3 ざっくばらんに話のできるアットホームな職場です
今日は、ノスリさんの職場兼自宅の見学会、のちに業務説明だ。
ノスリさんは冒険者のように聞いていたが、実際には冒険者稼業は休業中で、今はギルドマスターということらしい。
ギルドマスターだぞギルドマスター。
しかも団体支所というのではなく地域密着型の個人経営。
つまりベンチャー社長。
ラフな服装は、元冒険者社長としての面を売ってるとこもあるらしい。
年を聞いたら俺より若いのに起業なんて本当にしっかりしているというか、流されるままに生きてきてしまった自分の人生振り返るよな。
冒険者ギルドと聞いていたが、想像とは全く違う。
玄関を通って、すぐに小さい応接間のようなところ。机が1台、ソファが二脚、以上だ。
異世界転生ものでよくある、広いホールにテーブルと椅子があり冒険者がたむろし、カウンターがあって受付嬢がいてという光景はない。そもそも、玄関も出入り自由ではなく一般家庭のようにお邪魔します、で入室するシステムだ。
お客様をもてなしやすい民家。そんな印象だ。
「あんたの仕事だが、ここで事務員やってもらうわ。」
人様の家にお呼ばれした感が拭えない。目の前には、ティーカップに紅茶のようなお茶と、クッキーよりほろほろのクッキー的ななにか。これはこっちの世界の普通のおもてなしということだ。お茶は社長自らで、お菓子の場所にも迷っていない。
「うちのギルドは少数精鋭、基本3人1組のパーティが1組だけだ。だから、他の大きいとこと違って、パーティの受注確認はない。」
だからこそ、ギルドの受付嬢的なのはいない、ということらしい。
しかしそんな人数では仕事が限られるだろう。やっていけるのだろうかと思うと、案外やっていけるらしく。
ここにくる依頼は、このギルドでなければ駄目だとか、他の所からあぶれた仕事の引取りだとか、国からの調査依頼とか、そういったものが主らしい。指名するくらいなら、高めに値段設定してくれるし、引取り仕事は引取り元からプラスがあるし、国からの依頼も、申請だなんだで上手いこと資金を引き出せるらしく。贅沢さえしなきゃどうでもなるんだよ、とはノスリさんの言葉。
また、プライベートでの魔物狩りもよい。つまり副業OK。
ここの仕事を最優先してくれればそれで、という少人数だからこそできるゆるさで運営しているようだ。
「事務員って具体的にはどういう作業があるんだ?」
「あとで業務一覧は紙で示すが、ざっと説明するな」
ゆるいことはゆるいが、業務範囲はしっかりしているところが、さすがはベンチャー社長ってかんじだよな。
「事務の仕事は、ギルド員が実地でやること以外一通り全てって感じだな。」
ギルド員の健康調査、スケジュール管理、経費の処理、報告書の精査、新規依頼のスケジュール調整と諾否、もちろん、事務員のための経費云々。
聞けば聞くほど、普通の事務員だ。
「参考としてギルド員の仕事も説明すると、依頼、依頼の準備、その費用提出、健康状況の報告、依頼報告、くらいか。
あとはまあ、副業で何やったか言える範囲で教えてもらうかな。」
副業内容の報告は、そっちの方でトラブルが起こることもあるから、その把握のためとのこと。
とにかく依頼をうけおって、その中から各パーティがやりたいことを選ぶ、という方式ではなくて、ギルドマスターが請け負ってきた1件の仕事をパーティが行う、と。
パーティは好きな仕事をすることはできないが、ギルドマスターもとにかくうけおえばいいのではなく、パーティの適性をみないといけない。
事務員信頼関係が重要なシステムだな。
「依頼の営業はギルドマスターである俺の仕事だな。あとは、運営資金調達であっちこっち頭下げたり、他のギルドとの斥候。国との金銭交渉。将来的な運営の方向性決定も俺だなあ。
あとは、事務書類の承認も俺。」
「運営資金調達なんてあるんだ?」
「ほとんどねえよ。たまあに、準備の重い依頼がくるんだ。国に頼むと遅すぎるからギルドにってのがな。そういうのは普通に人命にかかわるからつっぱねる人でなしになりたくねえ。そういうのは、後から国に報告書だして金回収するが、先立つものはな、集めとかねえと。」
「国はやはり遅いのか」
「そりゃな。数十人の部隊の予定を組み直し、準備資材を調達しとくりゃ、時間がかかるのはしょうがねえ。下手うちゃ部隊が路頭に迷う。出発前の作戦会議も重要だ。そりゃあかかるさ」
官の事情にしっかりよりそっている。そういう理解ができて、あえて民でやってるんだろうところが、国から推薦がくる理由なんだろうな。
「時間も必要経費だが、それで失われる命ってのもやるせねえ。そこんところを穴埋めしようとあがくのがこっちの仕事だな」
「立派なことだな」
「あくまで緊急事態、そういうこともあるってだけで、そこまで酷い世界じゃないとは思うぜ。勇者呼んどいて変な言い草だがよ」
誤解すんなよ、というのは、こっちへの配慮か。
地域密着で人気のない仕事もやってくれて、緊急時にはすぐに動いてくれるなんて普通に社会貢献だなあ。
「で、うちで所属してる3人の冒険者ってのがな、盾持ちの少年と男の魔法アタッカー、女のヒーラーでな、必要に応じて近接物理アタッカーな俺もでる感じだ」
ゲーム初心者にオススメしたいバランスパーティだ。
「あと女の事務員が1人。田中はこいつと仕事してもらいたい。今日は休みだから、また明日だけどな」
というわけで、初めての冒険者とのエンカウントだ。
「はじめまして、アオバトです、よろしくお願いします」
アニメか!
完全なアニメ声に、はちみつ色のくりっとした巻き毛。なんだこれ冒険者じゃなくてプリンセス系では?
「ケリです、よろしくお願いします」
「ホシハジロ、だ」
「ホシさんってよんでます」
「ちょっと無口だけどきにしないでね」
なんなんだ顔面偏差値高くないか?
女性ヒーラーのアオバトさんはアイドルの〇〇にアニメ声つけた超美人だし、魔法使いさんもハリウッド俳優と見紛うイケメンだ。鼻たっか!ほりふっか!人類として作られた時の基礎が違う。
盾持ちの少年は2人に比べたら大人しいが、単体で見たら決して悪くない。すっきりした顔立ちで普通にもてそう。少し小柄だが決して悪くない。
言い訳じみて申し訳ない。だが周囲の偏差値が高すぎるんだ。しかし29年生きてた俺はわかる。こういうタイプは気づいたらめちゃくちゃかわいいこと結婚してる。気づいたらパパになってる。俺は詳しいんだ。
「紹介で真っ先にこれいうのもなんだがな、うちに所属してるのは、どいつもこいつも個性キツめでな、いわゆるサークルクラッシャー集団だ」
そんな危険人物たちを集めて大丈夫なのか。
とはいえ、今この空間はのんびりしていて破壊の陰は見えない。
「破壊神同士だと破壊し合うものがないんだよ」
どんな頂上決戦なんだ。
美女アオバトさんは見た目通りのサークルクラッシャーガールで、これまでいくつもの有名パーティを終焉に導いたとのこと。
男性を争わせ女性たちからはヘイトを一身に浴びる。浴びることでますます男性陣の庇護欲を誘いさらなる崩壊へ。
「別れさせ屋にスカウトされたこともあるんですけど、別れさせ屋がわかれちゃってぇ」
サークルクラッシャーガールとわかっていても壊されにいく男の悲しさよ。
ホシハジロさんもこの圧倒的イケメンオーラで周囲の男性の嫉妬を一身に買ってきたらしい。が、最近ではさらに分断要素が生まれてしまったらしく。
「若く見られることも多いんだが、38になる。それで最近は、昔からのファンなどという女性たちと、38なんておじさん推すのおかしいという若い女性でさらなる争いがおきている」
じごくじゃん。
「昔は氷結の貴公子って呼ばれてたんだが、そろそろ氷結閣下にクラスチェンジするんだと」
「やめてくれ名乗ったことないし認めていないしいつもやめてくれていっている」
突然貴公子が取り乱しはじめた。
「ファンというのもやめてくれと!昔から一度も認めたことはないのに!」
美形というのも大変なんだなあ。モテたためしのない俺にはわからないけれど。
「ちなみに、私は貴公子を誑かして利用してる悪女っていうのが新説だからよろしくね」
そのセリフにこにこしていうのはメンタルが強い。
ところで、3体目の破壊神ことケリ少年は2人とは傾向が違い、職業選択で普通にもめてパーティ脱退の常習犯だったらしい。
なんとなく空気を乱すというレベルをこえて、真実の闘争を引き起こす破壊神3体召喚して、このギルドまで破壊されるとは思わなかったんだろうか。
「俺もあっちこっち転々して、ある意味破壊神だからな」
起業するまでに転職を繰り返したってことかな。
「国軍の一個小隊解散させてるからもんね」
それはリアル破壊神という事で…?
「国軍の組織体系が変わっただけの話だ。解散後の兵士たちは他の軍にうつっている」
決して目が合わないノスリさんに代わってホシハジロさんが教えてくれる。
国軍の組織で創造と破壊するお方が破壊神第1位と確信した。




