サンタクロース緊急クエスト『封鎖された暖炉を使わずにこの家から脱出せよ』
なろうラジオ大賞5参加作品です。
コメディーです。
「抜き足差し足……」
人気のない暗い廊下を歩く。
ベテランサンタであるワシにとって、誰にも見つからずに子供部屋にプレゼントを置いて立ち去ることなど造作もない。
今宵もまた、ワシは煙突からお邪魔したこの家の子供部屋にプレゼントを置きに行く所なのだ。
「この家に子供は二人だったの」
一日で果てしない数の家を回らなければならないのだ。ミスは一つも許されない。
いや、マジでこの制度考えたの誰よ。
ワシ毎年ツラすぎるんだけど。
「けどまあ、子供の笑顔のためならふぉっふぉっふぉやで」
しんと静まり返った家の中で独り言を言えるぐらいにワシはこの仕事に慣れていた。
「……」
はずだった。
「おわぼふのぉっ!?」
「なんて?」
などと余裕をかましていたら目の前にいたいけな少女なーう!
オーマイガッ! まさかこのワシが住人の、しかもチャイルドの気配に気付かなんだば!
「じいさん不審者?」
「し、失礼な! ワシは夜な夜な人の家に侵入して子供部屋にモノを置いて脱出している老人じゃわい!」
「……それを世間では不審者と言う」
「ぐうの音も出ぬ!」
え? ワシ不審者なの? サンタなんだけど。
「ママー!」
「どっせい!」
「ふむぐっ!?」
アカン。とっさに少女の口を塞いだ挙げ句に羽交い締めにしてしまった。
「どうしたの?」
「わっふる!」
アカン。母親が寝室から出てきたから思わず少女を離して近くの部屋に隠れてしまった。これではワシの存在ががががが。
「ちょっと寒いの」
「!」
ワシの存在を言わない? 少女よ、まさかワシを庇って?
「あら。暖炉に火を入れましょうね」
「!」
違う。このガキ。ワシの逃走経路を潰しにきやがった!
「(にやり)」
悪魔め!
「どうしたんだい?」
「っ」
ここで父親も登場!
「パパー。そこのお部屋でなんか音がしたわー」
この部屋のことじゃねえかくそがぁー!!
「(にやり)」
逃走経路潰して速攻止め差しにきやがった。
ダメだ。ワシはもう終わ……。
「サンタさん困ってるの?」
「!」
シット! ここはもう一人の子供の部屋。ウェイクアップなうやで!
「この窓からなら玄関の屋根に降りて下に行けるよ」
「!」
て、天使! 全ての状況を一瞬で理解した上でワシを逃がすと!
悪魔の家にエンジェルなーう!
「あ、ありがとの」
ここは天使の恩恵にありがたく……
「だから、僕の分のプレゼントは多めに置いていけよな」
堕天使だったー!!
残りのプレゼントの半分を置いていく羽目になったワシはサンタを引退したのだった。