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異世界マンガ的聖女の降臨

 一月一日。


 参拝客でごった返す境内を、あたしはお母さんと並んで歩いた。目の前に兄の背中があって、その隣にお義父さん。兄は時々あたしをチラッと振り返り、それを両親に悟られないようにキョロッと周囲を見回してお母さんに話しかける。


 手が冷たくてハァーと息であたためたら、兄が「んっ」と手袋を渡してきた。


「持ってきたけど使わないから」


 白地に雪の結晶みたいな模様がついてるよくある手袋はあたしにはぶかぶかだ。


「ありがと」


 うれしい半面、あたしたちをニコニコ見守る両親に罪悪感をおぼえる。だから、賽銭箱に五十円玉を投げ入れて手を叩いたとき、あたしは神様に願った。


 ――堂々と兄のことが好きって言えるようにしてくださいっ!


 でも、間違ってもあたしはこんな結果望んでなかった。


 そりゃあ、兄のいない世界に行けばいくら「好き」と叫ぼうが構わない。でも、神社で願って転移するなんて異世界マンガでもありえない。神社の神様とはまったく無関係な神殿であたしが聖女になるなんて。



 目を開けたら本殿があるはずだった。でも、あたしの前には白地に金の縁取りがある高級そうなローブをまとった人々が平伏している。参拝客も両親も兄の姿もなく、あたしは祭壇みたいな円形の舞台の上に一人ポツンと立っていた。足元には魔法陣っぽい模様が描かれている。


「聖女様!」


「これで王国は救われる」


 当然あたしが考えたのは『これは夢だ』ってこと。


 頬をつねる間もなくあれよあれよと白ローブの人々に囲まれ、一番偉そうな髭のおじいさんがあたしのダッフルコートを脱がせてローブを肩にかけた。頭にヴェールをかぶせられ、ふたたび祭壇に一人になったと思ったら国王陛下に謁見、――ではなく国王陛下があたしに謁見に来ていた。


 展開がファスト映画並みに速いけど、されるがままになっているのは夢だからだ。


 これが夢ってことは初詣に行った神社で気を失ったってこと。あとで一緒に●●とおみくじ引こうと思ってたのに、早く目を覚まさなきゃ――、と思った瞬間ゾワッとした。


 兄の名前が出てこない。名前どころか顔も声もぼんやりして思い出せない。それなのに、一緒に過ごした日々と恋心はちゃんと覚えている。


「おおおぉぉっ!!」


 地面が揺れるようなどよめきで我に返ると、国王があたしの前に跪いていた。捧げ持っているのはまばゆい光を放つ立派な剣。


「聖女様の御力により聖剣が誕生しました!」


 いや、知らんがな。

 

 今それどころじゃないのに、見ればあたしの両手がキラキラ輝いて光の粒が剣に流れ込んでいた。聖女なんかやる気ないのに既成事実作られた感。


 あたしの作った聖剣は復活した魔王を倒すための必須アイテム。聖女は魔王復活と同時に現れ、魔王が滅ぶと力を失う――。そんなようなことを教主と名乗る髭のおじいさんが隣で長々説明してくれたけど、ほとんど頭に入って来なかった。


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