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新人でも活躍できる職場です 終

「田中ー。指名書ファイルどこいった?」

「それは、国軍勅命ファイルに名前かえて、右端の方に」

「あった!」

「はい、それです」

「田中ー、そろばん消えた」

「さっきまでその机の上にあったから、潰れてるんじゃないですか?」

「発見したわ。潰れたビスケットでてきた」

「虫がわくので控えてください」

「田中さーん、報告書もってきましたー」

「はい、提出物置き場にお願いします」

「あ、ケリ、金計算間違えてたぞ。1桁間違いはやべえ。得しちまう」

「まじっすか。多めに出し直します」

「ちょびっとなら目くじらたてんがほどほどにな」

「うっす、お駄賃いただきます」

「田中さん、道具屋のご主人が納品に来てくださってる」

「すいません、すぐにいきます!」

「田中!発注書発注書!」


基本二人しかいないはずの事務所は今日も騒がしい。

ケリ少年や皆さんが、特に用がなくともたむろしてくれているというのもある。

「お待たせしました、納品ですね」

「ポーション20個と毒消し薬10個、乾燥火炎草500gです」

「はい、確認いたしました」

発注書と納品物の一致を確認。

「合計額は10万で間違いないですか?」

「10万、確かに。最近は物価も安定しています。火炎草は難しいですが、ポーションなら割引の相談も可能かと」

「少々お待ちください」

こういう時は社長を呼ぶのが鉄則だ。


少しは仕事に慣れてきたのではないかと思う。

実は、地球の仕事やめてもうひと月になる。

正確には、日本に本社を持つのアンターシー保全に転職したため、就職先は地球ではある。

だが実際の居場所は地球ではない。

「ミカヅキツリフネソウの群生地の発見、それがポーションの価格安定化と今回のお値引のご相談が可能となった背景にあります」

「採取制限は?」

「既に。もともと、管理の行き届いていない私有地での発見でした。ですので、そこを薬師ギルドが買い上げて農場運営されております」

「なら急に価格高騰もなさそうだな」

割引の件、前向きに検討しそうな雰囲気だ。となると、置き場所の確保が必要か。


今の仕事の給料は、前職よりは安くはある。あくまで、日本円としての支給額だけ見ればの話だが。

実の所、アンターシー側の給与も追加で出ている。合計すればかなりのランクアップだ。

日本円での給料は、日本にあるアパート等の家賃やライフラインのため。が、生活基盤はほぼ異世界にしていて、食事も洗濯もお願いできている。スマホのプランも1番安いのにしたし、日本円での貯金額はかなり増えた。

今の所、暇ができたらアンターシーにきているから、つかう機会がないというのもある。


「50本、ひとまずいってみるか」

「はい、では契約書をおつくりします」

商談がまとまったようだ。うちのような小さいところでも割引をもちかけてくれるだけでありがたい話だ。


道具屋さんが帰ったら、すぐにポーション置き場の確認。今あるものは、ケリ少年たちに支給しておく。

「せっかくだ、なんか仕事してこい」

社長からお仕事のお達し。なんともゆるく、雑な話だ。

「遺跡調査いってみる?軽く見回るだけなら今からでもいけるよね?」

「遺跡調査?」

周辺地図を見せてもらったことはあるが、そこに遺跡はあっただろうか。

「町外れくらいの距離に石造りのボロ屋があってだな。保全活動の一環で、定期的に見回り調査してる。荒らされてねえか確認するだけの初心者にもおすすめの依頼だ」

周辺地図になると町に吸収されるくらいの近場にあるという事だ。

「登録したての冒険者にはいいんだけど、みんなすぐ飽きてもっとむずかしい仕事を選んじゃうからね」

町から近く初心者でも安全だが、調査ノウハウがないためざっとみてよし、も多いらしく、定期的にうちが請け負って本当に問題ないか確認しているのだとか。掃除や片付けをする中で、細かい傷をおうこともあるらしい。


「田中さんどうする?」

「田中は無理。俺が無理だ」

さらりと誘われて、さらりと断られてしまった。今行くとなると腐海を放置することになる。俺としても、落ち着いてからお邪魔したいところだ。


「ホシさんは家かな」

「お邪魔して相談してみましょう」

手を振って、2人が出ていってしまう。

「じゃ、田中、契約書保管な」

「はい」

最近新しくした契約書ファイルは棚の向かって左下付近。

「今の作業終わったら、次、議事録整理頼むー」

「あれ1番やばいやつですよ、もう手をつけるんですか?」

「色んな隙間からメモが発掘されすぎてやべえ」

弊社社長は積み上げ方式で保管しがちで、あとで泣きをみている。

「別の書類の端にメモするのはやめてくださいね」

「ついつい手元の紙に書いちまうんだよなあ」

これで社長はとりつくろうのはうまく、部屋を一見しただけでは崩壊を悟らせない。だからこそ、本人としても気付かぬうちに未整理の山にしてしまうのだろう。

「いたっ」

ごっそり紙の束を棚から引き抜いたらゆび先をきった。

小さく魔力をねって、切り口に集中させる。ひりっとした痛みはあるが、おそらく、もうふさがっただろう。


俺もすっかり魔法使いデビューだ。といっても、俺の魔法は小さな切り傷を治せる程度の力しかない。正確には成長促進の力なので、上手くいけば切りすぎた前髪をもう一度伸ばすことができる。

周囲の髪も一緒に伸びるのは玉に瑕だ。

攻撃魔法も戦闘実用魔法も一切使えないが、戦場に出なければ問題ない。

どんどん使いたい魔法というわけでもないので、魔法に頼りすぎて地球の暮らしが不便になる程でも無い。

実にそこそこ。だが、丁度いい。


午後の業務を終えて、退勤時間だ。以前は残業が当然のようにあったが、今はむしろ業務時間も短ければ残業もほぼない。働いている以上0にはならないが、限りなく0だ。

退勤後は、社長とのレクリエーションがまっている。

「今日は、隣町のギルドマスターと飲むから、一緒に行くか」

「お願いします」

街の案内から日用品の買い足し、俺自身を周囲と馴染みやすくしてくれたり、気遣いは枚挙に暇がない。


会社の偉い人と飲めと言われると気が重くなったものだが、こちらの世界では、まだファンタジー意識が強く、楽しめている。さすがに、王族との会食は辛かったが。王族と言うよりは、世界のセレブ社長との会食、の方が近くはあった。どちらにせよ、次のお誘いにも乗るしかないがまだ先の未来であることを願う。


今は、日本と異世界を気軽にいったりきたりしていて、気軽に出来る海外勤務のような感覚だ。今は俺や、勇者捜索中のカリガネさんのような特定の人しか行き来できていない。が、いつか、社長やギルドのメンバーを日本に招待できたなら。

日本の居酒屋で日本酒をご馳走したり、ビル街を散歩したり。お世話になっている分を少しでも返せるのではないだろうか。

何も使命のない世界で生きるために生きる、辛くも楽しい日を少しくらい知ってもらえたら。

そんなふうに思うのである。


何はともあれ、異世界で奢りで飲む酒はうまい!

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