認し、彼らの防空識別圏内でどの程度の対応が行われるかを見極めることにある。敵機がスクランブルをかけてくる可能性もあるが、決して挑発的な行動は取らないこと。ただし、こちらが先に反応しなければならない場合は、即座に撤退を開始し、領空侵犯を避ける。」
西村の言葉は一語一語が重く、今回の任務が単なる訓練ではなく、現実の対峙を前提とした極めて重要な作戦であることを全員に認識させていた。隊員たちは、西村の指示を胸に刻みながら、心の中でこれからの飛行に向けて精神を研ぎ澄ませていた。
「ミッションの成功には、我々全員が完璧な連携を保ち、冷静かつ迅速に対応することが求められる。各自、ミッションに向けた最終準備を怠るな。」
西村は部下たちに厳しい視線を送り、最後の確認を促した。彼らの表情には緊張感がみなぎり、各々がこれから始まる任務の重要性を深く理解していることがうかがえた。ホログラムに映し出された戦術マップは、まるでこれからの運命を暗示するかのように、冷たい光を放ち続けていた。