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お猫様のお導き

 突然怒り出した私を見て、流千(ルーセン)が身振り手振りを交えながら慌てて弁解し始める。


「いや、別に企んでいたわけじゃないよ! 采華(サイカ)が女官をしている間に、僕は僕でお金を稼ごうかなって!」


「占いって言ってたじゃない!」


「それもやってたよ? でも、こちらにいらっしゃる金づる様……じゃなかった資金力のある方にせっかく出会ったんだから、もっと稼げる仕事が欲しいなぁって思ってさ? そんな難しい仕事じゃなくて、後宮のあちこちにある仙術士が作った呪符を調べていただけでね? 四妃様の宮の中でも喜凰(きおう)妃様のところは特に強力な術で守られていたから、これは怪しいだろうって」


 言うまでもないと思ったんだ……と流千(ルーセン)は困ったように笑っていた。


 仁蘭(ジンラン)様は私の剣幕に少し驚いた様子でこちらを見ている。


 流千(ルーセン)の性格からすると、仁蘭(ジンラン)様から一方的に命じられたわけではないと思う。それはわかる。


 でも危険が伴うんだから、事前に話しておいてくれたらよかったのでは?

 私が頼りないから話せなかったのか。そんな風に感じられれ、自分が情けなくなる。


「私は何も知らずに……流千(ルーセン)を失いそうになって……」

采華(サイカ)、落ち着いて」


 二人に怒りをぶつけるのは間違っているとわかっている。だって、私が早く美明(ミメイ)さんの居場所を見つけられていればこんなことにならなかったのだから。だとしても、何も知らされなかったのは悲しかった。


「ごめん。すぐに終わらせるつもりだったから言わなくていいと思ったんだ。心配かけたくなかったし……説明するのが面倒だったし……ごめんね、采華(サイカ)


「本音が漏れ過ぎなのよ」


 私はじとりとした目で隣を睨む。

 すると、流千(ルーセン)は左手を私の背中にあてて宥めてきた。


「これからはちゃんと話します。ごめんなさい」

「…………」


 謝った。

 召喚術を使ったときすら仁蘭(ジンラン)様に謝らなかった流千(ルーセン)が、私に二回も謝った。

 本当に悪かったと思っているらしい。それに驚いていると、仁蘭(ジンラン)様がふいに立ち上がって流千(ルーセン)の手を叩いてさらにびっくりした。


「痛っ!」


「気安く触るな。品位を守れ」


「何でそんなに怒っているんですか? 今さらでしょうに」


「今からでも改めろ。采華(サイカ)は妃、おまえは仙術士だ。ここにいる以上、品位を保って正しい距離を心掛けろ」


 仁蘭(ジンラン)様は流千(ルーセン)をきつく睨み、相当にご立腹だった。


「品位、品位って……本当にそれだけですか?」


 流千(ルーセン)がからかうように笑ってそう言った。あまりに気安い態度に、見ているこっちの方がハラハラする。

 本当にそれだけも何も、(コウ)家はそういうことにこだわるお家柄なのだろう。庶民と貴族の常識は違うのだから。


 仁蘭(ジンラン)様は何も答えなかった。相手にするのも馬鹿らしいと思っていそうだ。

 そのとき、私の膝の上に座っていた神獣が流千(ルーセン)の肩によじ上っていった。


「にゃっ」

「あら、流千(ルーセン)が気に入ったの?」


 爪を立ててがんばっている姿が堪らなくかわいい。

 流千(ルーセン)は上ってくる神獣に左手を添え、毛並みを整えるようにして何度も撫でている。


「あなたのお名前は何ですか?」

「みゃう」

「神獣様はいつどこで誰に捕まったんですか? 犯人は禅楼(ゼンロウ)ですか? どこかに証拠はありませんか?」

「にゃっ」


 神獣は足と尻尾をジタバタして、流千(ルーセン)の手から逃れた。

 この子に尋ねても答えが返ってくることはない……と呆れ交じりに笑ったとき、白銀色の尻尾が私の袖にちょんちょんと二度触れた。


 そして素早い動きで廊下に出て、立ち止まるとこちらを振り返ってじっと見つめてくる。


「もしかして、ついて来いってこと?」


 金色の目がそう訴えかけている気がした。

 この子がただの猫ではなく神獣なら、本当にそう言っているのかもしれない。

 私たちは立ち上がり、三人で神獣の後をついていく。


「一体どこへ……?」


 仁蘭(ジンラン)様が呟くように言った。

 神獣はときおりこちらを振り返りながら、後宮の奥にある祈祷殿の近くまで私たちを導いた。

 厳かな黒い建物は妃たちが病を患ったときに祈祷するための場所で、人の出入りはほとんどない。手入れは行き届いているものの、ひっそりと寂しい雰囲気だった。


 案内されて辿り着いたのは、祈祷殿の裏側にある古い小屋。鬱蒼とした茂みに囲まれていて、幽霊でも出そうな不気味さだ。


「僕が呪いにかかった場所だ」

「ここが!?」


 確かにここは喜凰(きおう)妃様の宮からも近く、それでいて人がほとんど通らないから何かするにはうってつけの場所だ。


 それにしても、この小屋はちょっと狭すぎない?


 いくらこの子が小さいとはいえ、これでは鳴き声が外に漏れて誰かに見つかりそうだ。


「本当にここ?」

「みゃあ」


 つぶらな瞳は、ここで間違いないと訴えているように感じられた。


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