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2 異世界本社、会社説明会(食事会ふくむ)


「俺はノスリだ。あんたの同僚候補になる」

「よろしくお願いします、田中道明です」

目の前には背が高くガッチリしたいかにもなアニキが一人。顔面を斜めに走る大きな傷が気になって仕方ないが、雰囲気は格闘家のプライベートは意外と優しい、みたいな。

差し出された手に握手したら、めちゃくちゃささくれだったタコばかりのイカつい手だ。

あれだ。笑顔でビンタを貰いに行かないと行けないタイプ。 体格的には、レスラーのどっしりした体型と言うよりは、ボクサーの方に近い、気がする。ガッチリしてるが、引き締まっている感が強い。


ここは異世界アンターシーとやらの、いわゆる王城の一室。ということなんだが、城と聞いて想像するヨーロッパの豪華絢爛さと言うよりは、役員会議するために設えられた特別会議室って感じだ。

浮いてる感は否めないが、こういう場所もあるよね、的な。


まだ勇者になる決意なんてものは無い。が、観光気分でいいからとお招きを受けた。

この転移、一方通行でも、移動に伝説のアイテムが必要でもないらしい。とにかく気軽に、出勤気分で行き来できるのが売りの1つだそう。

移動にはアイテムが必要だが、家に置物としてさりげなくおけ、手順と使用者登録すれば誰でも使用可能。

さすがに今日の最初の1回目は緊張したものの、そのあとすぐに

日本に戻してもらってなにも影響がないことを確認済。

少々どころか浮ついた気分だったのだが、この役員会議室に入ってからは肝が冷えた。

リアル。というよりは、本物の役員会議室だ。


で、もし勇者業務に着く場合の同僚をカリガネさんから紹介されたところ。


役員会議の特別会議室に、正直、このノスリさんはハマっていない。

顔面の傷もそうだが、服装もいわゆる冒険ファンタジーの格闘家的な軽装なんだよな。一張羅というより、今まさに冒険できてる普段着ですというか。半袖からのびる腕のたくましいことたくましいこと。俺が頑張ったってここまではいかないだろうクオリティ。


まさにこれこそ、力こそパワーだ。 勇者パーティーの前衛だな。タンクというよりはアタッカー。圧倒的物理アタッカー。 めちゃくちゃ頼もしくはある。

ファンタジーとしては申し分ないのだが、何せ場所が役員用会議室だ。

隣のカリガネさんが日本産のスーツびしっと着こなしてるし俺もスーツだし、うき感半端ない。


年は俺と同い年くらいだろうか。


ところでこの人…俺が招致に応じないと、無職になるとかないんだろうか?

「俺は元々冒険者だからな。あんたが蹴っても食い扶持には困らんよ」

むしろ、勇者同僚候補というハクがついて仕事がやりやすくなるらしい。確かにそういうのはある。

「俺は、そこそこ実績あって、勇者と年が近くて、観光や美味い飯を知ってて、好き嫌いなく、酒が飲めるから選ばれたんだ」

勇者の仲間って、もっと使命に燃えてたり宿命背負ってたりしないものか?

「そんな重たいやつと仲良くやってけるのかよ」

チェンジしていただけますと幸いにございます。

「そういう背景がありますと、田中様に無理を働く可能性があります。ですので周辺含め必ず調査致します。ちなみに彼は8人兄弟の次男で、御家族揃って健康。秘められし因縁の古傷などもございません」

「家業は弟が継いでるからすんげえフリー」


顔面の傷は、家業の大工を手伝った時のものらしく、いつか失明するから家業に関わるなって追い出されたらしい。

とまあこんな風に、カリガネさんから、彼がいかに勇者パーティーに相応しいか説明を受けている。とはいえ、いかに正義の旅に導かないか無茶しないかの説明なので、つまり、なんだこれは?

想像のはるか上に現実的で至れり尽くせりな状況に、まだ現実を受け止めきれない俺と筋肉で全て解決するアニキとともに、また業務紹介を受ける。


「勇者と申しましても、田中様に剣を渡して戦場に立てと強要するものではございません」

「そうなんですか?!」

「やる気があるなら行くか?」

「ないです謹んで辞退いたします」

勇者としての召喚なら、少なくとも戦闘はあると思ったんだが。


「テラ系の方の戦いは銃器が主ですが、アンターシーには銃器はございませんので持ち込みになります。魔物は無限に湧き出ますので、国家予算程度の準備が必要かと」

そんな額で買い漁ったら、テロリストの容疑掛けられるどころか本当に暗殺されそうだ。そもそも、そんなに大量に準備はできない。


じゃあ、格闘のチャンピオンを連れてきたらいいのではないかと言うとそうでもないらしい。

「テラは物理力しかねえから、下手にあっちの達人クラス連れてきても、魔力込で戦うこちらの流儀に合わなくて、なかなか感覚慣れねえんだと」

結果、大怪我したり、本当の生死をかけた戦いに心折れる人たちも少なくないらしい。

なので、あえて俺みたいな絶対戦えない人間を選んで連れてくるし、勇者といえど直接戦場に放り込まれることはないそうだ。

「やる気がありゃ、別だぜ!」

親指グッとされても、謹んで辞退致します。



一通り顔合わせしたあとは、せっかくだから食事でもと、ノスリさんと城内の食堂にやってきた。


「正直なとこ、異世界勇者ってのはいてくれるだけで効果あるらしいぜ」

「便利ですね」

ここに来るまでの風景は、まさにファンタジー中世で、ヨーロッパの古城が新しくてそこにあるような、不思議な感覚だった。

この食堂は上位層用ということで、豪華な作り。かつパワーランチ用か個室まで完備だ。


「寝てるだけでもいいらしくて、こっちを布団にしてくれるだけでいいって話だ」

寝てるだけで給与出るとかバグってないか?

「とはいえ、弱いのでいいから倒してくれると、謎の勇者パワーで世界の平和度が上がりやすいらしい」

蚊みたいな魔物がいたらいくらでも退治するんだけどな。


「あー…。すいません、これお代わりもらえますか」

「おっちゃん!ピルマ1人前追加!」

「あいよー!」

個室の扉を開けて叫びあうシステム。

それにしても、異世界の食事はマズイが定番だが、ここはかなり美味い。はじめは、よもつへぐいが頭を過ぎって美味そうになんて見えなかったが、そんな効力がないことも説明済だ。


なお、初めて食べたのは、味噌味のコンニャクだった。

翻訳コンニ〇ク、リアルで食べられるとは思わなかった。科学じゃなくて魔法の産物だけどな。

カリガネさんは日本語習得してトリリンガル以上らしいんだが、俺のために簡単自動翻訳魔法というわけ。


さてこのピルマ、日本の味とはいえないが、辛くないアジア系ブタのオーブン焼き、といった料理だ。独特の風味だが、酒が進む。バーニャカウダ風の野菜も並んでいるが、こっちもマヨネーズのようだがマヨネーズじゃない。いずれにせよ美味い。

もちろん毎日これでは日本食が恋しくなるだろうが、それ以外ではなにも問題ないと感じる。


飲み物は、ビール風のアルコールだ。名前はそのままビールだった。とはいえ味は黒ビールとかそっちに近いだろうか、味に少し癖がある。

が、そんなことはどうでもいい。冷えていて美味い!

俺はしっかりと食べているが、ノスリさんは酒とナッツ系のツマミで飲んでいる。このナッツも、クルミ風で塩味が効いていて美味かった。


「こっちの飯が口にあってよかったぜ」

「こちらこそタダでお世話になってありがたいです」

「明日の朝飯は、こっちの定番中の定番だから、楽しみにしとけよ」

明日は休みだから泊まれる今日にお邪魔した。

勇者はともかく、せっかくだから観光くらいしてもいいかなと思って来てみたんだ。 仕事終わりに来たから、もう夜もいい時間だ。だから歩き回るのは明日。


しっかり飲み食いして、すっかり腹一杯になった。 最近、飲みに行くのもご無沙汰だからかなり飲んでしまった気はしている。すすめ上手なんだよな。コミュ強すぎて危険だ。 今は平気だが、日本の酒と違って後に残るということも考えられる。気をつけないと。

食事が終わったのを見て、ノスリさんは真剣な顔をして、残りの酒をあおった。

「じゃあこれから、1番大事なことを覚えてもらう」

あれ?今日は食事だけして宿泊所に行く流れではなかったか? 観光は明日だし、何かあったろうか。

「今日はもう寝るだけと伺ってますが、何かマナーがありますか?」

「マナーも大事だし、覚えといて損はないが、それ以上に人の尊厳に関わることだ」

それは?

「アンターシー流、便所だ。しっかり覚えてくれ」

確かにそれは、俺が今1番求めている情報だ。

俺も、神妙にうなづいた。


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