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魔王の秘密と聖女の願い

「あるとき目を開けたら大勢の魔族がぼくを崇めてたって言ったら信じる? それまでぼくは人間だった。ここでもない魔界でもない別の世界で。だから元の世界に帰るために秘宝を集めようと思った」


 あたしの鼓動はどんどん速くなっていた。頭に浮かぶある可能性(・・・・・)があたしを動揺させる。


「帰るのはやめたの?」


「たぶん神力はぼくには効かない。舞踏会で聖女が祝福をもたらしたときあの場にいたんだけど、ぼくには影響しなかった。キラキラは綺麗だったよ、ミエル」


 差し出された手と向けられた笑みに既視感をおぼえ、あたしはじっとタルトの顔を見つめた。


 あたしと同じでここではない別の世界からやってきた魔王タルト。目の前にいる黒髪のイケメンはあたしの知ってる彼だろうか。こんな顔だった気もするし、こんな声だったようにも思う。


 あたしは無意識にタルトの頬に触れ、その手を彼に掴まれた。


「ミエルに出会ってこの世界も悪くないって思えたんだ。秘宝はミエルにあげるからミエルの願い事を教えて」


「……好きな人に会いに」


「恋人?」


 あたしが首を振ると、タルトは「良かった」と安堵したようにほっと息を吐く。


「神力を使わないと会えない相手って気になるけど、ぼくにもチャンスがありそうだよね。ミエルの恋人に立候補していい?」


「魔王と聖女が恋人なんてあり得ない」


「そういうの前にいた世界で後悔したからもう嫌なんだ。あり得なくてもぼくはミエルが好きだし、我慢しない」


 タルトがあたしの前髪をあげて顔を近づけようとしたとき、遠くからパルミエ侯爵の声が聞こえた。

 

「そろそろ戻ろうか」


「どこに?」


 あたしが間抜けな返事をしたのは四人で暮らした懐かしい家が頭に浮かんだから。


「パーティー会場に決まってるだろ、怪盗聖女様」


 そういえばのんびりしてる暇なんてなかった。


 あたしは棚にあったジェリービーンズで偽物の赤色の糖華を作り、鍵をかけて部屋を出た。タルトは魔王の姿になると防犯魔法を元あった通りにかけ、階段の隅で「隠れて」とマントであたしを包み込む。


 足音がすぐそばを通り過ぎていった。アマンディーヌ伯爵とパルミエ侯爵のようだ。ガレット公爵はたぶんまだ王太子の相手をしてるのだろう。


「魔法陣はそのままだが、本当に侵入者が?」


「フランという名に心当たりがないのなら、おそらくヤツがガレット公爵の鍵を盗んだ張本人だ」


 ぼくじゃないよ、とタルトは小声で囁き、あたしを抱いたまま地上までヒョイヒョイと跳んで上がった。

 

 庭園ではヌガティーヌの隣で王太子が笑顔を引きつらせ、ガレット公爵は二人のそばで気もそぞろに視線を彷徨わせている。


「ミエル、次のターゲットは決めてあるの?」


「パルミエ侯爵家の〝黄金色の糖華〟。今なら部屋にいないから探るのにちょうどいい」


 王太子がチラッとこっちを見て、ヌガティーヌがそれに気づいて頬を膨らませた。あたしは彼らが見ている前でタルトの腕に手を絡ませる。


「殿下が睨んでる」


「気にしなくていいの。殿下にはヌガティーヌ様がいるんだから」


 クラスメイトの平民女子たちからの視線が痛いけど、ヌガティーヌに目をつけられて毒殺されるよりマシ。


「ねえ、タルト。恋人ってことにしようか。あたしのこと手伝ってくれるならその方が便利だし」


「言い方が素直じゃないな。結構ぼくのこと好きなくせに」


 タルトが不意打ちでキスをして、周りでどよめきが起こった。頬がカアッと熱くなり、あたしは逃げるように庭園を後にする。


「待ってよ、ミエル」


 タルトの足音が追って来る。ガレット家本邸の客間に続く通路であたしに追いつき、隣に並んで指同士を絡ませた。


「結構好きかも」


 素っ気ないあたしの告白にタルトはフッと頬を緩める。手をつないだまま、あたしたちはパルミエ侯爵伯爵の部屋を目指した。



 

【快盗聖女は帰りたいッ!~七つの秘宝をめぐる聖女と魔王のおかしな関係~】


―― 完 ――

 






いつか続きを書くかも。

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