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5 休日にも仕事ができる配慮

ついに働ける日がやってきた。

「あんた、そろばん使えるか?」

「いや、そろばんは使えません」

ノスリ社長から思いがけない単語が聞こえてきなのに、即返事出来ただけでも褒めて欲しい。


まさか、仕事をしようとなって、初めに尋ねられるのがそろばんとは。

そもそも、計算機ではなくてそろばんなのか。そろばんはアジアで作られたんじゃなかったか?建物も服装も、西洋中世ファンタジーな世界観を踏襲しているので、機械装置がそぐわないのはわかる。が、なんというか、洋式計算機というべきものがあるのでは。

「こいつは、テラからの持ち込み知識だな。うちでも使えて便利なもんだ」

既に知識無双が行われていたらしい。

「計算機では駄目なんですか?」

「機械の計算機の意味じゃあ、アンターシーじゃあ、テラのエネルギー以外の力も働くからな。こっちに持ってきても速攻壊れちまうよ」

アンターシーにはスマホ、時計などの電化製品は持ち込み禁止なのだが、そういうことなのか。念入りに注意されたし、異世界にきてまでスマホもどうかと思って特に理由も聞かずに置いてきたので知らなかった。

国が日本で会社を起こしているくらいだ、この世界は適度に地球知識が入っている。入ってきていないように見えても、既に失敗したあとというのも多いようだ。


「そろばんが駄目なら、書類整理してもらうか。そっから、どんな作業あるかぼちぼち覚えてくれや」

「はい、お願いします」

この世界は地球ほどではないのだろうが、紙は潤沢にあるらしい。印刷技術もあるとのこと。が、一般的には手書きが中心らしい。鉛筆のようなものもないようで、支給された筆記用具は万年筆だ。


大まかに分類だけされていた書類を読んで、記載された日時順に並べ、さらに中項目、小項目とわけていく。


今預かっている仕事は、他のギルドからの依頼の横流し書類だな。

このギルドでは、他の大きなギルドでは不人気で余ってしまう最低報酬ギリギリのものや、価格はよくともパーティの実績のプラスにならないようなものばかりが流れてくる。

他ギルドにしてみれば、高額から少額まで受けられる間口を世間にアピールできかつ、嫌がられる仕事は他に頼める。ここにすれば、他ギルドに恩を売りつつ確実に稼げる。


依頼内容はというと、ちょっとした街のお手伝いだったり、相場より安い仕事のようだ。不当な安価は他ギルドでも受け入れ拒否するらしいが、相手の金銭事情や、確かにこの内容ならこの金額か?、しかしこの要素あるぞ…?のような微妙な案件もある。

安価な仕事や、微妙な仕事ばかりこなすパーティは、そういう仕事のイメージがついて高額依頼に絡めなくなる、ということもあるらしい。

その点、このギルドは、他をクラッシュしてきてしまった人達の受け入れ場だし、マスターは国に顔も効いて重要案件を取ってこれる。

変わっているが信用出来る仕事師集団、というところだろう。たしかに、WinWinなのだ。


と、安い仕事ばかりかと思えば、ペット捜索依頼も多い。しかも結構いい報酬だ。


「日本じゃあ、ペット探偵なんて迷子のペット専門業者もいるくらいなんですよ」

勇ましい冒険者のイメージからは離れるので人気はないかもしれないが、この額であれば専門にしたがるパーティもいるのでは。

「それ、全部同じとこからきてんのよ」

「でも依頼主が」

ノスリさんの眉間が急に深くなる。依頼主の名前は様々だが、同じところとは?

「お金持ちってやつよ。依頼持ち込んだ使用人の名前が依頼主だ。てめえの名前を出したがらねえんだよ。いろいろ主側が問題すぎて受けてがねえ」

メンツを気にするタイプだろうか。たしかに面倒くさそうだ。依頼人に問題があるならいくら報酬がよくても悩む。

「トラブルは起こらないんですか?」

「しょっちゅうよ。だいたい、そのペット様は空飛ぶモンスターで放し飼いだ。捕まえろっつうのが無理な話だし、どう考えてもまともじゃねえ」

それは餌やってる公園のハトをペットと言い張っているのと同レベルなのでは。

「だが金払いだけはいいんだ。たまたま、捕まえる技もある。だから割り切って受けてる。カモっちゃカモだ」

それは果たして本当にペットなのか。ノスリさんの声からも、断りたくて仕方ない感情が伺える。が、だれかがやらなければ結局、やり手がないことで暴れる依頼人なのだろう。


「にしてもあんた、本当に仕事でいいのか?」

手が止まっているのに気づいてドキリとしたが、咎められているようではない。

「毎日、テラで仕事してんだろ?で、たまの休日こっちで仕事。仕事の合間に仕事してんじゃねえか、社畜なんざ今どき流行らねえぜ」

休暇の概念はその地の文化次第だが、こちらは休暇はしっかり休む文化だったのか。

「ひょっとして、今日は休みでしたか?」

「基本はな」

しまった、休日勤務させている。

「俺は自営業だし、顔と情報が資本だ。いつだって休みっちゃあ休みだし、仕事っちゃあ仕事よ」

散歩していたら呼び止められてそこから仕事の話に、ということもままあるらしい。

「ただな、現役の冒険者は別よ。冒険者ってのは休む時は極限まで休むもんだ。だらだら仕事してっと、関節から壊れてくぜ」

遠征の後は、武具の手入れは仕方ないが、とにかく休むことが重要らしい。徹底的に休むこともまた、次の仕事への準備と考える。

官民両方経験した社長の持論だそうだ。

もちろん、世間にはとにかくハードな冒険を求めるパーティもあるということで、そういうところは無理に耐えられる者だけが残されるとか。


「今日、ノスリさんはなんの仕事されてるんですか?」

先程からずっと書き物をしている。

「新しい魔法書がでててな、その内容の理解つうか」

「研究ですか?」

「いや、なんつうか、業界研究に近いか?」

どうもこの世界、魔法は地球の物理法則のごとくどこにでもありどこにでも働く力で、多かれ少なかれ誰でも行使できるそうなのだが、磨くには地道な努力が不可欠らしい。

社長は、従業員のレベルアップのために本を読みといているという。

「一般的な事なんですか?」

「ギルドマスターとしちゃあ、一般的じゃあねえだろな。普通は無数の依頼報告の整理分類、金の工面や従業員の雇用と労働環境構築が多いだろ」

一気に泥臭くなったな。

「うちはそういうのほとんどねえから。正直、暇しようとしたら無限に暇できるからな。なんかしようとしとかねえと仕事ねえ。それに俺も強くなりたいしな」

社長業というか、営業に精をだせばと思いもしたが、精を出しても出来る仕事量も限られる。

「俺も魔法使えるんですかね」

「練習すれば大体いけるらしいぜ」

「大体ですか」

「感覚の問題だからよ、どうしても掴めないやつはいるもんだ」

縄跳びだって、とべないやつはとべない、というのと同じだろうか。

「練習してみるか?」

「いいんですか?」

正直なところ、興味はあったが戦いに赴くわけでもなく、日常生活に必要なわけでもなく、言い出せなかったところだ。

「得手不得手はあるが、こっちじゃ普通の技術だからな。勇者だからって、いきなりすげえ技がでるなんてこともねえだろ」

やっちゃいました?はない、ということか。

「飯食ったら基礎からやってみっか。ただし、わかってんだろうが、テラじゃ使えねえからな」

「はい!」


その日、昼食後、こども科学館のようなところに赴き、大勢の子供たちと一緒になって、魔力エネルギーの視覚化体験を行った。科学実験おじさんのような人は世界をこえているものだ。どこの世界でも、子供たちはきらきらしていて、親を多いに振り回すものだなと思った。


そして、30を前にしてリアル魔法使いデビューとなったのだった。

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