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人獣見聞録-猿の転生 Ⅰ・猿猴が月に愛を成す  作者: 蓑谷 春泥
第3章 キャッチミー・イフ・ユーキャン
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エピローグ 幻日/You Only Live Once

 古の都は今しも、束の間の喧噪を、乗り越えようとしていた。


 いつかの朝のように、3つの日輪が山際で輝いている。斜めに差しこんだ日の光に、眩しくて目が眩みそうになる。それでも今度は、目を凝らし光に向き合ってみた。朧な虹色に陽光が霞む。……それは太陽の暈が見せた幻日だった。


 風が吹いて、俺の体から、野風の柔毛(にこげ)を攫って行く。淡い日差しの下に、俺はやっと人間の肌を曝した。

 

 リリの体温を近くに感じる。俺とリリは、塔の影から足を踏み出した。遠くにアテネやスペクトラ、彼に支えられたカミラタたちのシルエットが浮かぶ。その後ろには戦いを止めた、何百何千という、兵士たちの姿がある。


 あの焼きつくような孤独や、凍りつくような罪の意識は、もう胸の内に棲みついていなかった。俺の新しい人生が、ここから始まるのだ。不意にそう実感する。


 人生は一回きりだ。一度命を落とせば、再び生を受けることは無い。


 だからこそ凡庸で、小人(しょうじん)で、一匹の猿でしかないこの俺は、他の誰のものでもないこの人生を、この人生の中で、やりなおしていくしかないのだ。不器用なこの猿の転生を、何度でも繰り返してやろう。


 届かない月は沈み、(うろ)のように(くら)い空を、太陽が染め始めていた。


 


 


 


『転生編』 完

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