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偽聖女として追放されそうになりましたが、それを知った女神様が激怒したので大変な事になりました  作者: Izumi
1 偽聖女として追放されそうになりましたが、それを知った女神様が激怒したので大変な事になりました
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《中編》

「聖女を騙るお前と、その関係者にはこうなった経緯の説明をしてもらう事にする。無関係の者には悪いが、ジークリットの潔白の証人として留まってもらうぞ」


 女神エイルは一方的に通達すると、槍を持っていない方の手の人差し指を指揮者のようにすいと動かした。

 瞬間、突然の落雷で外へ避難する為に開け放たられていた扉が自動で閉まり、その場にいたジークリット以外の人間は影に縫い止められたかのように身動きが取れなくなった。


「姐さん今、暇?」


 追求を開始する前に女神エイルは、虚空を見つめ──ここに居ない誰かへ呼びかけた。


『うん、暇〜』


 即反応があったが、どこか緩い雰囲気の女性の声だった。


「よかった。お願いしたいことがあるんだが、いいか?」

『いいよぉ。身支度するから3秒で行くねぇ』

「姐さん、ありがとう」

「お待たせぇ」


 ちょうど3秒後にぽんと軽く音をたてて、フード付きの漆黒のローブを纏った女性が女神エイルの隣に現れた。本当に3秒で現れた存在に対して「早っ」と誰かが突っ込んでいた。女神が施した術で身動きが出来なくても、首から上は動く状態らしい。

 女神エイルが姐さんと呼ぶ女性はフードを目深に被っていたので、どのような容姿の人物なのか判明しないものの、女神にとって目上の存在なのだろうとジークリットは推測しながらも、見守るしか出来なかった。


「姐さん、早速だが()()で奴らを視て欲しい」


 女性はアレと言われて得心したような動きをして、懐から虹色に煌めく大きな水晶玉を取り出した。


「誰を視るぅ?」

「そうだな──」


 聞かれた女神エイルは、今回の騒動の主である第一王子エドヴァルドとその恋人アメリー・ベックマンを代わる代わる見て、槍の先でアメリーを指した。


「まずはあの娘の三年くらい前の過去から現在までを頼む」


 トップバッターに選ばれたアメリーの顔色が青から白へと血の気をなくした色になっていく。ローブの女性は個人の事情などお構い無しと言わんばかりに、手にしている水晶玉をアメリーの方に向けて掲げた。


汝の過去を(ウルズ様は何でもお)現せ(見通しぃ)


 緊張感が抜けるような掛け声をローブの女性が発した瞬間、掲げられた水晶玉が光った。

 同時に、運命の三女神(ノルン)の一柱の名前が出たお陰でローブの女性の正体が判明する。

 ウルズは運命の三女神(ノルン)の一柱、過去を司る女神だからだ。


『光り輝くプラチナブロンドの髪、夜空のようなサファイアの瞳。

 アメリーは、あなたの宝石の様な瞳に心奪われてしまいました。

 初めてお目もじが叶った時からアメリーはあなたの虜……』


 夢見がちな少女の砂糖菓子の様な甘い独白が急に講堂内に響いたので皆どよめいたが、声の主が途中で名乗っている事からすぐに特定される。

 独白の主であるアメリーは、自分の心の内に秘められていた感情を女神ウルズによって暴かれてしまい、色を無くしていた顔色を羞恥から赤くした。

 女神ウルズの水晶玉は、アメリー視点の過去の記憶を映画館のスクリーンのように空中に映し出す。

 映し出された場所はこの講堂で、三年前の入学式の様子だった。

 過去のアメリーは、エルヴァスティ王国の王子として新入生代表の挨拶をするエドヴァルドの姿を初めて目にし、恋に落ちた。

 子爵令嬢なので王子との接点はこれまで無かったものの、端正な顔立ちの王子様にアメリーは憧れ、年頃の少女らしい夢を見る。

 ただの憧れで終わらせていればよかったのに、アメリーはエドヴァルドの婚約者として隣に立つジークリット見た瞬間嫉妬し、同時に王子の婚約者なのに婚約者らしからぬ行動をしても黙認されている事に反感を覚えた。

 何故、身の程を弁えて王子の婚約者らしい振る舞いが出来ないのか。

 エドヴァルドの婚約者として選ばれた経緯が、次期筆頭聖女だという事だけで決定した事にも納得がいかなかった。

 それ故に、自分が筆頭聖女であったのなら、と幾度も思った。


『私にはこの方しか居ないと思ったのに。

 筆頭聖女だからという理由で、あの女が我が物顔でエドヴァルド殿下の隣にいるのが許せない』


 とんでも無いものを見てしまったような顔の女神ウルズは、「爵位も含めて格上の相手に身の程を弁えろと思えるのも凄いわねぇ。若さゆえの過ちってやつかしらぁ?」と感想を洩らし、女神エイルは呆れたような顔をしていた。


「ジークリットの家は初代の娘が降嫁した家だし、それなりの功績も上げているから公爵を名乗ってもいいはずなんだがな。陞爵の話が出る度に遠慮して侯爵のままでいるから甘く見られているのか?」


 首を傾げていた女神エイルは、急にハッとしたような顔をして顔を上げた。


「もしやあの娘、“ノイエンドルフの娘”の功績を知らないというのか? ほぼ代々聖女を輩出し、活躍しているというのに。──知らないとは恐ろしいな」


 映像の中のアメリーはジークリットをただの聖女と思っている節があったので、女神エイルは認識の差に驚いていた。


「思い込みが強い子なんでしょうねぇ。『自分が正しい教』の子らしいわぁ」

「そんな教団名は初耳だが?」

「存在しないけど、一定以上はいるのよぉ。自分の間違いを認められない、()()()()()()な子達が」


 哀れな人間を見るような目で、アメリーの過去の映像を眺めている女神ウルズ。

 映像の中のアメリーは、級友の一人としてエドヴァルドと知り合い交流し、徐々に仲を深めて行き──やがて決意する。

 ジークリットがエドヴァルド王子の婚約者のままでいるのは、彼の為にならないと。

 独りよがりで思い込みの激しさから間違った方向へ進んでしまったアメリーは、ジークリットを聖女という地位から引きずり落とす手段を考えるようになり──その途中で母親からの(ことづ)けを不意に思い出した。

 アメリーの家の領地は女子爵である母親が治めているのだが、辺境に近いので領地を留守にするのが難しかった。その為、アメリーが学院に入学する事で王都入りするのでベックマン子爵代理として寄進を教会へ持参するように頼まれていたのだ。

 入学したばかりの時期に済ませるべきだった用事をアメリーがすっかり忘れてしまっていたのは、エドヴァルドへの恋故だったが──教会への用事と共に、その教会に所属する叔父の存在も思い出していた。

 叔父のトゥーサン・ジローはエルヴァスティ王国教区の大司教の一人だ。

 アメリーは叔父に働きかければ姪として教会内の優遇もしてくれるだろうと期待し、母親からの寄進を持参するので面会を願うという表向きの理由を綴った手紙をトゥーサンへ送る。

 面会受諾の返事を受け取ったアメリーは指定された日時に教会本部へ赴き、トゥーサンに直接寄進を手渡した後に真の目的を話して協力を仰いだ。

 俗物だったトゥーサンは姪の計画を知ると協力を惜しまないと約束する。アメリーに()()()()という下駄を履かせる工作と根回しをし、ジークリットの聖女の地位を剥奪すべく水面下で画策した。


「まともな大司教ならここで断るし、思いとどまるように説得する筈なんだがな」

「そうよねぇ。視る者が視ればエイルの加護が無い事なんて解っちゃうのに、何で話に乗っちゃったの?」


 アメリーの後援として式に参席していたトゥーサンの方を見ながらディスる女神達。女神達が零した言葉がグサグサとトゥーサンに突き刺さり──ある意味公開処刑をされているアメリーのライフはゼロだった。


「こんな計画上手くいくわけがないのに、何故成功すると思っているんだ? 国の信用問題に関わる話だぞ?」

「すぐバレる嘘を()いてまで王子のお嫁さんになりたかったのはわかったけどぉ、自信がありすぎるのも考えものよねぇ。正直言って理解出来ないわぁ」


 女神達の言葉によって、自分が実行した事が成功していたらどうなるかが段々わかってきたらしいエドヴァルドは、アメリーの言葉をそのまま信じて行動してしまったせいで、卒倒しそうな顔色だった。だが、女神エイルの術の影響で倒れる事も気絶する事も出来ない。


「うむ。事情は大体、把握できた。次は王子の方だが、その前に聞きたい。ジークリットは私が直接加護を与えた()()()()()だ。婚約破棄するなら個人間ですれば済む話だが、部外者であるお前が何故聖女の称号を剥奪出来ると思ったのか? 王家と神殿は別組織だぞ?」


 お前にその権限はないと女神エイルに言われたエドヴァルドは、青かった顔を白くさせる。


「そっ、それは……」

「お前は王族だから何でも許されるのだと勘違いしたのだろうが、一国の王子ごときにアタシが与えた聖女の称号を剥奪する権利などない。──どう()()()をつけるかは後で問う事になるだろうが、お前は越権行為をした。それだけは忘れるな」


 一方的に通告だけすると、女神エイルは女神ウルズに「姐さん、頼む」と声を掛けた。


「さっきと重複する部分があるからそれは省いてもいいよねぇ?」

「勿論だ」

汝の過去を(ウルズ様は何でもお)現せ(見通しぃ)


 過去を見通すウルズの呪文が唱えられ、今度はエドヴァルドの過去が映し出される。


『俺の婚約者は、聖女を数多く輩出してきた侯爵家の娘なだけあり見目は悪くないが、性格は真面目で面白くない。

 侯爵令嬢なのに平気で土いじりをするし、薬草栽培を自ら行い自ら調合もする。

 そういった雑務は使用人にやらせればいいのに、俺の婚約者は細々(こまごま)な作業も手ずからやろうとする。

 未来の王子妃、陛下の意向によっては王太子妃になる可能性もあるのだから着飾ったり社交を重視すればいいのに、次期筆頭聖女だからか王族である俺を敬わないし、民の方を優先する──』


 エドヴァルドの独白(ポエム)を聞いたウルズは、「何だか不満ばっかりねぇ」とつまらなそうな顔で呟く。


「かまってちゃん、というやつなのだろう。ジークリットは聖女としての仕事を遂行していたに過ぎないのにな。この感じだと、自分だけを見てくれるあの女に傾倒した、という事だろうが」


 婚約者である自分との交流より、聖女としての責務を優先するジークリットに対して不満を抱いたエドヴァルド。すれ違いと交流不足によって二人の間の溝が生じ深まった頃に、エドヴァルドは学院で社交的で可愛いらしいアメリーと出会った事で、心境と行動に変化が訪れた。


彼女(アメリー)は俺をキラキラとした目で見てくれて、何よりも俺を優先してくれる。

 この国の王子だからと利用しようとしてくる輩とは違う。

 可愛いし、あいつ(ジークリット)の様にツンケンしてないし、可愛い』


「あら。『可愛い』を二回も言ってるわぁ」

「まぁ、()()()可愛い部類なのはわかるが、それだけだろう。ジークリットの方が断然可愛いぞ」

「そうねぇ。リットちゃんはひたむきだし、応援したくなる可愛さよねぇ」


 エドヴァルドの惚気が流れる中、女神エイルと女神ウルズに褒められてしまったジークリットは照れてしまう。


「ん? ジークリットの仕事量、多すぎないか? しかもこれは──」


 エドヴァルドの過去の映像を見て思わず呟いた女神エイル。その呟きを拾ったウルズが、「この子より、あの子の叔父さんの過去を見た方が面白いかもしれないわぁ」と、トゥーサンを見た。

 アメリーの時にボロクソ言われていたトゥーサンだったが、ウルズにロックオンされてしまい顔を蒼白にしたまま脂汗を流している。そんなトゥーサンの姿を認めた女神エイルは、「天気がいいから散歩でも行こうか」と言わんばかりの爽やかな笑顔を向けた。


「そうだな。お前の記憶を見た方が早そうだ」


 指名されたトゥーサン・ジローは否やと言えるわけも無く、過去を詳らかにするウルズの呪文が無慈悲に響く。

《後編》へ続きます。

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