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1 職種 勇者、勤務地 異世界


「ようこそお越しくださいました田中さん。まずはおかけください」

「はい、失礼します」

使い込んだソファに座り込むと、すぐさまコーヒーを勧められた。

「急なお願いであったにも関わらず、お話させていただく機会をくださりありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございます」

ぺこりとお互い頭を下げあう。まるで営業担当の打ち合わせだ。

だが、今日ここに、営業にきたわけでも打ち合わせにきたわけでもない。

「貴重なお時間をいただきまして、弊社、アンタ―シー保全の業務についてご説明させていただけたらと思います」


なんとなく登録した転職サイトで熱心なスカウトメールを受けて、一度話くらい聞いてみようと思っただけだった。


田中道明 29歳。 ○○県○○市。 ○○年○○大学卒業…。


転職サイトに登録したのに大した意味はなかったと、思う。

就職して5年。少しばかり仕事がわかってきたこの頃。先輩にくっついて常に添削添削からもやや解放されて、でも新しいことには新しいルールがあって、そっちを覚えるのに必死になって。

腹が立つこともある。やりとげた酒の味に酔いしれたこともある。いや、若干腹の立つことが増えてはきたか。

だがどうしようもない。やるせない。


流されつつある暮らしに、一石を投じたい。

そんな気分だったのかもしれない。


転職は30歳までなんて話も聞く。 適当に、某大手転職サイトに転職し、業界関係なく適当に見て回った。

実家に帰るとしたらどうなるのか。

一生に一度くらい沖縄で住んでみたいもんだ。脱サラして民宿始めたりカフェ始めたり、ちょっとは憧れる。 まあ、俺は最低限の自炊しかできないし、掃除だっておざなりだから、性に合ってるとはとても思えない。


テレビで見る分には憧れもある。 だがそんなできもしない自営業はおいといて。 仕事帰りの電車の中で、マンガの代わりにぼんやりと転職情報を読むのが習慣になりつつあった、そんなある日。


来ていたのは一件のスカウトメール。

「合同会社 アンタ―シー保全」。

聞いたことはないが、保全ってことは、地方のセキュリティー関係の会社だろうか。


腕っぷしにはまるで自信がないが、警備で見回りしてるのってけっこうおじさん多いから、腕力は不要なのかもいれない。 むいている業界とはとても思えないが、せっかくだし企業ページくらい見てやろう。


見てみると、本社は海外にあるらしい。聞いたことすらない国だったが、そもそもWHOに加盟すらしていないマイナーな小国らしく、上手く言えないが、世界には俺の知らないことはまだまだたくさんあるんだと、思わずため息がでた。


給与は、地方の初任給程度、だろうか。マイナーな小国なら日本より物価が低そうだし、となるとかなり頑張ってる額ではないのか。そもそも、そんな国がどうして日本に支社なんてだしているのか。

…せっかくだし、一度くらい話聞いてみてもいいかな。

それが、今日という日のあらましだった。


俺を面接してくれるこの人は、カリガネさんっていうアジア系の外国人って感じの人。

メールでも日本語完璧だなって思っていたが、実際話していても違和感がない。

おそらく、相当なエリートじゃないだろうか。

ビシッとスーツを着こなして清潔感がある。30代か、それくらいだろう。

人事課長なんて名刺には書いてたが、実質支社長といってもいいのではないか。


「わが社は環境保全活動のうちでも、害獣の駆除や隔離を主軸にしております。」

テレビでも、イノシシやサルの被害はちょくちょく見る。街中ならともかく、地方じゃ大変なんだろう。 カリガネさんの祖国でも害獣被害は多いんだろう。で、そこで培った技術や知識を日本に売り込もうってことなんだろうか。

「日本でも害獣の被害は年々増えているそうです。カリガネさんの故郷でもそうなのですか?」

「はい。我が国の歴史は、害獣からの防衛の歴史と言って間違いないかと思います」

なんだろう。ジャングルとか、動物が多い国なんだろうな。

「国内だけで防衛を敷いていたのですが、それだけでは決定打にならず、度々国外に協力を求めていました」

やっぱり、うちだけにこもるとブレイクスルーは起こらないものだ。

「で、その知識を日本でも生かそうということですか?」

地方の被害にあっている人たちには興味深いんじゃないかな。なんなら、俺もちょっと興味わいてきたし。

「いいえ。我々は日本に、さらなる協力を求めてまいりました」

売り込みじゃない? ということは、日本の地方に行って、害獣駆除の技術を教えてもらって自国にフィードバックするのか?地方業務での情報収集員を求めているってことか?

きょとんとする俺に、カリガネさんはにっこりと笑顔でうなずく。

「今まさに大きな被害を受けている祖国を守るために、日本の方のお力をえたいのです」

ひょっとして、経験者と思われてるのか?

「あの、申し訳ありません。私は害獣駆除は専門外です。勘違いさせてしまったのなら申し訳ありません」

「はい。大丈夫です。存じております」

俺の履歴書には、害獣に関する会社に勤めた経歴なんて書いてないし、出身地だって、まあ、多少の害はあったはずだが全国ニュースになるようなことはなかったはずだ。 でもわかってるのなら、さっきの流れは??


「業務内容の詳細説明に先立ちまして、イメージしやすいように雑談から入ってもよろしいですか?」

「へ?」

素が出た。いや、だって、この状況でさらに説明とか、なんだかよくわからくなってきた。

「田中様はライトノベルはお読みになりますか?」

なんですと?

「『社畜勇者の召喚ライフ』はご存知ですか?」

なんですかそのいかにもなラノベタイトルは。

「この作品なのですが、弊社の社員が執筆しておりまして」

「普通にすごいですね」

突然取り出したのは、かわいいイラストの描かれた小説本だ。

ネット小説は読むし、面白いと思った作品が次々本になっていて、デビュー多いなと思ったものだがまさか作家本にはあったことがない。それにしても、副業いいんだなこの会社。

「簡単なあらすじとしましては、日本でサラリーマンをしていた社畜の主人公が、異世界に召喚され、勇者としての使命を言い渡されます。王国から派遣された少女らと共に異世界を救う物語です」

「なるほど」

よくある話のようだ。だが、こういうのは性癖といかに合致するかが大切だ。 俺としては、大人しい子よりは元気なヒロインの方が好きだ。活動的で前向きで、ぐいぐいパーティを引っ張るムードメーカー…。

…うん。転職の面談で考えることじゃないし、面接官がふる話題でもないような。


「田中さまにお願いしたいのは、召喚勇者なのです」

「は?」


正気ですか?

それとも俺は寝てますか?


とんでもないぶっこっみをかけれらて、ドン引きはなはだしかった俺が、異世界アンタ―シーに赴いたのは、それから一週間後のことだった。


いや、正直、おもしろそうで……

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